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竜の落とし子 ~没落少年が最強へと至るまでの英雄譚~  作者: 矢立 まほろ
○ 第1部 -ファルド内乱編- 4章 『王道を往く少年』
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 -2 『王都決戦へ』

「今が好機と思われます」


 シドルドの官舎の一室での軍議にて、アイネがそう力強く言った。


 机上の地図を囲ってミレンギやララン、シェスタたちが並ぶ中、彼は地図上の周辺の村落を指した。


「先日のテストでの戦闘にて、騎士団の評判は地に落ちたといって良いでしょう。ハーネリウス様の根回しによって、彼らが住民を扇動して反乱軍と戦わせたという情報を各地にて喧伝させています。それと一緒に、アドミルを束ねる王子ミレンギ様は、そんな彼らを哀れみ、一人も手をかけずに退却を余儀なくされた、と」


 王都への足がかりを手に入れる作戦に失敗してガーノルドを失った結果が、奇しくも王都の外堀を埋める遠因となったのは皮肉とも言えるだろうか。


「おそらくあのテストでミレンギを討って終わらせるつもりだったのでしょうね」とラランが付け加えると、アイネは頷いた。


「彼らは反乱の鎮圧を急ぎすぎていたようですね。あまりに雑な気はしますが、もしかするとファルドの内政は僕たちが思っている以上に混乱しているのかもしれません」


 確かにアイネの言う通り、いくらミレンギを討ち取れる機会であったとしてもやり方が性急で非道すぎる。たとえ成功していても、ファルドを妄信するテストの民はともかく、他の国民からは非難の声が上がっていたことだろう。


 よほど何かを急いでいたのか、それとも、わざとそういう手段をとったのか。


 考えても、ミレンギたちには結論の出ない論議であった。


「とにかく、風はこちらに吹いています。ガーノルド殿が作ってくれたこの勢いを活かさない訳にはいきません」

「でもどうするの?」


 そう返したミレンギの疑問はもっともだった。


 王都への足がかりとしてテストの地を得ようとしていたのだ。だが今の現状、そこを獲得することは難しいだろう。


 ミレンギが彼らテストの住人たちの命を救ったと喧伝している以上、無理やり軍力で占拠する手段も選べない。なにより、ミレンギが許さない。


「それに関しては策があります。と言っても、策と呼べるほど素晴らしいものではありません。兵を無理やり動かす強硬手段となってしまいますが」


 そう苦笑を浮かべながら、アイネはこれからの予定について述べた。


「ファルドの西方に位置するいくつかの町が、今回のミレンギ様とガーノルド殿の件を受け、我々への協力を表明してくれました」

「協力……大丈夫なのかな」


 当然の心配がミレンギや他のみんなにも過ぎる。

 しかしアイネはその不安を取り払うように語気を強めた。


「彼らは元々、ハーネリウス様やガーノルド殿と同じく前王を指示する信心深い保守派閥の諸侯です。その上、ミレンギ様が前王の子だということも知っています。ただ彼らは争いを望まなかった。王都から近く、民の安全を重視し、中立を貫く選択をしたのだと聞いています」


「中立だったのに協力してくれるの?」

「さすがに今回の件でクレスト王を見限ったのでしょう。民のことを第一に考える彼らが、クレスト王に民を扇動されて私兵として使い捨てられることを危惧したのでしょうね」


「それだけ今のクレスト王の信心が下がっているということね」とララン。


「ふん、自業自得よ」とシェスタが嘲るように鼻を鳴らす。


 そんな中、ミレンギは冷静に話を聞いていた。


「彼らの私兵を用い、側面から王都へ進軍していただきます。その間に、僕たち『アドミルの光』が北方より急襲。王都を守る騎士団を分散させ、突破を図ります」


「囮にするつもりなの?」

「いえ、無理な交戦は求めず、惹き付けるだけで十分です」

「でも危険じゃないかな」


「なによりこれは彼らが申し出てきたことです。自分たちにも助勢させてほしいと。静観していた彼らが重い腰を上げてくれたのです」


「……そうなんだ」


 納得しきるには難しいところもあったが、それを呑み込むのもミレンギの役目だろうと押さえ込む。


「協力してくれる町の名前は?」

「西方の農業町ファルアイードと、小規模な商業拠点となっているカピタという二つの町です」

「そこ、どっちも行ったことがある。曲芸団の興行で」


 ミレンギがファルド中を旅していた頃によく立ち寄って芸を披露していた町だ。ガーノルドに連れられて、旅団の家族みんなで旅して回った町の一つ。


 今にして思えば、ファルド中を旅していたのには立派な理由があったのだとミレンギは痛感した。


 ただ興行のためではない。


 ミレンギがこのファルドについての見聞を広めるため。そして、各地にいる前王支持派の諸侯と連絡を図るため。


 ガーノルドは最初から最後まで理に適っており、ミレンギのために動いていた。


 本当に、彼は偉大だったとミレンギは思う。

 考えれば考えるだけ喪失感が波のように打ち寄せてきた。


 だが後悔をしていられる場合ではない。

 彼が遺した物を、ミレンギは受け継がなければならないのだ。


「……わかった」


 ミレンギは頷いた。


「協力を受けよう。そして今回で決着をつけよう。時間をかけていたら、きっとこの国が疲弊して滅んじゃう。そうなる前に」

「はい。その通りでございます」


 アイネがミレンギに頭を下げると、それに倣って、他の臣下たちも顔を伏せさせた。


 アドミルの光、全勢力を上げての王城攻略作戦。


 結果がどうあれ、間違いなくファルドの歴史に刻まれるであろう一戦が、いまここに始まろうとしていた。


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