同じクラスの沢……なんとかくん
「なぁ藤代、ちょっといいか?」
ある日の昼休み。
天音との昼食を終え教室へと帰ってきた俺に、声をかけてくる奴がいた。
五百里以外で話しかけられるのは大変珍しい事だ、こっちから話しかけに行くこともないんだけど。
というか、こいつなんて名前だっけ……?
「なんだよその『こいつ誰だっけ……』って顔」
「クラスメイトだってことはわかる」
「沢田だよ沢田! てか去年も同じクラスだっただろ!?」
「そうだったかな……そうだったかも……」
そうか、彼は沢田君と言うのか。
去年同じクラスだったというのは怪しいものだ、本当は知り合いのフリをして近づいて来た詐欺の可能性は高い。
この世では消防関係を装って近づいて来る訪問販売なんてのも普通にある事なので、信用などできるはずもなく。
「悪い、これなんだけど――」
そう警戒している俺に、うっすらと頬を染めながら沢田くんが一通の手紙を手渡して来た。
の、だが。
………………おいおいおい、そっちかよ。
「悪い……お、俺、女の子の方が好きだから! い、いや! でもまぁ、うん、お前の性癖を否定するつもりは」
「何言ってんだよ藤代、天音さん! 天音さんに渡しといてくれって事だよ! なんかお前、天音さんと仲いいんだろ!?」
ああなんだ、天音宛か。
はぁ、びっくりした……高校生男子が頬を染めてもじもじしてるのは物凄い気持ちが悪かったから、危うく叫びだしそうになったぞ。
全く、周りもぎょっとした目をしてるじゃないか。
「俺に渡さず、天音の下駄箱にでも入れとけよ」
「天音さんの下駄箱は大人気だからな、今更入れても目立たないだろ?」
「俺が渡したって変わらないと思うけど」
「そう言わずに頼むよ、な! うまく行ったらメシでも奢るからさ!」
「……期待はすんなよ」
その手紙を受け取ると、そのまま鞄の中に入れておく。
嬉しそうな顔をしているがさてさて、天音がこれを見てどう思うか……。
*
さて、どう渡したものか。
昼にさ……沢口? から渡された天音宛の手紙を鞄の中に入れたまま、放課後の帰り道、天音を隣に連れて歩いていた。
なんとなく、こんなものを天音に渡すのかと思うと気恥ずかしい気がするのが不思議だ。
別に俺がこいつに告白するわけではないのに。
……うん、よし。
こんなものはさっさと渡して、終わらせてしまうのが一番だな。
「天音」
「はい、なんですか先輩?」
「えっと、これなんだけど……」
そう言って、天音に沢口から預かった手紙を手渡した。
最初きょとん、とその手紙を見ていた天音だったが……見る見るうちにその頬が染まっていく。
ん? なんだ、この反応?
「せっ、先輩っ、これ、もしかしてっ」
「ん? ああ……まぁ、そうだな、うん、お前が思ってるもので、多分あってる」
やはり、他人の物とはいえこういうものを手渡すのはテレる。
天音の表情を見ていられず、つい視線を逸らしてしまった。
おっと、そうだ。
「悪いんだけどそれ、帰ってから読んでくれるか? さすがにここで読まれるのは……」
沢崎に悪い。
「は、い、わかりました……でも、先輩」
「うん?」
「くふふ、私の答えはもう、決まってますから」
「おう、そうか」
「はいっ! 今日はお祝いですね! ケーキ……は時間がないのでご馳走にしましょう!」
「お、おう、そうか……」
そんなに喜ぶことか、それ?
まぁ、それはさておき。
沢……わからん。彼の恋は一体、どうなるんだろうね……?
どこか機嫌よく、今にもスキップでも始めそうな隣の天音を見ながら、何かしっくりこないものを感じるのだった……。
その後。
「先輩のあほーーーーーっ!!」
「なんで!?」