4-1 『結託』
4 『竜の牙、竜の鱗』
ミレンギたちが拠点を構えるシドルドの官舎の一室。そこにミレンギは呼び出された。
やや手狭な部屋にはユリアとミケット。そしてノークレンの姿があった。
部屋の隅にはハーネリウス候やアイネなど、信のおけるファルド中枢の人物が数名。それに加えてユリアの隣へ座するように、耳長族の長老であるハイネスとフエスが傍に連なっている。
部屋に入った途端に感じた厳かな重苦しさに、ミレンギは思わず息を呑んだ。一緒に後ろをついてきたセリィも心細そうにミレンギの服の裾を掴んでいる。
一同の視線がミレンギへと集まり、「これで揃ったのじゃ」とユリアが頷く。
「まずはわたくしから」と最初に切り出したのはノークレンだった。
彼女は部屋の中央へと歩みだすと、ユリアの両隣に並んで座るミケットとハイネスに膝をついて頭を下げた。
突然のこと周囲がざわついたが、ハイネスもミケットも、特に表情を変えることなくノークレンを見やっていた。
「ファルドの王として、国民を代表して謝罪いたしますわ。貴方がたを追放し、辺境にまで追いやったこと。そして今日までそれが続いていること。深くお詫び申し上げますわ」
謝罪。
「よもや公然の場でそのようなことを言われる日がくるとはな」と、ハイネスは自嘲と哀愁のない混じった微笑を浮かべた。
「わしらはファルド王の施しに報いたまでのこと。民に虐げられたわしらを助け、住む場所を与えてくれた。その恩に報いるため、彼らが守りしファルドは守らねばならん。耳長の我らを奇異の目で見る者は未だ多い」
どこか憂いを感じさせる声調で言うハイネスの視線が、ふとミレンギへと逸れる。
「じゃが、今ならば互いに手を取り合えるのかもしれん。そう思ったまでじゃ」
「おじいちゃんは固く言ってますけど嬉しがってるんですよ」
「ち、違うわい」
孫のフエスに面白おかしそうに言われ、ハイネスは白肌を微かに上気させて激昂させていた。空気を和らげるような笑いが周囲から零れる。
互いに手を取り合う。
これまでは民衆の迫害によって王が裏で保護することしかできなかった。しかし今ならばそうではないかもしれない。
事実、ファルアイードの広場でファルドの国民、フィーミアの民、耳長族、そして竜人族であるユリアが共に存在している様子は、まさしく平和を象徴するような理想の光景だった。
もしそれが国中に実現できるなら、耳長族やフィーミアの民を辺境へ押しやる必要もなくなるだろう。彼らはもっと自由になる。
「共通の敵がいるから気にしてないだけってのもあるだろうけどねー」
加えるように言ったミケットの一言もある意味では的を得ていた。
「そうならぬようにすることが、これからのファルドを担う者の役目ですわ。それがわたくしか、ミレンギかはわからない。この戦争が終わりひとまずの混乱が去れば、わたくしも彼に王位を譲る覚悟がありますもの」
「ノークレン?!」
「ミレンギ。本当ならばこの冠は、あの日、あの戴冠式の日に貴方が授かっていたもの。わたくしはそれを奪ったに過ぎませんわ。それも、あんな浅ましい男に利用されて。今は無用の混乱を避けるため、そして贖罪のために偽王としてここいる。けれど本当は今にでも返されるべきなのだとわたくしは思いますわ」
「……ノークレン」
彼女の瞳は揺るがない。
真剣さがひしひしと伝わり、それを適当な言葉で濁すことはできなかった。
一瞬流れた沈黙に、まあまあ、とユリアが割って入る。
「フィーミアも今となっては通商連合という力を得られておる。それは前王たちが手厚く保護をし続けてくれたおかげじゃ。もはや恨む者もおるまいて。これからはファルドの今後。その先のことを話し合わねばならん」
ぐっと、ユリアが胸元を握り締める。
「そのためにも、わらわのことを話さねばならぬ。少し長い話になるが、しばし付き合ってはくれんだろうか」
そうして、ユリアはミレンギに目を据えて話を始めたのだった。
いよいよ物語の根幹に関わる章のはじまりです!
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