なんてことはない冬の一コマ
「はー……先輩、こたつってほんとやばいですね……」
「やばいよなぁ……」
「どうしましょう、私もう、こたつから出れないかもしれません、こたつむりの誕生です!」
「俺ももうこたつから出たくない……」
「でも私、みかんが食べたいなぁ、先輩♡」
「俺もみかんが食べたいぞ、後輩」
「「…………」」
あれから。
学校を休む事を決意した俺たちは2人、こたつの中から動けなくなっていた。
テーブルの上に置いていたみかんはすでに2人に食べつくされてしまい、新しいみかんを箱から出さないといけないのだが。
2人ともがこたつから出る事を拒否したため、お互いがお互いをけん制しあい……今に至る。
「先輩は私の事が好きなんですよね? 愛する彼女♡にみかんを取ってください先輩!」
「愛する彼女とかよく言えるなお前……恥ずかしくないの? あと、それはそれ、これはこれだな」
「もー! なんでですかー!」
一応こたつから届かないかと手を伸ばしてみるも、部屋のすみにある箱に手が届くわけもなく。
こういう時は、さっさと箱から出してテーブルに置いておけばよかったと、ちょっとだけ後悔してしまう……みかんって、すぐ箱から出さないとカビちゃうんだよね、確か。
ザルとかに入れて風通しがいいとこに置くのがいいって、婆ちゃんも言ってたもんな。
ああ、それにしても寒い……。
「終業式まであと2週間とちょいか……もう学校行きたくないな」
「行きたくないのはわかりますけど、明日は行かないといけませんよ」
「試験も終わったし、俺だけなら休んでも……」
「はいはい、来年大学受験な先輩は、ちゃんと内申意識しましょうねー」
くそっ、ああ言えばこう言う……!
こたつの中で、二菜の足をていっと攻撃してやると、二菜から手痛い反撃が飛んできた。
くっ、生意気な……って痛い痛い、こいつ本気でやってやがんな!
俺が強く出来ないからって調子に乗りやがって。
だが、膝の上にいた先ほどまでと違い、対面に座っている今の二菜には手が届かないし、かといってこたつから出ていく程の気にもなれない。
自分から手を出しておいてなんだが、ここは二菜のやりたいようにさせてやるか……。
と、思っているのか?
「ああっ! ちょっと先輩! 足、足重いです!!」
「はっはっはっ、俺がやられっぱなしなわけないだろう! お前のひ弱さでは動かせないだろう!」
「ぐぬぬ……!」
こちらから手が届かない、ということはあちらからも手は届かないと言うわけで。
届かない手を伸ばし、ぺしぺしとテーブルを叩く二菜の姿が哀愁を誘う。
ぷくっ、とほっぺたを膨らませてこちらを睨む二菜を見ながら。
「ほら、そんな顔すんなって、笑顔笑顔」
「ふーんだ、みかん、取ってくれないとやです」
「へーへー、てかそろそろ昼だけどどうする?」
「あ、それはお弁当があるので……お弁当入ってるカバンに手が届かない!」
「横着すんな……ついでに取ってやるから」
「えへへー、なんやかんや言いつつ優しくしてくれる先輩、私すきー」
「はいはい」
ほいっ、と二菜にみかんを放り投げてやると、二菜の顔が笑み崩れる。
ほんと、変な風にバカだけど可愛いやつだなぁ……と。
そんな風に思った、冬の昼過ぎの出来ごとだった。