「変な女子」誘蛾灯男
「また一雪が変な女の子に絡まれてる件について」
翌朝、教室へと入った俺への音琴の第一声がこれである。
確かに俺は今、音琴と言う名の変な女に絡まれているが、こいつが言っているのは恐らく昨日の牧野さんの件だろう。
一体どこからその情報を得たのか……女子の情報伝達ネットワークは恐ろしい。
「こらこら六花、その言い方だと天音さんも変な子って言ってるように聞こえるよ?」
「二菜ちゃんが変な子なのは事実よ事実、だって見なさいよ、このもさーってした男が好きとか確実に変よ」
「よし、そのケンカ買ったぞ音琴……というかお前も変な女だからな?」
誰がもっさりした男だ。
まぁ、二菜が変な奴ってところは否定はしないが。
恐らく、俺の人生においてアイツ以上の変な奴というのは二度と現れないと思う。
……昨日の牧野さんも、正直たいがいだったけどな!
「まぁ天音さんが変な子かどうか、というのは置いておいて、一雪は春になると女の子を引っかける習性でもあるのかい?」
「そういや、二菜ちゃんの時も春だったわね……」
「俺を変な虫みたいな言い方をするのはやめろ、前回も今回も完全に不可抗力だ」
二菜にしたって牧野さんにしたって、俺の知らない所でいつの間にか俺を知ってたパターンだからな。
こっちから積極的にいったわけでは、断じてない。
「だいたい、俺はいつも言うように宮藤さんみたいな清楚系女子が好きなんだ、勘違いするなよ」
「ふふ、ありがとう藤代くん」
「いえいえ、というわけで宮藤さん、俺とお付き合いしてもらえませんか?」
「ごめんなさい、私、彼女のいる男の子とはちょっとお付き合いできないかな?」
「おう……泣けるぜ……」
何が泣けるって、宮藤さんがついに俺の告白を軽く流すようになってしまったことだ。
去年の今頃なら、ちょっと焦ってくれたというのに……時間の流れとは残酷なものなのだなぁ。
「それに、今の藤代くんは私と天音さん以外にもちょっかいかけてるみたいだし? 浮気性な男の子はちょっと……ね!」
「ご、誤解です宮藤さん! 昨日のは本当に俺のあずかり知らぬことで……!」
「ふふっ、どっちにしろ可愛い彼女さんがいる藤代くんとは付き合えません!」
「成長したわね三月……!」
はぁ、今後はもう宮藤さんにこのネタはダメか。
なんかもう適当にあしらわれてる感がすごい……おのれ天音二菜!!
「それで、昨日一雪に告白してきたーって子は、どんな子だったの?」
「そうそう、それを聞きたくて朝早めに登校したのよ、今度はどんな物好きがあんたに告白なんてしたわけ?」
「あー……うん、まぁ、個性的な子だったぞ、うん」
そう言いつつ、昨日あったことを3人に話し出した。
最初はにやにやとしていた音琴の表情が、だんだんと「うわぁ」と言いたげな表情に変わり、五百里は五百里で笑いを我慢しきれずに、背を丸めて肩を震わせていた。
宮藤さんに至っては、何とも言えない……なんだろうね、この表情?
まぁでも、そういう反応をしたくなるのはわかる。
俺も昨日、音琴みたいな表情してたと思うし。
「あんたはほんと……ほんっとに、変な子にひっかかるわねぇ……ちらっと聞いてた以上に変な子なんだけど……」
「引っかかってねぇよ、向こうが勝手に引っかかってきたんだ」
「よかったね一雪、いわゆるモテ期ってやつが今まさに到来してるよ?」
「嬉しくねぇ……まったく嬉しくねぇ、しかもなんだその顔、笑うなら笑えよ!?」
ちっ、人ごとだからってこいつらは……。
「で、どうするのその牧野さんって子」
「どうするもこうするもないだろ? というか、どうしろってんだよ」
「そうよねぇ、あんたには二菜ちゃんがいるもんねぇ? 全校生徒どころか一般の人もいる前で熱烈な愛の告白♡をした二菜ちゃんが!」
「おいばかやめろ……おい……おい! 何スマホ取り出してんだお前やめろよ!?」
やめろ、そのファイルを、動画を開こうとするんじゃない!
くそっ、絶対いつかそのファイル、この世から抹消してやるからな!
いつまでも俺が黙っていると思うなよ、音琴……!
「まぁ、牧野さんについてはその気はないから断る」
「そうね、断るならさっさとした方がいいわよ、二菜ちゃんが怒らないうちにね」
「まぁ、そうだな……あいつが怒るとか、あんま想像できないんだけど」
「それは今まで……ま、いいわ、いい? とっとと断るのよ?」
「はいはい」
その返事をした直後に、始業のチャイムが校内に鳴り響いた。
席へと帰っていく五百里と音琴を見送りチラリ、とスマホを見ると、二菜から何通もメッセージが入っていた。
何やってるんだか、あいつは……。
ぽちぽち、と適当にメッセージを返すとアプリを終了させ、やってきた担任教師のHRへと耳を傾けた。