-10『潜入』
「こっちでさあ」
ハロンドの案内で、ミレンギたちは王都周辺の茂みを歩いていった。
姿を隠すには丁度いい月のない夜。
ミレンギとセリィ、シェスタ、ララン、アニューにグルゥ、そしてハロンドの数名で、人目につきづらい獣道を進んでいく。
すぐ近くには王都の傍を流れる川があり、そこを渡ると、水の流れに沿って南下した。するとやがて小さな石で舗装された穴を見つけた。
「ここが王都の貧民街付近へ繋がってる用水路ですぜ。ちいっとばかし狭いですが、ここを通ればほとんど気付かれず中に入れるってね」
あまり綺麗とは呼べそうもない水が流れ出てくるほの暗い出口を指し、ハロンドはにこやかにそう言って見せた。水路の脇にグルゥでもどうにか身を屈めて通れそうな程の通路はあるが、臭いもひどく、グルウがたまらず身を竦ませているほどだった。
気持ちはミレンギもわかる。
できればこんなところは通りたくない。
けれども他に気付かれずに忍び込める手段は見当たらず、苦渋の末に選んだのであった。
そんな億劫な一同の心も気にせず、ハロンドはけろりとした顔で中に入っていく。それをラランは呆れた顔で見つめた。
「というより、どうしてハロンドさんがこんな通路をしってるんですか?」
「いや、なに。この前のアドミルの戦いで増水した川に流された時、この辺りの川辺に流れ着いてよ。傷は痛むがどうにか俺もまだ戦える、って王都を目指して這ってた時にここを見つけて、中に入って行ったのさ。そしたら見事に到着したって訳よ。ま、その頃には戦闘は終わってたがな」
「なんでそんなところから来ようとしたんですか……」
「だってほら。城門には敵がうじゃうじゃいるんだぜい。奇襲って奴よ。今みたいに」
「意味わかりません」
更に呆れて溜め息を漏らすラランに続いて、ミレンギたちもハロンドの後を追って用水路へと入っていった。
中は更に汚臭がひどく、セリィがつらそうに涙を浮かべて鼻を摘んでいたほどだった。
しばらく太く続く通路を歩いていると、やがて外に繋がる出口を見つけた。外に出ると、町外れの協会が見える寂れた貧民街の端だった。
ルーンの進行によって多くの住民が対比したのだろう。
闇夜のせいもあってか、そこは死人の町のように黙している。
「グルゥが隠れるにはちょうどよさそうだね」
市街地の方にはルーン軍が集まっていると思われる篝火が灯っている。
「それじゃあ予定通りに。ハロンドさんも、お願い」
「了解でさあ、ミレンギ様!」
快活にハロンドが頷いたのとほぼ同じくして、王都の外が騒がしくなり始めた。どうやらノークレンたちによる攻撃が始まったようだ。
「敵陣に入り込み、一気に喉元に暗いつく! いくぞ!」
勇んだミレンギの声に、追従するセリィやシェスタたちが力強く頷いてみせた。




