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竜の落とし子 ~没落少年が最強へと至るまでの英雄譚~  作者: 矢立 まほろ
○ 第2部 -王の奪還編- 2章 『撤退戦』
78/153

 -2 『狭まる退路』

   ◆


「報せがきたよ」


 船で渡河を始めてしばらく。


 ミレンギが甲板で休んでいると、上空から飛来してきた鳩がミケットの腕に止まった。


「夜間でも確実に相手に届けられるよう魔法がかけられた伝書鳩だよー。あたしたちの連絡手段なんだー」


 ミレンギが不思議そうに眺めているとミケットが教えてくれた。


 通商連合にはそんなものまで、とミレンギは驚きを噛み殺した。


 ミケットたちはいったい何者なのか。何が目的なのか。その真意を知るまでは手放しに信頼しきれない。


 その不審をミケットも重々わかっているのだろう。ミレンギや他のみんなが怪訝な目を向けていても、飄々とした態度で受け流していた。


 ミケットが伝書鳩の足に括られていた書状を受け取り、その内容を読む。


「悪い報せと悪いとも良いとも言えない報せ。どっちから聞きたいかな?」


 けろりと笑って尋ねてきた彼女に、ミレンギは曖昧に苦笑した。


「良い報せはないんだね」

「今のとこねー。でも問題ないよ。キミが生きてる。それがファルドにとっては朗報さ」

「そういう機嫌取りはいいよ。それより報せを」


「割と本意なんだけど……まあいっか。良くも悪くもない報せっていうのはね、王都にいるノークレン王の所在が不明だってこと。王都には火の手が上がり、それがひどく延焼していってる。住民達は皆外に逃げ出すほどだ。けれど、ノークレン王に関してはまったく目撃情報がない」


「じゃあ、ノークレン王は無事かもしれないんだね」

「どの程度を無事って言うかにもよるねー。命だけ、っていう話ならまだまだ無事かもしれないし。安全っていう意味では、もう無事じゃないのかも」


「それで、悪い報せっていうのは?」

「ルーン軍の侵攻が止まらない。ファルドの領土に上陸したのは思ったよりも大勢だったみたい。彼らはファルド側の川沿いの港町を悉く制圧。その足を早くも王都へと進めているらしい」


「そんなっ……」


 ミケットの話は、まるで悪夢を見ているように現実味を与えてくれなかった。


 つい数刻前までは血気盛んにファルドの勝利を思い描いていたはずのミレンギたちに、しかし目の前に突きつけられた現実との落差は、阿鼻叫喚に心を裂きたくなるほど衝撃的だった。


 話を聞いていたギッセンが悲痛に顔をゆがめる。


「竜神様は我々を御守りくださらなかったのか……」


 他にも、生き残ったノークレンへの信心深い義勇兵たちは深く涙を流している。


 ミレンギやシェスタたちはかろうじて、頭を下げずに視線を持ち上げていた。


「どうにかしないと」

「でも、港町も取られたのよね。じゃあどこに接岸するの」


 シェスタが言う。

 そんな彼女にミケットが返した。


「どうやらルーン軍は、港町の領主たちを裏で買収してたみたい。だから占拠されたというか、寝返って開け渡した、っていうのが正しいかもね」

「ファルドを裏切ったってことなの?」


「そうだねー。こればかりは、向こうの外交活動を褒めるしかないよー。どうやら他の町も、段々とルーンに旗替えしようとしてるみたい」

「最っ低!」


 シェスタが不機嫌に帆の支柱を蹴る。

 まあまあ、とミレンギはなだめながる。


「しかしそうとなれば問題があるねー。あたしたちが出てきた港も封鎖されちゃってるかも。ちゃんと、どの港がルーンに降ってて、どの港ならまだ寄航できるかを判別しないと。上陸した途端に敵のど真ん中っていうのだけはイヤだからねー」


 ごもっともだ。

 ミレンギはしばらく考え、ふと思いついたことをミケットに投げかけた。


「じゃあ、あそこに行こう」

「あそこ?」


 小首を傾げるミケットに、ミレンギは強く頷く。


「絶対に裏切らない人たちを知ってるよ」


 ミケットは最後まで疑問そうだったが、そのミレンギの力強さに笑顔を浮かべて頷き返していた。


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