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竜の落とし子 ~没落少年が最強へと至るまでの英雄譚~  作者: 矢立 まほろ
○ 第1部 -ファルド内乱編- 2章 『静寂の森』
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 -5 『シドルド』

 かくしてミレンギたちは『アドミルの光』と名を掲げ、反政府勢力として国内全土に名乗りを上げた。


『アドミル』とは、ファルドに古より伝わりし、今ではほどんど失われた言葉――古代竜言語において『希望』を意味する。


 政府打倒。そして前王の子と名乗るミレンギの台頭。それにより、竜の加護を受けしかつてのファルドを想起し、その旗の元に集う者も少なくはなかった。


 気付けば日も経たずして、シドルドより北方に位置する二つの町と三つの集落が名を連ねることとなった。昔、前王の傍らで国政に携わっていたハーネリウス候の外交の賜物でもある。


 時間は惜しんだミレンギたち『アドミルの光』は北方の要所となるシドルドを、ほとんどの兵力をもって襲撃した。


 隊長モリッツの戦死によって指揮系統の混乱していた駐屯兵たちは瞬く間に遁走。ファルド有数の商業都市はアドミルの手中に落ちることとなった。


 四方を高い壁と堀に囲まれているシドルドは要塞として使えば非常に堅固となる。ミレンギたちの追走で消耗していたせいなのか、篭城されなかったのは幸いといえるだろう。


 ミレンギたちはハーネリウス候とともに町に入り、そこをアドミルの暫定首都として使用することを決めた。


 これも全てハーネリウス候の想像通りである。しかし唯一予想外だったのが、警ら隊が去ってミレンギたちが入れ替わりにやってきてからも、町の雰囲気や住民たちの様子にまったく変わりが見られなかったことだ。


「いらっしゃーい! いらっしゃーい!」


 ミレンギがシドルドの町を歩いていると、聞き覚えのある誘い声が耳に入った。シュルトヘルムで商売をしていた活発な少女だった。


「あれ、おにーさん! 奇遇だねー!」


 満面の笑顔で手を振ってきた少女に気付き、ミレンギと、一緒に町の様子を見に出ていたシェスタとセリィが歩み寄った。


「こんにちは。シュルトヘルムの子じゃなかったんだね」

「あたしは通商連合の人間だからねー。儲けが多そうなとこを嗅ぎつけて先回りして、いっぱい稼ぐのが本業だよー」

「だからここにいるんだ」


「シドルドは実質、通商連合の庭みたいなもんだからねー。この国で商売をする人間はみんな、この町を根城にしてるんだよ」

「なるほど。それにしても、ここの町の人たちって凄いね。警らの人たちがいなくなったのにいつも通りだ」


「そりゃあそうだよ。警らの連中なんてただのお飾りだよ。いてもいなくても関係ない。あいつらは国家に逆らう連中しか目にないし。それに比べてあたしたちは商売にしか目がない。逆に言えば、商売の邪魔さえされなければ、誰がこの町を仕切ってようが関係ないってことさ。でも――」


 にこやかだった少女の目が一瞬で鋭くぎらつく。


「あたしらの商売の邪魔したら、この町の全員が全財産をもって潰しにいくから。ありとあらゆる手段でね」


 声は弾んでいるのに、威迫のこもった声だった。

 同時に、近くで店を並べていた商人たちがこぞってミレンギを睨んだ気がした。


 その異常な恐怖に寒気が前進を伝う。

 息を呑んだミレンギに、少女はけろりとおどけるように笑っていった。


「そういうとこ覚えといてねー、王子さん!」

「……なるほど。身分もバレバレなんだね」


 ミレンギは名こそ轟いてはいるものの、顔はあまり知られていないはずだ。


 情報は何よりも価値がある。

 商売をするならば尚更だろう。

 通商連合。その情報網は侮れない恐ろしいものである。


「ま、あたしたちの邪魔さえしなければ関係ない話だから。それにこれからどんどん戦が始まるんでしょー。だったらいろいろ贔屓にしてよねー。武器や防具もいっぱい用意してあげるから」

「そ、それは頼もしいね」


 触らぬ神に祟りなし。

 彼らを敵に回すことは避けようと思ったミレンギだった。


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