恋人らしい待ち合わせとは?
時系列順に全て並べ替えました。
以降更新分は、その後になります。
11月ともなると、季節も秋から冬へと変わり始める時期でもあり、少し肌寒く感じるようになってきた。
冷たい風を感じながら、ポケットに手を突っ込み、二菜との待ち合わせ場所へと急ぐ。
時間は約束の10分前だ、流石にまだ来ていないかな? と思うと……いた。
相変わらず、見知らぬ誰かに声を掛けられているようだが、塩対応。
ははっ、久しぶりに見たな、表情を消してじーっと一点を見つめるあの顔。
「二菜」
そう声をかけると、ぱっと顔をぱっと輝かせながら、こちらに小走りで走ってきた。
その態度の変わりように、先ほどまで必死に二菜に声を掛けていた男が、ぽかんとした顔を浮かべているのが、ちょっとだけ面白い。
「悪いな二菜、待たせたか?」
「大丈夫です! 私もさっき来た所ですから!!」
「そか。 なぁ二菜……」
「はい? なんでしょう?」
「……外で待ち合わせとか、する意味あったのか?」
それを聞いて、二菜がきょとんとした顔を浮かべ……。
「だって、私たちってこういう、普通の恋人っぽい待ち合わせ、したことないじゃないですか!」
「いやまぁ、そうなんだけど……なぁ?」
ちらりと先程まで、二菜に声をかけていた連中を見やる。
今日は珍しく、二菜が「外で待ち合わせをしてみたい」などと言い出した二菜の要望に答え、駅前で落ち合おう、と約束をしたのだが……はっきりいって、自分の彼女が見知らぬ連中に声を掛けられている、というのは面白くない。
いや、二菜がそんな連中に興味を示すなんてこと、まずないとは思うんだけどね?
「くふふー! なんですか先輩、ヤキモチ妬いちゃったんですか?」
「はっ、妬いてねーよ」
「もうもう! 先輩ったら、ほんと可愛いところありますよねー!」
「うるせー。 ほら、行くぞ二菜」
「はーい、先輩、手、手!!」
「はいよ」
ポケットから手を出して、二菜へと差し出し、少し冷たくなった手を包み込むように握ってやった。
相変わらず、小さくて華奢な手だ、ちょっと力を入れると、骨が折れそうだな、とこいつの手を取るたびに思ってしまう。
「へへっ、先輩の手、温かいなぁ」
「ポケットの中にずっと手ぇ突っ込んできたからな。 つーかお前の手、冷たすぎ、せめて手袋くらいしろよ」
「まだ11月ですし、早いかなーって気もするんですけど、そろそろいりますかね?」
「だなぁ、せっかくだし今日、見ていくか?」
「ですねー、可愛いの選ばなきゃ! ……でも手袋したら、こうやって手を繋いでもなぁ……」
にぎにぎと俺の手を揉むのはやめないか。
まぁ確かに、手袋しながら手を繋ぐってのも、どうかとは思うけども。
「その時はあれだ……ほら、手袋、外せばいいだろ別に」
「あ、そうですねー……先輩、頭いい!」
「お前は成績はいいのに、なんでか残念感が漂うよなぁ……」
「もー! なんですぐ、そういうこと言うんですかー!」
「ははっ、悪い悪い」
そういいつつ、ぷくーっと膨らんだ二菜のほっぺたをぷにぷにとつついてやると、にへら、と顔を緩ませてくれた。
可愛い。
「で、わざわざ外で待ち合わせまでして、何か得することはあったのか?」
「うーん、先輩まだかな、って待ってるときのドキドキ感はなかなかでしたね」
「そんだけしかないのか……」
がっくりである。
俺のいないところでナンパされるようなリスクを負ってそれだけなら、今後待ち合わせなんてする意味はないな、うん。
つーか真上の部屋に住んでんだから、俺から迎えに行くっつーのな!
「まぁまぁ! 憧れだったんですよー、さっき来た所です、ってやるの!」
「さよか……ちなみに、ほんとはどれくらい待ってたんだ?」
「20分くらい?」
「早く来すぎだろ、ばーか」
「えへへ、すいません!」
ほんと、こっちの身にもなれってんだな。
まー、俺が先に来れるくらい、早く出ればよかったのかもしれないけど、それすると多分、際限なく早くなっていくんだよな。
……ま、次から外での待ち合わせはなしだな、うん。
そんな俺の気を知ってか知らずか、にこにこと嬉しそうに隣を歩く二菜の頭を一撫でしてやると、くすぐったそうに目を細めた。
ほんと、人の気も知らないでのんきな奴。
「なんですか?」
「なんでもない、そんじゃあどこから回るかね」
「そうですねー……あ! じゃああのお店から行きましょう!」
こうして、俺たち二人の休日が始まったのだった。