紅葉散策といえば……ですよね!
「ほらほら先輩、早くしないと電車出ちゃいますってばー!」
「わーかってる、わかってるから落ち着け二菜」
「くふふー! 落ち着けるわけないじゃないですか! 先輩とデートなのに!」
「……はいはい、あんま大声で恥ずかしいこと言わないの」
「いやでーす!」
ほら、周りのご年配のご夫婦から、物凄い生暖かい目で見られてるから!
すいません、うちの子が煩くて、本当にすいません、ご迷惑をおかけしてすいません……!
という羞恥プレイをくらいながら、俺と二菜は地下鉄を乗り継ぎ、終点まで。
そこからさらに電車を乗り継ぎ、西へ西へと移動していた。
目指すは県内でも有数の観光地である。
きっかけは、食後にぼーっとテレビを見ていた二菜が、紅葉を見に行きたい、と言ったことだった。
そこから、県内で紅葉といえばどこだ? という話になり、とんとんと目的地が決まり……今に至る。
「先輩先輩! 私、路面電車って初めて乗りました!」
「俺は中学の時に長崎で乗って以来だな」
「市内を走ってるのは知ってましたけど、乗る機会ってなかなかなかったんですよねぇ」
「まー市内から出ないとそうそう乗る機会ないよな、特に俺らは」
道路のど真ん中を走る電車の中で、目を輝かせる二菜。
どんだけ楽しんでんだよ、お前……小学生か。
「この路線の駅ってこじんまりとしてて、なんか可愛いですね」
「だな、このへんうろうろしてるだけでも、普通に楽しそうな気がする」
「ですねー! でも今日の目的地はこの先ですし、それはまた今度、ですね!」
「だな、このあたりは桜の名所なんかもあるし、来年のお楽しみってことだ」
「……くふふ!」
そういうと、先程まで外を眺めていたはずのに二菜が、嬉しくてたまらない、といった表情でこちらを見上げていることに気がついた。
なんだ、そのにまにまとした表情は……俺、今なんか言ったか?
「いやー、来年も当然のように一緒にいてくれるんだなーって思いまして!」
「……はぁ? なんだそれ」
「来年のお楽しみ、ってことは、そういうことですよね♡」
こいつは一体、何を言っているんだろう。
「いや、そりゃ来年も一緒にいるに決まってんだろ、何言ってんだ?」
「へっ?」
「へっ、じゃねーよ、なんだ、今更俺がお前を離すと思ったか? 離すわけないだろ」
「えっ、あっ、はい、あの……はい……」
「……なんだよ、変な奴だな」
さっきまであんな元気だったのに、急にうつむいてなんだこいつ?
俺、なんか変な事言ったかな……うーん、自分の発言を思い返してもよくわからん。
「お、それよりも……見ろよ、外」
「え? ……わぁ、凄い真っ赤ですよ先輩ー!」
「はいはい紅い紅い、ちょっと落ち着け」
「えへへ……ついつい」
前方に見えてくる紅く染まった山に、二菜のテンションが爆発的に上がっていく。
時期的にちょっと早いかもなぁと心配してたんだけど、いい感じに染まってるな。
本当は下旬くらいに来るのが一番いいんだろうけど……。
「よかったな、結構綺麗になってきてるところだぞ」
「ですねー、調べてみると、やっぱもうちょっと後の方が綺麗だよって話が多かったんですけど」
「だいたい紅葉の時期って言ったら、もう1週2週後だからなー」
「まぁ、今までそんなに気にしてみたことなかったんで、よく知らないんですけどね!」
「俺としてはその意見に同意である」
秋なんて涼しくなったなーから寒いな! の中間の季節ってくらいだもんな。
「あ、そういえば知ってますか先輩! この駅って、足湯があるんですよ!」
「知ってる知ってる、ホームの先のとこだろ? 行ってみるか?」
「うーん……いえ、やっぱり後にしましょう!」
「いいのか? 時間ならまだまだ余裕あるけど」
「今日は一日歩き回ることになりますし、後の方がいいなーと思うんですけど……」
なるほどね。
確かに今日は結構歩くだろうし、帰る頃には足はくたくただろう。
疲労回復って意味では、確かに帰りのほうがいいかもな。
「それに、夜のほうが駅の景色は綺麗みたいですし」
「あー、キモノフォレストってやつか、凄いらしいな」
「あと夜のほうが、先輩といちゃいちゃできそうですしねー♡」
「はいはい」
きゃー! とはしゃぐ二菜を冷たい目で見てやると、それはそれで! と興奮し始め……お前はなんでもいいのか、この変態女子校生め。
そんな事を言っているうちに、電車は終点の駅へと滑り込んでいく。
ここからは電車を降りて、紅葉を楽しみながらの散策だ。
「そろそろ降りるぞ二菜……ほら、手」
「くふふ! 紳士的なエスコート、ありがとうございます!」
二菜の手を取り立ち上がらせてやると、いつものようにぎゅっと手を握ってくる。
最近寒くなってきたから、この体温がなかなか温かくてクセになりそうだなー……なんて考えているのは、絶対に二菜に知られてはいけないことだと思う。
「それじゃあ、今日も一日、宜しくお願いしますね先輩!」
「おう、こっちこそだ後輩」