-11『老兵の志』
ミレンギたちは鏃のように陣形を取り、騎士団の右方一点に突撃した。寝ている仲間を背負った者を後方に、手の空いた者は矢面に立って全力で騎士団に襲い掛かった。
さすがの騎士団も簡単には崩れず、白銀の盾で列を成して受け止める。
アドミル兵の飛び込むような兜割りを弾くと、そのまま盾ごと相手にぶつかって横転させる。そこを別の兵が槍で止めを刺そうとする。しかしそうはさせまいと、またアドミルの他の兵が体当たりをして食い止めた。
まさに乱戦。
だがミレンギたちは足を止めない。
一人を倒しては一人が倒れる。
だが、それでも包囲の向こうへと突き進んだ。
しかし多勢に無勢。
時間が経つごとに、他の列にいた騎士団兵が穴を庇うように駆けつけてくる。無理やり通ろうにも足を止めさせられ、中々進めない状況になっていた。
このままではじりじりと追い詰められ、囲まれてしまう窮地であった。
どうにか打開できないかとミレンギやアイネは考えるが、しかし重荷を背負っている状況ではままならない。かといって見捨てることはミレンギの仁義に反した。
「どうにかしないと」
そうミレンギが漏らした時だった。
ミレンギたちを後方から包み込もうとしていた騎士団兵が突然その身を吹き飛ばした。
ガーノルドであった。
グランゼオスの相手をしていた片手間、ミレンギたちを助けにきたのだ。彼の強力な剣の横薙ぎが、騎士団兵たちの包囲を切り崩した。
しかしグランゼオスとの戦闘に余所を向けるほど余裕があるわけではない。
ガーノルドがこちらに助力したその瞬間、グランゼオスの大剣が背後からガーノルドの左腕を切り落とした。
鮮血の飛沫が上がる。
「ガーノルド!」
ミレンギが叫ぶ。しかしガーノルドは腕を切り飛ばされた痛みにすらまったく怯まず、咆哮のように力強く言った。
「行けぇ! ミレンギ! 我らの希望の旗を掲げ続けよ!」
それは目が覚めるほどの魂のこもった叫びだった。
片腕を失くしてもなお、剣を振るってミレンギを追おうとする騎士団兵を薙ぎ伏せる。
その姿はまさに獣。
しかし狂乱した野生ではなく、気高き志を鬣になびかせた獅子であった。
ガーノルドのおかげで敵は混乱し、陣形も崩れている。
その隙に生じた包囲の綻び。死中に活を見出す唯一の道筋が、献身的すぎる老兵の奮迅によって開かれていた。
逃げるならば今しかない。
「ミレンギ様。今のうちに前へ」とアイネに引っ張られる。シェスタにも押され、嫌々にでも前に歩かされる。
「でも。でも――」
「ミレンギ様」
引き返そうとしたミレンギにガーノルドが言う。猛りあう兵たちの雄叫びが入り混じる中、その声は嫌に鮮明にミレンギにまで届いた。
「貴方は強い御方だ。だからもう迷いますまい。進んだ道の先で、ジェクニス様と共に宴の準備でもして待っておりますゆえ。どうかそれまで、ご健勝に」
それは、明確な別れの言葉であった。
ずっと一緒にいた家族。
父親のような存在だった。
曲芸において身体の鍛え方などを教えてもらったのも彼である。芸に失敗して怒られたりもした。初めて曲芸で棒を昇りきれた時はすごく褒められた。そんな、いつも見守ってくれている存在であった。
剣の稽古だってまだまだし足りない。まだ勝ててないのに。いつか必ず勝ってやるって心に決めていたのに。
そんな彼の姿が、遠ざかっていく――。
「ガーノルドぉぉぉぉ!」
ミレンギの叫びは、戦場にただただ空しく響いた。




