閑話:残念美少女!
「天音さーん、次の授業、教室移動だってー」
「あ、はーい、今行きますねー」
榎本さんから、声がかかりました。
ふむ、次の授業は移動ですか……。
教科書と筆記用具、それから貴重品をまとめて手に持つと、入り口で私を待ってくれている榎本さんと三浦さんのところへと向かいました。
「すいません、お待たせしました」
「はいはい、それじゃあ行こうねー」
そういうと三浦さんが私たちを先導して歩き出しました。
はぁ、それにしても移動ですか……憂鬱です。
何が憂鬱かって、移動があるせいで先輩にメッセを出せないのが憂鬱です。
先輩成分欠乏症で、干からびてしまうかもしれない! 二菜ちゃんぴんち!
「あれ? あーちゃんなんか憂鬱そうな顔してるね?」
「……わかりますか?」
「そりゃわかるよ、休憩時間になったらいっつもニコニコしてるもんね?」
「ですね、今の天音さんからは覇気を感じません」
覇気って。
私普段、そんなの出してるんですか?
なんちゃら王に私はなる! 的なあれですか?
「まーあーちゃんが元気ないのはほら、あれでしょ」
「ああ……あれですか……ほんとお好きですね、天音さんは」
「えへへ、めっちゃ好きぃ……」
「はいはいご馳走さま」
もうこの2人には私が誰を好きなのかはバレているので、わざわざいう必要もありません。
え、私が誰が好きか、って? そんなの決まってるじゃないですか、先輩ですよ先輩、藤代一雪先輩です!
あー、お話ししたい、というかもう早くお昼休みにならないかなー!
「なーんて言ってると……あーちゃん、あそこあそこ」
「あそこ? ……あっ!」
三浦さんが指差した先。
中庭の自販機のところに、先輩がいました。
くふふ、先輩またコーヒー飲んでる。
ほんと先輩ってコーヒー好きですよねー、なんか気がついたら家でも外でもコーヒー飲んでて……そんなところも好き!
「あー、香月先輩マジイケメンっすなぁ……彼女さえいなければなぁ……!」
「天音さんも香月先輩が好きになるならわかるけど、なんで藤代先輩?」
「え、なんでって、カッコいいじゃないですか、私の先輩」
「私のて! うーん、わからん……あーちゃんの美的感覚はあーしにはわからん……!」
「ふっ……三浦さんにはわからないでしょうね、このレベルの話は」
「なんだとー!」
まぁ、わかられても困るんですけど。
香月先輩に隠れて目立ちませんが、先輩って地味ーにモテる気がするんですよね、私。
なんていうか……派手にモテないけど、こう恋心を内に秘める的な感じで?
何気に私のライバルは多分、宮藤先輩だと思います、ええ。
「せーんぱーい、なーにやってるーんでーすかー?」
「うは、あーちゃん怖いものなしかっ!」
「大きい声出すから、めっちゃ注目されてるし……」
「ふふーん、私の愛を止めることは誰にもできないのです!」
ぱたぱたと手を振っていると、きょろきょろと視線を彷徨わせた先輩が、こちらに気がつきました。
へへへ、メッセできないのつまんないなーと思っていましたが、こうやって直接会えると得した気分になりますね。
……あ、なにやら先輩が口元を指差してパクパクと……なるほど、口の動きで言いたいことを理解しろですねわかりました。
なになに……。
「あ、い、し、て、る……愛してる! やだ先輩ったら……!」
「いやいや、あーちゃんあれ絶対そんなこと言ってないから、めっちゃ呆れた顔してるから」
「多分、『何してんの』とかそんな感じですね、間違いない」
「ぶー、夢がないなぁ2人とも……」
「だって、絶対そんなこと言わないっしょあの人」
「えへへへへそういうところも好きー」
「わからん……あーしにはあーちゃんが本当にわからんよ……!」
こうやっていつまでも先輩と心と心で会話していたい気分ですが、流石に時間も時間です。
そろそろ、移動しなければ次の授業に遅れてしまいます。
名残惜しいですが……! 本当に! 名残惜しいですが……っ!!
苦渋の決断を下した私は、ぱたぱたと先輩に手を振りながらその場を離れました。
するとなんと! 先輩も手を振り返してくれたではありませんか!
くふ! くふふふふ! これはもう先輩が私にコロッと絆されるのも近いですね!
……お昼まであと2時間!
「よーし、もうちょっと授業、頑張るぞー!」
「あーちゃんはほんと、意外と単純だねぇ……」
「ていうか、藤代先輩が絡んだら残念すぎる……勿体ない……」