『かくして世界は、賑やかな笑顔に満たされる』
『皆様、ようこそお越しくださいました! 新生アドミル旅団、記念すべき第一回目の公演でございます!』
空を覆うほどの巨大な天幕に、一面埋め尽くされた座席から盛大な拍手が巻き起こる。もう何年ぶりかと思えるほど懐かしく感じる喝采を耳に、ミレンギは舞台袖で深く息をついた。
『それではさっそくの演目です! 最初から全速前回。一番手を務めるのは我らが旅団の団長、ミレンギ! そして可愛らしい竜の子、セリィです!』
天幕に仕掛けられた花火が派手に打ちあがり、煙幕が漂う。
「行くよ、セリィ」
「うん!」
頼れる最愛の相棒の手を握り締める。
何があっても、この手の温かさがいつもミレンギを支えてくれた。
そして、それは今も――。
「よし!」
ミレンギの気合の入った掛け声に合わせて、セリィが体を竜へと変身させる。そしてミレンギが背に跨ると、大勢の視線が待つ舞台へと飛び出した。
光が照らされ、賑やかな音楽と共に、視界いっぱいを埋め尽くした観客たちから劈くほどの歓声があがる。
その音に押し上げられ、ミレンギの高揚感も増していく。
客席を見下ろせば、ノークレンやアーセナ、ユリア、アーケリヒト、フェリーネ。チョトス候やイグニス候の姿まである。みんな、ミレンギが招待した人たちだ。
誰もが楽しそうにミレンギを見上げ、演目に期待の眼差しで待っている。
そんな中、ミレンギは一つの人影を探した。
どうしても見つけたいと思って、演目を少し待ってでも探し続けた。
いないだろうか。
そう思った矢先、台本にはない一際大きな火の玉が上空に浮かび、花火のように砕け、その火の粉を七色に変化させながら散った。
その派手さに観客が大きな歓声を上げて喜ぶ。
「…………っ!」
ふと、客席の一番後ろで陰に隠れるようにして立つアイネを見つけた。
「来てくれたんだ!」とセリィも気付き、嬉しそうな声を上げる。
そんな二人と目が合うと、アイネは不敵に笑みだけを浮かべ、そうして場外の暗闇へと姿を消してしまったのだった。
「行っちゃった?」
「いいや。きっと見てくれるさ、アイネは。人と竜が一緒になれる世界を――」
ミレンギの言葉にセリィは頷く。そうしてその大きな翼を天高く羽ばたかせると、ミレンギを乗せて空を泳ぐように飛びまわっていった。
――かくしてアドミル旅団の公演は大成功に終わった。
ミレンギが選んだ道。
それは人々の上に立つ王ではなく、人々と混じり融和へと導いていく架け橋となること。
この日、その一歩が刻まれた。
まだ未来もわからない、小さな、それでいて新しい、ファルド史に残る大きな一歩だった。
終
私の始めての大長編作品、ここに完結です!
ご愛読ありがとうございました。次回作の連載も同日に開始していますので、ぜひともご覧ください。




