ちくわにチーズは美味しいよねという話
「それで、朝の続きなんですけどね?」
「あ、あの話まだ続くんだ」
朝の話……というと、俺と天音が同い年だったら、という仮定の話だ。
そう言いながら天音の手から弁当箱を受け取ると、早速蓋をあける。
ふむ、今日はそぼろご飯か、この前リクエストしたのを覚えていてくれたらしい。
端に添えられたほうれん草がにくい。
「おー、今日も美味そうだな……いただきます」
「はいどうぞ、めしあがれー! ……それで、同学年じゃない最大のデメリットがですね!」
「あ、ほんとに続くんだ」
「卒業アルバムに一緒に載れないことと、どうしても1年、離れ離れになる事です! 酷いと思いませんか先輩!?」
「はいはいそうだねそうだね」
「聞いてない!?」
聞いてはいる。
聞いてはいるが……なんというか、本当に反応に困るんだよ!
正直、そんなことよりもそぼろが美味い。
天音の料理の腕は、やはり相当なものだと改めて思い知る。
「それでですね、やっぱり1年離れ離れって、相当辛いと思うんですよ」
「離れ離れって言っても、学校が違うだけで休日とか会おうと思えば会えるんだろ?」
「休日は会えるかもしれませんけど、平日は夜まで会えないんですよ!?」
「平日も毎日会うつもりなのか……お前の将来の彼氏は大変だなぁ」
「えへへ……大変ですねぇ、先輩♡」
「せっかくのご提案をいただき大変恐縮ではございますが、この度はそのご提案をお受けいたしかねます」
「もーっ! なんでですかーっ!!」
はいはい、ちくわにチーズは美味しいよね。
ちくわにきゅうりが入っているのも好きだが、やはり俺はチーズ派だ。
お弁当箱の中でちょっと溶けているのがいいよね。
それにしても、恋人ともなると学校が別になっても毎日会わないといけないのか。
これまでの人生で彼女なんてできたことがないから考えたこともなかったけど、意外と大変そうだ。
五百里と音琴も、そんな感じなんだろうか? これまで聞いたことなかったけど。
「そこで私考えたんです、飛び級すればいいんじゃないか、と!」
「よく映画とかであるやつな」
「そうですそうです、これなら先輩と合法的に同じ学年になって、修学旅行もいっしょに行けますね、と!」
なんてアホな事を考える奴だ。
それだけのために飛び級を考えるような奴、初めて見たんですが?
まぁ、それはともかくとして……飛び級、飛び級ねぇ。
映画ではよく見る設定だけど、現実のこの国ではあまり馴染みのない言葉だ。
と、いう事は……。
「でも、飛び級って認めてるのほんと一部の大学だけなんですよね……」
「まぁそうだろうなぁ、飛び級しましたーなんて聞いたことないし」
「うっうっうっ……社会が私と先輩を引き裂こうとします……!」
「社会さんも謂れのない罪を着せられて可哀想に」
ああ、お茶が美味しい。
「はぁ……先輩と一緒に卒業アルバムにのりたかったなぁ……」
「自分の写真を丸く切って俺の卒アルの右上のほうに貼るとかどうだ?」
「お休みした生徒の欄じゃないですか、やだーっ!」
「年齢という壁を超えるのは難しいということだな、諦めろ」
そして、残った最後のプチトマトを口の中に放り込み、ごちそうさま。
うん、今日のお弁当も大変美味しかったです。
これで午後の授業も頑張れそうだ。
「先輩先輩っ」
「なんだ、後輩」
「修学旅行は無理ですけど、2人で修学旅行代わりの旅行、行きましょうね! 卒業旅行とか!」
「友達と行ってください」
「もーっ!」
もーっじゃないよ、牛か。
はぁ、とため息をつきながら、天音に弁当箱を返すのだった。
最近、本当にため息増えたなぁ俺……。





