メリークリスマス!
「メリークリスマスでーす!」
「はい、めりーくりすますー」
「もうっ! テンション低いです先輩! さぁもう一度! メリークリスマース!」
「……めりーくりすまーす」
――――俺は、この歳になって一体何をしているんだろう。
いや何してる、ってクリスマスを祝ってるんだけども。
そして目の前には……。
「あっ! なんですか先輩その目! くふふー! さてはサンタ二菜ちゃんに見惚れちゃったんですね!?」
「見惚れてません」
「ふふーん! 正直に言っていいんですよー先輩ー♡」
「はぁ……」
「もー! なんですかその溜息ー!」
溜息、つきたくもなるさ。
溜息の原因、それはもちろん二菜だ。
今日はクリスマス、クリスマスはサンタクロース、ということらしいが。
「誰からその衣装、渡されたの……まさか買ったの?」
「いえ、この前お義母さまにクリスマスの話をしたら、昨日の夕方に届きましてー」
「何やってんだよ母さん!」
「あと、三浦さんと榎本さんも絶対着るべきだと後押しを」
「うん、二菜はちょっと友達選ぼうか?」
どうも、その友人二人は二菜に悪い影響を与えている気がする。
このままエスカレートしていくと、ちょっとその、天音父に対して顔向け出来なくなりそうと言いますか?
「え、似合ってませんか? もしかして……ダメでしたか、先輩?」
「うぐ……」
瞳を潤ませながら俺を見上げる二菜に、思わず言葉が詰まった。
似合わない? わけないだろ……!
だから困るんだよ、このおばか!
惜しみなくデコルテラインを見せるそのオフショルの肩周りも。
ちらりと覗くレースのスカートから伸びる、健康的なふとももも。
大変。
たいっへん……俺の好みですさすがだ母さん……っ!
「へへへ、よかったです!」
「似合いすぎてるから、問題なんだよなぁ……」
「何か言いましたか、先輩?」
「何も言ってない! それより、そろそろ準備できたか?」
「はいっ! お料理おっけーです! お皿、並べてくださいーっ」
「了解」
取り皿やグラスなどを取り出しているうちに、どんどんテーブルの上にクリスマスらしい料理が並べられていく。
中でも目を引くのは、やはり中央に鎮座されたローストチキンだろう。
え、何コレ、もしかして自分で作ったの? 買って来たんじゃなくて?
うちの部屋、こんなもん作るような環境あったんだ……
「いえ、これは私の部屋で料理したのを持ってきたものです」
うちの部屋では出来なかったらしい。
まぁそうだよね……うちの部屋、オーブンとかそういうの、ないもんね。
そのうち、オーブン機能つきの電子調理器を買うべきかもしれない……。
「そしてー、最後にこれです! じゃーん! シャンパンー!」
「おい二菜、流石にそれはダメじゃないか……?」
シャンパンってあれだろ、アルコールだろ?
まだ高校生の俺たちが飲んじゃ駄目なもんでしょ絶対。
いや、ちょっとくらい飲んでみたいなぁって気はしなくもないけどね?
でも、流石にその線引きはちゃんとしないとまずいって!
「くふふー! 大丈夫です、ノンアルコールですから!」
「ノンアルコール……ノンアルコールなら大丈夫なのか……?」
「え、大丈夫なんじゃないですか? だってノンですし」
「そうか、ノンだから大丈夫なのか……」
あれ、ほんとに大丈夫?
いや、ノンだしいいのか、これで実はアルコール入ってましたー、とかないよな?
「まぁまぁ! 今日はクリスマスですし、無礼講ってことでー!」
「何に対しての無礼講なのか、これがわからない」
まぁいいのか? クリスマスだし。
「ほら二菜、グラス」
「はぁい……ありがとうございます、先輩! それではそれでは……メリークリスマス♪」
「メリークリスマス」
チン、とグラスを合わせる音が、部屋の中に響く。
「えへへ、なんかいいですねこういうの、凄くカップルっぽいです♡」
「お前はよくそんな恥ずかしげもなくぬけぬけと……」
「いやー、よくドラマとかであるじゃないですか、こういうシチュエーション。 雪の降る街を背景に、みたいな?」
「まぁ雪は降ってないし、よくあるおしゃれな照明もないし、何より炬燵なんだけどな」
「もー、ほんと先輩って、雰囲気読まないですよねっ!」
そう言いつつもにやついた表情が変わらないあたり、今の状況もまんざらではないのだろう。
先ほどから手に持ったシャンパンを一口飲んでみると、ほんのりとした甘さが口の中に広がった。
「えへへ……」
「何だよその笑い、気持ち悪いな」
「今はまだノンアルコールですけど、将来、一緒にちゃんとしたシャンパン、飲みたいですね!」
「そうだなぁ……アルコール解禁はまだまだずっと先の話だけど」
「くふふ! 今年1年もあっという間でしたし、きっとすぐですよ!」
「そうだなぁ……そうかもしれないなぁ」
ほんとに、あっという間の1年だった。
特に春からここまで、本当にあっという間で……気がつけばこいつとクリスマスを過ごすような関係になってるんだから、不思議なものである。
まぁ……。
「20歳になるのは俺が先だし、間違いなくお先に失礼、ってなるだろうけど」
「もー! なんでですかー! そこは私が20歳になるの待って下さいよー!!」
「ていうか、お前がアルコールなんて飲んでたら補導されない? 大丈夫?」
「その頃には超美女に育ってますぅー!」
うん、無理だな。
美女? 無理だわ二菜、お前から「少」という漢字が取れるイメージがわかないんだけど?
でも、まぁ。
二菜と一緒に飲めるようになる日というのは、ちょっと楽しみかもしれない。
「二菜」
「もうっ! なんですか!」
「その時は、ちょっといいのを買って、お祝いしような」
「! は、はいっ!! えへへー♪、約束ですよっ、先輩っ♡」