タピオカって美味しいの?
「先輩先輩!」
「……なんだ、後輩」
「あれ、どうしたんですか? なんかテンション低くないですか?」
「テンション、低くもなるだろ……」
天音の「先輩先輩!」から始まる話は、だいたい馬鹿な話になると相場は決まっている。
ここ最近のこいつとの会話で俺は学んだのだ。
さぁ、今度はどんな馬鹿な事を言いだすつもりだ、天音二菜……俺は絶対に! ため息はつかない!
そんないつもの帰り道。
視線をとある店先に固定させた天音が、いつものように声をかけてきた。
その先にあったのは……タピオカなんちゃらの店。
少し前流行っていたような記憶があるが……そうか、まだあったのかタピオカ。
思ったよりも息が長いなタピオカ。
「先輩ってタピオカミルクティーって、飲んだことありますか?」
「いや、ないなぁ……なんか甘ったるそうで」
「先輩って、コーヒーもブラック派ですもんね」
「まぁな」
あと、なんとなくタピオカミルクティーなるものに忌避感があるというか。
みんなが喜んで飲んでるのを見ていると、逆に俺は絶対に飲まない! と思ってしまうというか。
あまりに爆発的に流行すると、絶対に乗ってやらない! と意固地になる事ってあるよね。
一時期、五百里が音琴に付き合って嫌というほど飲まされていたのを見ていたのも、それに拍車をかけていた。
あちこちの店で飲み比べをする音琴に付き合えるのは、恐らく五百里だけだ。
俺は早々にリタイアさせてもらったが、「しばらくタピオカは見たくない」と死んだ目で呟く五百里というのは、なかなかに新鮮だった。
まぁ、それはともかく。
「天音は飲んだことないのか、あれ?」
「クラスの女の子たちの間で流行ってる、っていうのは知ってたんですけどねー」
「一時期SNSなんかでも、みんな写真撮ってたもんなぁ」
インスタ映え! と言ってニュースにもなってたのを見ていたが、正直何が楽しいのか俺にはよくわからなかった。
というか、タピオカが可愛い! と喜んでいる女の子たちをみて、「女の子って謎な生き物だよなぁ」と思っていた。
俺にはどう見ても、小さい頃見たカエルの卵にしか見えない件について。
「というか、なんでタピオカってこんなに流行ったんだ?」
「なんででしょうね? 実は私も、なんで流行ったのか全然わかんないんです」
「だよなぁ」
「と、いうわけで! 先輩っ、私とタピオカデビューしましょう!」
「なんだよタピオカデビューって……」
「読んで字のごとくです! さらに高校生カップルらしく、2人でラブラブな写真を撮ってー、インスタデビュー! これですよ!」
キラキラと大きな目を輝かせながら、俺を見上げる天音。
はい、これが今日の馬鹿な事です。
「くふふー! これできっと、私たちにも流行った理由がわかりますよねっ!」
「お前の場合タピオカ云々はついでだろ、絶対そうだろ!? 絶対やらないからな!」
「もーっ! なんでですかーっ!!」
そうやって俺の写真をネット上に上げて、ネットで共有するつもりだな!?
今あいつを攻略してます、応援してくださいね☆ みたいな使い方をするに違いない。
「ほら、馬鹿なこといってないで帰るぞ」
「ぶぅ……はぁい……はぁ、いんすたでびゅーしたかったなぁ……」
「したいなら、今日の夕飯とか、そういうのでしてください」
「あ、それもそうですね! くふふ! タイトルは「♡大好きな先輩とごはん♡」これしかありませんねっ!」
「はぁ……まぁ、勝手にしてくれ……」
おっと、ついついため息をついてしまった。
「早速今晩からデビューです!」と息巻く天音に、今日もため息を我慢できない、そんな夕方だった……。