天音は異様に距離が近い
「先輩先輩!」
「聞きたくないしやりたくない」
「実は私……ってまだ何も言ってないのに断られた!?」
当然、断られるに決まっているだろう?
むしろ、なぜ最後まで聞いてもらえると思ったのか、これがわからない。
じろりと天音を見ると、きょとんとした目をしていた。
…………うん。
「それでですね先輩、私行ってみたいところがあるんですよ!」
「あれ、何事もなく話し出した!?」
「もちろんです! 先輩見てください、ここなんですけど……」
そう言って何事もなかったように、こちらにすっとスマホの画面を差し出して来る。
まぁ、いいんだけどさ……。
それにしても、差し出された画面が逆で見辛い事この上ない。
何か動物が映っているのはわかるんだが。
「天音、画面が見辛いからこっちにスマホ貸してくれ」
「えー、先輩に渡しちゃったら操作できなくなりますよ?」
「それはまぁ、確かに?」
「ほらほら先輩、こっち来てくださいよ、逆だと見辛いですよね?」
「はいはい」
そう言いつつ、目の前に座っていた天音の隣に移動し、腰を下ろした。
ふわっと漂う、天音のなんとも言えない香りが非常に心臓に悪い。
目の前にいる時はわからないのになぁ。
「それでですね、このカフェなんですけど」
そう言って、天音がさらに距離を詰めてくる。
先程まで少しあった距離は、もはや拳一つ分もない。
というか。
「天音、近い」
「そうですか? でもこれくらい近付かないと、画面見辛くないですか?」
「それにしたって近いだろ、もうちょっと慎みをだな」
「まぁまぁ! 気にせずに見てくださいよほらほら、うさぎカフェですってー!」
可愛いですよねー、と嬉しそうにスマホを操作しながら、次々と在籍うさぎを見せてくるがこちらとしては気が気ではない。
耳の垂れたのやら、これうさぎか? と思うほどの大きなうさぎ、隣の天音。
あー、なんかクラクラしてきた……クラクラ……。
「へへーっ」
「って、あっ!? 天音お前!?」
意識を半分飛ばしていたのが悪いのだろう。
気がつけば天音が俺の肩に頭を乗せ、さらに左腕をがっちりホールド! って何してんだこいつ!?
「あのー……天音さん?」
「はい、なんですか?」
「何、この体勢?」
「いえー、なんかあそこまでくっついたなら、こうするのが自然かなぁ、と」
そういうと、それ以上どこにスペースがあったの!?
と言いたくなるほどに、さらに距離を詰めてくる。
そこに加えて少し甘えの含まれた声で「先輩」なんて言われた日には……もう!
「調子乗んなよ、天音」
「あいたーっ!?」
デコピンである。
本日はいつもより、強めに弾いております。
「ちょ、先輩酷いんですけどー!?」
「今のは調子に乗ったお前が悪い、それでそのカフェに行きたいのか?」
「あ、そうでした、その話でしたね! それで……」
全く……本当にこいつは、異様に距離が近くて困る。
もう少し年頃の女の子としての慎みを持ってほしいものだ……。
これから、ちゃんと教育してやらねば!
その後は、うさぎカフェの何がいい、という話に終始することになったが。
もちろん、天音と2人で行こう、という話は「まぁ、そのうち」と流すに留めさせてもらいました。
だってね、県外で天音と2人とか、絶対危ないよね?
うさぎカフェに、知らないお姉さんが待ち構えてたら怖いもんね?