表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

王が齢三十八を迎えた年の、ある乾期の日


 砂漠を超えた岩山深くにあり、かつては一番近い人里から十日の距離があった神の屋敷も、今では人が住む家屋に囲まれていた。

 セメルケト王が初めてこの地を訪れた後すぐ、兵や強者を導き運ぶための道が敷かれ、彼らを駐屯させるための兵舎が建てられ、彼らの生活を維持するための人々と屋敷が集まり、さらには商人たちも集まった。セメルケト王の指導の元、年を待たずこの地は巨大な街になっていた。

 その街の中央に、神の屋敷があった。

 神の屋敷の周囲円上には常に変わらず青い炎の線があり、その中に踏み入った者は誰も戻ってはこれない。

 線の外側には兵が常に駐屯していたが、それは中に入る愚か者を制止するためのものではなかった。むしろ、王は中に入る者を奨励していた。国内各地から金で荒くれ者や冒険者を集め、神の屋敷から宝を持ち帰った者にはさらなる財を与えると約束した。

 誰一人、人面の牝獅子がもたらす死を逃れて戻った者はなくとも。

 それでも、挑戦する者は後を絶たずやってきた。

 王自身も、何度も兵を組織しては宝の入手を試みた。さすがに無策で兵を繰り返し突貫させ無駄死にさせるほど愚かではなかったが。各地から知恵者や優れた兵器製造者を集め、毎日毎夜新しい手立てを考案させては、少しでも可能性があるのではと思えば犠牲の大小には無頓着に躊躇わず試みさせた。


 王自身は、炎の線のすぐ外側に別宮を建ててそこに住んだ。新しい策を講じる会議と寝食の時間以外は常に、庭に出て炎の線の前に立っては神の屋敷をにらんでいた。

 人面の牝獅子がいつも、王を見ていた。


「諦めることを知らないのだな、愚か者よ」

「知らぬ。それが俺だ」

「哀れな王だ。だがそれ以上に不幸なのは民だ。

 叶わないおまえの望みのために、どれほどの命をわたしに差し出した?

 おまえは悔いることはないのか。おまえはここで宝に執心するよりも、国政に力を注ぐべきではないのか。己の欲を諦め、民のために何かを成そうとは思わないのか」

「ふん、民に媚を売る王など芸人と同じだ。芸のために生きる芸人か、それとも自分の生活のために芸をする芸人かの種類はあるだろうがな。そんな王に熱狂するような民も、芸人に熱を上げる尻軽共に過ぎぬ。芸人が自分好みの芸を見せなくなったと感じた瞬間に他へと目を移す、信用できぬ者どもだ。

 俺は俺のために王になった。俺の力は俺のために使う。

 もっとも、国の力が俺の力になる以上、国を富ませることに力は惜しまぬがな。

 首都には政治と商売のうまい奴らを適任の位置につかせてある。四方には、任せられる軍人に権限を与えて隣国を攻め取らせる役目を与えてある。

 奴らが上手く機能している間は、この国は富むであろうよ」

「他者を蔑むことしか知らない愚か者よ。

 いつか足下をすくわれるぞ」

「ふん。俺の足下を狙う者など、いつかを待たず常に見てきた。

 だが、そうだな、奴らを抑えるのも面倒になってきた。

 俺はただ、貴様から宝を奪うに足る力が欲しいだけなのだがな」

 王は、眉一つ動かさずに言った。

「国など捨てても構わぬ。貴様の宝さえ得られるならば」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ