新しい1年
4月。
その日もまた、抜けるような青空が広がる、桜舞う日だった。
今日は高校生活最後の1年が始まる始業式。
とはいえ、これまでの生活から何かが変わる、ということもなく、いつも通り登校し。
「おはよう、一雪」
「おっす五百里、音琴……今年はお前ら2人も同じクラスかぁ」
「三月も同じクラスだし、なんか作為的なものを感じるわねー!」
「今年もよろしくね、藤代くん」
「相変わらず宮藤さんは可愛いですね結婚してください」
「ふふっ、はいはい」
「軽く流された!?」
友人とも同じクラスになれた事を喜び合い。
そんないつも通りだけどちょっといつも通りじゃない、新しい年度が始まり。
俺たちもついに高校生活最後の1年、そろそろ本格的に大学受験も考えないといけない、そんな春。
春の陽気に誘われて、どこか浮いた空気の中、昇降口へと歩いていく。
ああ、いい天気だ……今日はあいつを連れて、どこかへ行ってもいいかもしれない。
そうだ、どこかで弁当でも買って、お花見でもしようか。
うん、そうだな、それがいい、去年はあいつとお花見なんてしなかったし、今年も色々とあってできなかったし。
そう思い、いつものように待ち合わせ場所の昇降口前へと向かうと、何やらざわざわと騒がしい。
なんだなんだ、一体何があったんだ? と、疑問に思うのも一瞬で。
昇降口前には、いつものように視線を地面に落とし、人の話を聞いているのかいないのか、微妙な表情をした二菜と、真新しい制服を着た、どう見ても新入生な男子数人が騒いでいた。
なるほど、なるほど。
いつものやつね、把握しました。
「悪い、待たせたな二菜」
「あっ、先輩! 大丈夫です、待ってないです!!」
「ん、……そんじゃ帰るか」
「はーい! ……それじゃあすいません、失礼します」
ぺこり、と頭を下げた二菜が、俺の隣に並んだのを確認して、歩き出す。
……のを、先ほどまで話してた男子が黙って見ていられるわけもなく。
「えっ!? あ、あの、今俺らがその子と話してたんだけど!?」
「あー、悪い、もう今日は俺たち帰るんで、今度にしてくれ」
じゃあな、と言い残しその場をさっと離れる。
下手に食い下がられると面倒くさいしね……思えば、俺もこの手のあしらいが慣れたもんだ。
「なんですか先輩、なんか苦い笑いを浮かべてますけど」
「いや、別になんでもない……ていうか、お前はまた……なんでそうやたらと男にちょっかいかけられるんだ」
「し、知りませんよぉ! そう思うなら、明日からは先輩が先に待っててくださいよ!」
「まー先に昇降口に行けてたらな……はぁ、明日からもお前、また大変そうだな」
去年を思い出し、思わず遠い目をしそうになる。
下駄箱に入る数々のお手紙、それをいちいち断りに行く二菜……に付き添う俺。
新入生は去年何があったかなんて知る由もないだろうから、しばらくは大変だろうなぁ。
「くふふー! あれあれー、もしかして先輩、やきもち焼いてるんですかー?」
「……違うし、またお前の告白現場に連れまわされるのかと思うと、億劫なだけだし」
「もー! またそんなこと言ってっ! わかります、わかりますよー心配なんですよね、先輩っ!」
「はいはい、そうだねそうだね」
「大丈夫ですって、私は先輩しか見てませんし、これからも先輩しか見えませんからっ!」
「さよか」
「さよです!」
ニヤニヤと俺を見上げる二菜の視線が……くそうぜぇ!
でも、こいつの言ってることもあながち間違いではないのが痛いところだ。
「先輩は浮気とかしないでくださいねっ」
「ばーか、俺はそういうのないってわかってるだろ」
「そういって、先輩は変なところで女の子から人気になりそうだからなぁ……」
「ないない」
もし本当にそうなら、俺の初めての彼女がこいつ、なんてことはなかったんだよ。
ウケる。
「それはそうと、今日は花見でもして帰るか」
「おー! いいですねーお花見! お弁当作ってくればよかったですね……」
「まぁ急だったしな、どっかで食べるもの買って行こう」
「了解です! ……くふふー! なんかこういうの、恋人! って感じでいいですねっ!」
「はいはい、言ってろ」
俺の左手をぎゅっと握って笑みを浮かべる二菜から視線を外し、そう答えたが、実際のところ。
やっぱりいいなぁこういうの……と、俺も少しだけ、思うのだった。
*
「藤代先輩! 私と付き合ってください!」
どうしてこうなった……。