友人から見た彼と彼女
「最近、どうなのアイツは」
グラウンドを見下ろしながら彼女……音琴六花はそう、僕に尋ねてきた。
同じように僕もそちらを見下ろしたけど、誰もいないのはわかっている。
なんとなく視線をやるところがなく、そちらに目を向けているだけなのも。
「うーん、仲良くはしてるみたいだよ? 一雪がちょっと引き気味だけど」
「アイツには勿体ないくらい可愛い子なのに、何が不満なのかしらねぇ……?」
「本人はその辺がちょっと怖いらしいよ」
「って言ってる割には突き放さないし面倒見よくしてるし……アイツの事はよくわからないわ」
やれやれ、と肩を竦める六花に苦笑してしまう。
まぁ、確かに一雪は友人の僕でも、時折よくわからないことがある。
決して悪い奴じゃないし、なんやかんやと口では言うけど最終的には手を差し伸べてくるような優しさもある。
ぱっと見、背が高くて目つきも結構悪いから、怖がられることが多いんだけど……。
「……アイツにビビらずに初見からガンガン来るのって、そういえば二菜ちゃんが初めてじゃない?」
「その条件だと六花も除けば、かな?」
「中学の頃は、今ほどデカくなかったからね……全く、背ぇばっかりぐんぐん伸びて」
「あはは、昔は僕ら、みんな同じくらいの身長だったもんね」
「五百里に抜かれ一雪にも抜かれ……気付けば私だけ置いてけぼりよ! まぁ今は二菜ちゃんがいるけど」
――――僕……香月五百里と六花、そして一雪は、中学の頃からの友達だ。
もともと三人ともが違う小学校に通っていたのでそれまで面識がなく、幼馴染なんて事もない。
一雪と仲良くなったキッカケは、なんだったか……聞いてる音楽の趣味が似ているとか、そんな事だったような記憶は微かにある。
そして僕が六花と知り合ったのは、一雪を介してだった。
もともと彼女と仲良くしていたのは一雪の方で、本人曰く「たまたま隣の席だっただけ」とは言っていたものの、今思うと彼が女の子と話すなんて、本当に六花くらいの物だったから、本当はほかに何かあったのかもしれない。
なかったのかもしれない、まぁそこは聞いていないので、僕にはわからない。
ただ、今だから思うのは、当時一雪は多分、彼女の事が好きだったんじゃないか、という事だ。
それに気づいたのは六花と付き合うようになってからだというのが、酷い話だと自分でも思う。
そういった罪悪感があるからこそ、余計一雪にはいい人との出会いがあってほしい、と思っていたわけだけど……。
「一雪は本当に嫌なら、天音さんの事も突き放してると思うよ?」
「まぁあいつ、ちょっとツンデレなところがあるからね」
「あはは、確かにそうかもしれないね……でも天音さんがあれだから、そのうち落とされるんじゃないかな」
「ほんっと、二菜ちゃんはあいつのどこがそんなに好きなのか、一回聞いてみたいわ」
確かに。
というか、あの一雪が年下の女の子と知り合う機会なんて、なかったと思うんだけど。
あるとすれば……去年の冬休みとか、夏休みかな……?
そのあたりはいつか、本人たちから聞ければいいな。
「ほんと、いい風になるといいのにね、あの2人」
「そうだねぇ……」
まだまだ前途多難だと思うけど。
ちらりと教室の前の方にいる彼に目を向け、小さくため息をつくのだった。