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竜の落とし子 ~没落少年が最強へと至るまでの英雄譚~  作者: 矢立 まほろ
○ 第1部 -ファルド内乱編- 3章 『背負う者』
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 -4 『次の目的地へ』

 静寂の森を実質的に手中に入れ、その南方の宿場町を制圧した『アドミルの光』の次の目標は、王都へとたどりつく足がかりとなる拠点を確保することであった。


 軍議の場で地図を眺めながらアイネは言う。


「宿場町のアゼットからは王都までおおよそ半日少しもあればたどり着けます。しかし大勢を率いての行軍となれば、その倍は想定したほうがいいかもしれません。となると兵の疲労も相当なものになります。


 僕たちも多村の吸収などで多少の増員はできたとはいえ、王都に駐留する兵士の数はそれを大きく上回っています。勢いの強さでも勝らねばなりませんが、なにより士気の高さも衰えてはいけません」


「ひとまず兵力を保ったまま王都にたどり着けなければいけないということだ」


 天才軍師の説明にハーネリウス候が言葉を続けた。


「私たちの内偵によると、前王の子ミレンギ様のことを知り興味を抱いている市民も少なくはありません。その風潮をより大きくするために、私兵を市民に紛れさせてより、そのご活躍ぶりを喧伝させているところです。静寂の森での救出劇はそれはもう好印象のようですよ。多少は話を盛ったり作り変えたりはしていますが」


 さすが地位を失ってもなお、鉱山の町を栄えさせて一人で家督を持ち返した男である。その手際のよさに、話を聞いていたミレンギもとても心強く思った。


 だが同時に少し不安にもなる。


 これほどの人が、死して尚も忠義を貫いている前王ジェクニス。その彼がいったいどれほど偉大な人物だったのか。


 ただ彼の隠し子というだけで担ぎ上げられただけのミレンギには、その背中はあまりにも大きすぎると感じていた。ミレンギは、自分がそれほどの器ではないと確信しているからだ。


 アイネが机上に広げられた地図の、ある地点を指差して話を戻す。


「ハーネリウス様の外交政策の成果もあり、この王都の北西に位置する港町、テストを有しているとある諸侯が我々に協力を申し出てくれました。ハーネリウス様が流した、静寂の森におけるミレンギ様の武勇伝をお聞きしたのでしょう。その徳の高さに感心をしたと、自ら助力を名乗り出てくださいました」


「そうなんだ。ありがたいね」


 ミレンギは嬉しい反面、それほどの人間でもないのに、と少し居心地の悪さも感じていた。


 しかし後ろに控えていたシェスタは「すごいじゃない」と頭ごなしに褒め称えていた。隣で様子を見ているラランも、まるで母を見る子のように微笑んでいる。


「テストはやや足取りの悪い沼地を挟んではいますが、王都へは半日もかからずにたどり着ける位置にあります。ファルドの海路のひとつを確保できる利点もありますし、これは好機と言えるでしょう」


「なるほど」

「ただ――」


 滑らかに話していたアイネの口許が淀む。


「その領地を管轄する領主が一風変わった人でして……」


 躊躇った末に歯がゆそうにそう言ったアイネに、傾聴していたハーネリウス候やガーノルドもなにやら複雑そうな苦笑を浮かべていた。


 その理由は、ミレンギが直接テストに出向くことですぐにわかった。


 ファルド国土を縦に割って流れる大きな河川の中流に位置し、河口からやってくる船によって海産物の取引が多くされている港町だ。


 王都へ続く街道も整備されており、行き交う行商人の数も少なくはない。賑やかな発展を見せた中規模の町である。


 ――英雄であるミレンギ様をぜひ持て成したい。


 テストを収める領主のたっての願いを受け、協力を仰ぐためにも、ミレンギは自らの足でこの港町まで足を運んでいた。


 町の混乱を避けるため、アドミルの兵のほとんどは町の外に待機させている。護衛としてガーノルドとシェスタ。そして交渉役としてアイネが同行している。セリィはもちろん、ミレンギから離れようとしなかったので今回も一緒だ。


 かくして五人で町に入り、魚介の独特な塩気のある生臭さを鼻に感じながら、町の中心にある宮殿じみた大きな建物へ向かった。


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