-5 『勇ましき蛮行』
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華というものは散る間際こそより麗しく輝くものである。
「兵糧はちゃんと始末したのよ? これほどの突然の行軍。決して奴らの蓄えにさせてはならないのよ」
「はい。町の外れの小屋に押しまとめ、火を放ちました」
「それならいいのよ」
大人や子供、老人から女まで。百を超えた領民たちを前にして、チョトスは不敵に笑んでみせた。
「ふふっ。不思議なものよ。あの子の前ではあれだけ威勢を張って言っていたというのに、いざ今となると、少し怖いのよ」
格好良くミレンギを見送ったというのにこれでは締りがない、とチョトスは自分で自分に呆れた。しかしよく見れば、彼を取り巻く領民たちも皆同様に、農具を持った手や足を震わせている。
「足が竦む者は今すぐ北の森に逃げるのよ。死を恐れるのは人間として当然の感情。だれも責めはしないのよ。運よく森を抜けられれば生きながらえられるかもしれないのよ」
しかしチョトスの言葉に心を揺らがせる者などいないと、言った彼自身もわかっている。心を殺す恐怖心よりも譲れない感情が昂ぶっている。まるで命の燃焼に薪をくべているように、熱く滾りきったものが溢れている。
「本当にお馬鹿さんなのよ、わたくしたちは。……けれど、死があるからこそ生は輝くのよ。人はいずれ必ず死ぬ。その人生を、生まれた意味を、いまここでまっとうするのよ」
「おおー!」
「手足がもげても、奴らの足に食らいついてやるぜ!」
「私も、何をされても抗ってやるわ!」
遥か千里先までも届きそうな勇ましき猛り声が響き渡った。
この決意に果たして意味はあるのか。それはわからない。
しかしここにいる誰もが、自らによって肉壁となることでルーン軍の侵攻を遅らせ、ミレンギやノークレンが無事に逃げられる時間を与えられるだろう。
いや、もしかするとテストに出向いて来るのは少数で、すでにルーンの本隊は王都へと向かっているのかもしれない。それでも、少しでも彼らの目を惹きつけてミレンギたちだけでも救えるのなら。
そう、固く信じていた。
「これはファルドを生かすための戦いなのよ」
チョトスが剣を掲げた。
町の外へ繋がる大通りの向こうに、うっすらと、多くの人影が見え始めてくる。
暗がりに浮かぶ赤い軍旗。僅かな夜光に艶めくルーン兵の鈍色の鎧。整った歩調が地を踏みしめるたびに地鳴りが聞こえてきそうなほどの威圧感。命を刈り取る死神が列を成して歩いてくる。
「総員、構える」
チョトスの指示に、領民たちも不揃いに武器を構え始める。
まるで統率はない。
訓練などしたこともない。
素人ばかりの平民の集まり。
「行くのよ!」
「「おおぉ!」」
けれど地を振るわせるほどに轟かせた彼らの生き様は、この曇天の空の下で唯一見られる星であるかのように輝きを見せていたのだった。
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