今日は何の日?
※本編完結後のお話しです。
「……二菜、すまん、他に好きな子が出来た」
「え……」
ぽろり、と二菜のお箸から卵焼きが落ちた。
あーあー、皿の上ならともかく、テーブルの上に落とすなよ、ちゃんと拭いてるから大丈夫だけど、流石にそのまま食べるのはなしだよな?
「勝手な事言ってるのはわかってる、でもすまん、俺は本当にその子が……」
あれ、おかしいな。
俺の予想では、そろそろ二菜が大騒ぎして、「なんでですかー」って言い出すと思ってたんだが……なんで何も言わないんだ?
ここまで言ってもまだ何も言わない二菜を不思議に思い、テーブルへと落としていた視線をちらりとあげた。
すると……。
「………………」
ぽろぽろ、と大きな目から大粒の涙を落とし、呆然とした表情の二菜がいた。
流石の俺も、これにはギョッとした。
え、何!? なんでそんなボロ泣きしてんの!? いやいや、びっくりするかなーくらいは想像してたけど、こんなに泣かれると思ってなかったんだけど!?
「お、おい、二菜……?」
「…………です」
「え、何? なんて言ったんだ、今?」
「やだって言ったんです……!」
やばい、どうしよう……ガチ泣きだこれ。
「ごめんなさい先輩……私に何か悪い所があったなら、直しますから……だから、そんな事言わないでください……なんだってしますから……!」
「お、おい、二菜……二菜?」
どうしよう、今更実はとか言い出すの、すっごいその……あれなんだけど!
「好きなんです……先輩のこと、好きだから別れたくないよぉ……!」
「二菜! こっち見ろ!」
「!」
びくっと肩を震わせた二菜が、怯えた目を俺に向けてくる。
あー、くそ、ほんと言いにくい……!
「あのな、二菜」
「はい……」
「はぁ……悪い、今日、何月何日か言ってみろ」
「えっ……今日、ですか? それがなんの関係が……」
「いいから、それで全部解決するから」
まさか、朝からこんな大ごとになるなんて。
適当に流してもらえる、と思ったんだが……視線をうろうろと彷徨わせ、スマホに目線を落とした二菜の動きがぴたり、と固まった。
ああ、ようやく気づいてくれたか。
そう、今日は4月1日。
世間ではいわゆる……。
「えいぷりる、ふーる」
「そういうこと」
ズズ、と味噌汁を飲みながらそう答える。
ああ、朝から美味い味噌汁が飲める幸福。
外もいい天気だし、今日はいい一日になりそうだ、なんて意識を飛ばして見ても、現実が変わるわけもなく。
二菜を見ると、先ほどとは違う意味で俯き、肩を震わせていた。
これはまずい。
「お、おい二……」
「もーっ! 先輩のばか! ばーかばーかばーーか!!」
おお、怒っていらっしゃる。
ばかばかと連呼されるが仕方ない、先程あれだけ泣かれたあとだ、甘んじてばか呼ばわりを受け入れようではないか。
*
「なぁ、二菜」
「なんですか先輩のばか」
「いや、そろそろ膝の上から降りてほしいなと……」
「何か言いましたか?」
「イエナニモイッテマセン」
俺の膝の上に座ってもたれかかった二菜が、首だけ振り返りジロリと俺を睨んできた。
怖い。
俺は一体、いつまでこいつを膝の上に乗せ続ければいいのか、そろそろアイドルとシャンシャンしたいんで降りてもらえると非常に助かるんだが……いまだ降りる気配はない。
しかも、まだ怒っていらっしゃる。
エイプリルフールの遊びみたいなもんにそこまで怒らなくても……!
「だいたいですね先輩!」
「あ、はい」
「私が同じことを先輩に言ったらどう思いますか! 悲しくなるでしょ!?」
「いや、ならないな」
「むーっ! むーーっ!!」
「痛い、痛いって二菜! やめろ! 膝を叩くな!」
いつものようにぺちぺちと叩くならまだしも膝頭をぐーで殴るのはやめろ!
二菜の手を掴み、変わらずむーむー怒っている二菜の動きを止める。
このむーむー星人め!
「はぁ……お前は冗談でもそういうこと、言わないだろ?」
「……むー……言いませんケド……」
「そのー、なんだ……お前が俺のこと、好きなのはわかってるっていうか、疑ってないっていうか……あーもー! 言わせんな恥ずかしい!」
くそ、口に出してこんな事言うのは本当にキツい!
「その言い方だと、私が先輩信用してないように聞こえるんですけど」
「それは俺の努力不足ってことで一つ……」
「ふんだ! じゃあもっと努力してください! ちゅーしてください!」
「しかし断る」
「もーっ! なんでですかー!!」
ぐりぐりと胸元に後頭部を押し付ける二菜に溜息をつきつつも、いつになったら機嫌直してくれるのかな……エイプリルフールだからって、迂闊なことを言っちゃダメだなと、反省するのだった。