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竜の落とし子 ~没落少年が最強へと至るまでの英雄譚~  作者: 矢立 まほろ
○ 第2部 -王の奪還編- 1章 『ルーン侵攻』
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 -14『赤い空』

 黒煙の正体は、魔法か火薬かによる大規模な爆発だった。


 その爆心地はアイムではなく、アマルテ大橋。


 ミレンギたちが攻め進んできたファルドへ繋がる唯一の道が、その爆発によって粉々に破壊されてしまっていた。


 その展望は、少し小高いミレンギたちの場所からも確認できた。


「そんな。じゃあどうすれば帰れるんだ」

「向こうに渡れないじゃないか」

「兵糧なんてないぞ」


 義勇軍たちに更なる動揺が走る。


 ミレンギも、その事実に焦燥を募らせていた。


「橋を壊したら進軍手段がなくなるのに。どうしてそんな短絡的なことを。ボクたちを罠にはめるためだけに?」


 確かに今回の進軍には多くの兵を動員させた。

 義勇軍まで募り、これまでの侵攻作戦の中でも最大の規模を誇るものだ。


 しかしそれを討つために橋を壊すなど、自分たちの唯一の進軍手段をも失くす愚考にすら思える。防戦を決めこんだということだろうか。


「とにかく一度戻りましょう。アイムにいる正規軍の人たちと合流を」


 さすがの状況に、ギッセンも不服そうながらも、渋々ミレンギに頷くほかない様子だった。


 ミレンギたち元アドミルの兵が殿を務め、義勇軍は急いでその場からの退却を始めた。


 当然、ルーンの伏兵たちも追撃してくる。それをミレンギやセリィ、シェスタたちでどうにかいなし、多少の犠牲を出しながらも、かろうじてアイムにまで戻ることができた。


 しかしそこは既に多くのルーン兵に取り囲まれており、居残っていたファルドの正規軍は瞬く間に包囲殲滅されていた後だった。


 敵をおびき出したところで退路を断ち、袋小路に追い詰めて囲んで叩く。


 兵法の最も基礎たる手法に、こうも容易くやられてしまうとは。


「どうすれば。これでは町に入れないではないか」


 ギッセンの焦りの混じった激昂が耳を劈く。


 ルーン兵の追撃部隊はひとまず巻けたものの、アイムにはより大勢の敵軍が待っている。完全に退路を断たれ、後方からはルーンの伏兵の追撃の手が迫っている。


 絶望的窮地。


 人目を避けるために街道から外れ、ミレンギたちは二国を分かつ広大な大河の畔に逃げ延びた。


 既にその時には、何百といたはずの仲間たちはほんの五十名ほどにまで減っていた。そのほとんどは魔法兵の奇襲や、アイムに残って挟撃されて殺された者ばかり。


 やや小高い丘となったミレンギたちの場所から見えるアイムの光景は、まるで地獄のようだった。


 壊滅的な敗北。


 残されたミレンギたちも、渡河の手段などあるはずがなく、いつやって来るかわからない敵軍の追撃部隊に身を震わせる状況である。


「そんな……こんなことがあるはずないのだ……。我々は、圧倒的に勝利していたのだから……」


 魂の抜けた声がギッセンの口から零れていく。


 あれほど傲慢であった強気な態度も、目の前の惨状をして、折れた草木の茎のように体をしな垂れさせていた。


 生き残った兵たちも、膝を折って地につけている。


 そんな彼らを更に追い打つ様に、「あれを見てくだせえ!」と急にハロンドがそう言って大河の向こうを指差した。


 崩落したアマルテ大橋から街道がずっと延びる先。遥か西方の内陸部。

 その方角の空が、淡い朱色に染まっている光景がミレンギたちの目に飛び込んできた。


「おいおい、あっちって……」


 口を開けて呆けるハロンドに、ミレンギも同じように愕然と頷く。


「王都のある方角だ」


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