閑話:天音二菜は逆襲したい
先輩は、ズルい。
先輩とお付き合いを初めて少したったけど、私は毎日、先輩にドキドキさせられっぱなしだ。
ふとした仕草や、何気ない先輩のやさしさに触れるだけで、胸がドキドキして仕方がなくて……こんなに毎日ドキドキしていたら、早死にするんじゃないだろうか、私。
なのに。
な!の!に!
私はこんなに毎日胸をときめかせて、先輩好き好き! って言ってるのに、どうしてか先輩は全然私にときめいてくれるそぶりがないんです!
もー! ほんとなんでですかー!! ていうか、態度が付き合う前どころか夏くらいに戻ってるんですけど!
おかしくないですか!? 付き合いたてならもっとこう……もっとこう! ありますよね普通!?
「どう思われますか三浦さんに榎本さん」
「どう、と言われましても」
「リア充爆発しろ、とか?」
「リア充と言うには甘さが足りないんです! 私はもっと、先輩とラブいことをしたいんです~!」
わーん! と泣きながら相談するのは、クラスメイトのお友達の三浦さんと榎本さんです。
お二人とは進学してからのお付き合いですが、非常に仲良くしていただいております。
ふっ、私は先輩と違って、ちゃんと友達がいるんですよ、これで証明されましたね!
「まーでも、藤代先輩があんま普通の高校生みたいにイチャついてる所って、想像できないっていうか」
「落ち着き方が高校生じゃないよね、あの人」
「そ、そんなことないですもん! お家だともっと、甘々なことだって言ってくれますし! ……たまに。あと、おひざの上にも乗せてくれますし! ……まれに」
「君ら、本当に付き合ってるんだよね? あーちゃんの妄想じゃないんだよね?」
「つ、付き合ってますよぉ!? 三浦さんはもうちょっとこう……目を鍛えて下さい!」
「鍛えないと付き合ってるように見えないんですね」
あの文化祭の堂々とした先輩の告白を聞いているはずなのに、なんてことをいうんでしょう!
いえまぁ、うん、まぁ、たまーに、ほんとに付き合ってるんだよね? と思う事はないでもないですが……うん。
いまだに先輩からちゅーしてもらったこと……あれ、ない気がするぞ?
……あれぇ??
「なんか不安になってきました……」
「そんな天音さんに、あたしからお勧めがあるんですが!」
「え、榎本さん!」
「ふっふっふっ、あたしに任せてもらえれば、確実に藤代先輩をときめかせて見せますよ!」
「お願いします! もう頼れるのは榎本さんしかいません……!」
「あーちゃん!? わたし! わたしもいるんだよ!?」
やはり頼れるのは信頼できるお友達しかいませんよね!
あ、あとで花七さんにも連絡しておこうっと。
*
「と、というわけで!」
「何がというわけで、なのかわからん」
「ハロウィンですからね! とりっくおあとりーとです、先輩!」
「顔赤いぞ、お前」
「あ、赤くありません! 赤くないもん!!」
「恥ずかしいならそんな格好、しなきゃいいのに……」
翌日。
私は榎本さんの手で、コスプレ、というものをしておりました。
ちょうどいい時期だから、とハロウィンに合わせた小悪魔衣装です。
それはいいんですが……胸元、ちょっと開きすぎじゃないでしょうか?
スカートも短いし、お、おへそも見えてるし……。
いえ、可愛らしい衣装なんです! 可愛らしい衣装なんですけどね!?
私をドキドキさせてどうするんですか、榎本さん~!!
でも、せっかくです、今日は先輩を誘惑して、ドキドキさせなければ!
「くふふ! 今日の私は小悪魔二菜ちゃんなのです! お菓子をくれなきゃいたずらしちゃうぞー!」
「じゃあいたずらで」
「えっ」
「いたずらのほうで頼む」
先輩がきりっとした表情で、悪戯してくれと頼んできました。
はぁ、真面目な顔した先輩もかっこいいなぁ、超好き……ではなく!
いやいやいや! ここは小悪魔二菜ちゃんに顔を赤くしてドキっとするところじゃないんですか!
なんで素で悪戯をって言ってるんですかこの人!
「……って冗談だよ冗談、ほら、お菓子をやろう」
「えっ? あ、はい……」
「ほら、あーん」
「あ、あーん……」
そう言って先輩が私の口に放りこんだのは、いちご味の飴でした。
ころころと転がすと、ほんのりと甘さが広がっていい感じです。
「ところで二菜、トリックorトリート」
「え?」
「俺も、お菓子をくれないと悪戯するぞ?」
「えっ、えっ、きゅ、急にそんなこと言われても、私お菓子なんて持ってないんですけど……!」
なんてことを言い出すんですかこの先輩は!
まさか私がお菓子を要求される側になるとは……完全に予想外です。
た、助けて三浦さん! 榎本さん~~!!
「お菓子がないなら、悪戯しかないよな?」
「えっ、あっ、そ、そうですね? えへへ……」
あわあわしている私に先輩が近づいてきたかと思うと、頬に手を添えられ、ぺろり、と唇をなめられました。
って、何やってるんですか先輩!?
「うん、いちご味」
「~~~~~~~~~~っっっ!!」
……限界でした。
そのあと、私は部屋へと逃げ帰り、ベッドの上で悶絶し、足をバタバタさせもだえ苦しむのでした……。
ちなみに。
私が先輩の部屋を逃げ出したあと、先輩も自分のベッドの上でもだえ苦しんでいた、というのは私も知らない、先輩のその後のお話です。
*
「という事が、ハロウィンの日にありまして」
「「リア充爆発しろ」」