まるで老成カップルのような
土曜の昼下がり。
今日は珍しくバイトもなく、かといって自宅でゴロゴロしているのも勿体ないということで、二菜と2人、散歩がてら買い物へと出かけていた。
買い物、といっても夕飯の食材の買い出し程度で、そこまで大それたものではないのだが……。
それにしても、これでも一応、俺たちは彼氏彼女という関係だというのに、あまりにも色気のない休日だなぁと苦笑してしまう。
これが高校生の休日か、と!
これでも少し遠回りし、公園をぐるっと回るコースをとっているのだが……。
気分はお年寄りのお散歩コースである。
犬でも連れていればなおよし。
「先輩先輩」
「どうした後輩……やっぱ、どっか遊びに出たほうがよかったか?」
「いえいえー! 私、先輩と2人で過ごす、こういうのんびりした時間もいいなぁって思いますよ?」
ちらりと二菜の表情を見ると綺麗な笑みを浮かべており、本当にそう思ってくれているのがわかる。
この天音二菜という少女、デートデートと言うわりに意外とあそこに行きたい、ここに行きたいという欲がないんだよなぁ。
なんというか……なんだろう、若さがないというか。
ということを以前遠回しに言ってみたところ、「先輩に影響されたせい」という回答が返ってきた。
まるで俺が老人かのような言いぐさである、失礼な話だ。
「うーん……」
「? どうしました、先輩? お腹すきましたか?」
「いやいや、さっき食ったばっかだし……いや、そうじゃなくてさぁ」
「はぁ」
きょとんとした表情でこちらを見上げる二菜を見やりながら、思ったことを口にする。
「なんつーか……俺たち2人って、なんかもう熟年夫婦みたいになってんなって」
「ふふふ夫婦!?」
? なんだ、珍しく二菜が顔を赤くしているが、今更じゃないだろうか。
というか、普段からそういう発言ばっかりしているくせに、意外と人から言われるとダメなやつだな。
そんなところも可愛いと思う俺は、多分もうダメだと思う。
「夫婦……先輩と夫婦……夫と妻……にへへ……」
「おい二菜、顔、顔がヤバイぞお前」
顔がだらしなすぎてヤバい。
なんか、こんな顔してても美少女だと可愛く見えてお得だよな……なんて言っている場合じゃない。
こんな顔は、うちでだけにして欲しい。
「おーい二菜、そろそろ帰ってこい」
「はっ! 危ない危ない……意識が数年後に飛んでいました……!」
「タイムマシンなしに未来に飛べるなんて、二菜はすごいな」
「てへへ、照れるぜ☆」
別に褒めてはいないんだけど……。
数年後に飛んでたって言っても、妄想じゃないかっていうね。
「先輩先輩! 先輩は子供って何人くらいほしいですか?」
「気が早いわ」
「あいたーっ! ……くふふー! もー先輩ったらー、照れなくてもいいんですよー♡」
二菜の額をぺしりと叩いてやるも、妄想は止まらない。
ああでもないこうでもない、と二菜が語る人生設計を聞いていると、結婚式はどこで、何歳頃に~などと具体的な話まで出てくる。
おいおい、何年後の話をしてるんだよお前……!
「子供はやっぱり2人くらいはほしいですよねー先輩!」
「だから気が早いって」
「1人目は女の子がいいなぁ……名前は……名前、どうしましょう先輩?」
「もう名前考えるの!?」
「お父さんが一雪さんでー、お母さんが二菜ちゃんですしー……」
「なるほど、つまり二人の名前から取って一二三ちゃんだな」
「将棋が凄く強くなりそうですねぇ……」
「俺たち2人とも、将棋できないんだけどなー」
「オセロならできるんですけどねぇ」
「オセロと将棋の関連性が0な件について」
藤代一二三。
うん、絶対強い、間違いなくレジェンドクラスに強い、後ろに九段ってつけたい。
しかもこんな強そうな名前なのに、将棋はまったくできないの。
得意なボードゲームはオセロです!
詐欺かな?
「まぁ……女の子だったら、三葉だな」
「三葉ちゃんかー……うん、いいですね三葉ちゃん! あっ!? でも、男の子だったらどうしましょう!?」
「三雄」
「今、適当に考えましたね先輩!?」
さもありなん、男なんてそんなものである。
しかし、子供かぁ……。
まだまだ、本当にまだまだ先の話だなぁ……。
何より俺たちはまだ学生だし、これから先大学、就職と先にやらないといけないことは多い。
それでも、こう思ってしまうのは仕方がない事だと思う。
「俺じゃなくて、二菜に似た女の子だといいなぁ……」
「え、なんですかそのしみじみとした言い方……」
「特に目元」
「あー……まぁ、うん、先輩、目つきちょっと悪いですからねぇ……」
「ほっとけ」
事実だから仕方ないけど。
「まぁ、その前に結婚ですよね! 先輩! 私と結婚してください!!」
「ご提案くださいました「藤代一雪・天音二菜の結婚」につき、弊社内にて精査いたしました結果、誠に遺憾ではございますが今回は採用をお見送りすることと致しました」
「もー! なんでですかー!!」
「なんでですかもどうしてですかもあるかばーか」
以前は付き合ってだったのに今は結婚してくださいか……。
これから先、もしや結婚するまでこれを言い続けるんじゃないだろうな?
……言いそうだなぁ、二菜だし……。
そんな俺の内心を知ってか知らずか、相変わらずむーむー言い続ける二菜を前に、ため息を我慢する事は難しかった……。