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和解と合宿

翌朝、寝坊をして走る青木。改札口まではあと少し。角を曲がり改札口の柱を見ると、セミロングではなく、ポニーテールにした由井が恥ずかしそうに立っていた。


「青木君おはよう」最初に声を掛けてきた由井に慌てる。


「に、似合ってるよ」息を切らしながら真っ直ぐな目をして言う青木に由井は驚き赤面する。


「だ、第一声がそれ?」その言葉を聞いて青木も赤面する。


「あ、お、おはよ」クスクスと笑う由井は嬉しそうに青木の手を引く。


「早く行かないと電車来ちゃうよ!」


「う、うん」


電車に乗り、二人は隣同士に座る。


「髪、変じゃないかな?」


由井はどこか恥ずかしそうでもあり、不安げな表情を浮かべる。

「似合ってるけど、どうして急に?」


「実は妹がね、ポニーテールにした方がいいって言って……」


「なるほど、芽衣ちゃんか」


「青木君、芽衣のこと知ってるの?」


「昨日、由井さんが言ってたからね」由井は顔を赤くする。


「そ、それじゃ、芽衣が変な事言ってたのも聞こえてたの?」


「彼氏とかなんとか……」


ハッと我に帰り青木も顔を赤くする。無言のまま二人はお互いを意識してしまっていた。


教室に入るとクラスメイトが物珍しそうな顔で青木を見る。そんなことを見向きもせず、高柳と鈴木は二人に向かって「おーっす!」「おはよう!」と声をかける。


四人で話をしていると塩田先生が教室に入ってきた。


「おい、お前らに話があるからホームルーム前だが席に付け」


それを聞いた生徒はおとなしく席に着く。全員が席に着いたのを確認すると

「よし、竹田入れ」塩田先生はそう言うと竹田が罰が悪そうな顔して教室に入る。


「お前ら勘違いするなよ。昨日の一件は竹田だけじゃなく、手を出した青木、そして見て無ぬ振りをした者、何より腹が立つのは自分が被害者ではなくて良かったと安堵している者だ」


全員を睨むように塩田先生は続ける。


「竹田、青木の両人から話を聞いたが二人は反省している。なぁ、お前ら高校生にもなって他人を思いやれないとは情けないと思わないのか?」塩田先生の言葉に生徒は下を向いている。


「青木、前に来い」塩田先生の言葉に一瞬ビクッとしたが、塩田先生の作った空気に逆らえず前に行く。


「よし、二人とも握手してお互いに謝れ」余所余所しい感じで二人は握手をした。最初に口を開いたのは竹田だった。


「その、ごめん……」「いや、僕のほうこそごめん……」それを見た塩田先生はニコっとすると「よし、席に着け!もうこの話は終わりだ」

こうしてこの一件は終わりを迎えた。


~昼休み~

鈴木が由井の席に駆け寄る。


「結衣ちゃん、お昼食べよ!」


「うん!」


由井はカバンからお弁当箱取り出す。お弁当箱の蓋を開けるとご飯の上に海苔で字が書いてあり、それを見た由井は慌ててお弁当箱の蓋を閉じた。


「ん?どうしたの?」キョトンと不思議そうな顔で由井を見る。


「ううん、なんでもないよ」慌てる様子を見て更に不思議がる鈴木。


「どうしたの?ちょっと見せて?」


「あっ!だめっ」鈴木が蓋を開けると『青木ハート』と海苔で書かれていた。


「え?」鈴木も驚き、思わず蓋をする。顔を赤らめて(うつむ)いている由井。


「その……多分、妹のイタズラだと思う……」


それを聞いた鈴木は少しだけ笑い


「久し振りに隠し弁して早く食べちゃお!」と言い弁当の蓋を立てかけた。


「隠し弁?」聞きなれない言葉に少々戸惑う由井を見て鈴木は驚く。


「結衣ちゃん隠し弁したことないの?」


「うん」


「ほら、他の人にお弁当見られたくない時に、蓋を立てかけて食べると見えないでしょ」


「おぉ!」画期的なアイデアに目をキラキラさせて驚く。


「ほら早く食べよ!」

二人が盛り上がっている様子を、まるで我が子の成長を見ているかのような高柳。


「なぁ青木、由井と鈴木を見てみ」


「ん?」購買のパンをかじりながら青木も二人を見る。


「俺、この学校に入ってよかったわ」遠目で二人を見ながらボソっとつぶやく。


「まぁ俺も……」青木もつい本音を漏らす。


「青木に声かけて、由井・鈴木の三人の友達が出来て本当に嬉しいって感じたんだよ」


高柳の言葉を聞いて思わず、おでこに手のひらを当てる。


「な、なんだ?」青木のとっさの行動に驚く高柳。


「いや、熱があるんじゃないかと思ってさ」その言葉に少々呆れ気味の高柳は苦笑していた。


ホームルームも終わり、三人は一目散で部室に行く。急ぐ目的はただ1つ、中原よりも先に部室に着いて昨日の無断で部活を休んだことを謝罪するためである。三人は廊下の角を曲がり写真部の部室の前に到着する。高柳がそっと扉の引き手に手をかけると扉が一気に開く。思わず高柳は「わっ!」と大きな声で叫ぶ。


「遅いぞお前ら」


中原はムスっとした顔で腕組をしている。


「あ、あの」微かに聞こえる青木の声を聞いて


「いいから入れ」


そういうと中原は部室の奥に消えていく。慌てて三人は中原の後を追った。

部室に入ると三人は驚く。机にはジュースのペットボトルと紙コップ、お菓子が沢山置いてある。


「先輩、これは……」鈴木が恐る恐る聞く。


「昨日のお前らに対する私なりのお祝いだ」


中原はクスっと笑う。


「どうした?早く乾杯しようじゃないか!」中原は紙コップを各机に置きジュースを注ぐ。


「あ、あの先輩……?」戸惑う青木を見て少し微笑むと「いいから座れ」と言う。


各々(おのおの)が席に着くのを見届けると中原はジュースの入った紙コップを高々に掲げ


「我が写真部の大きな一歩に乾杯!」と叫び一気に飲み干した。

中原を見て戸惑う三人は小さな声で「乾杯……」と言い紙コップに口を付ける。それを見ながら中原はクスッと笑いながらまた口を開く。


「それと、来週から中間テストがあるのだが、テスト明けの週末で1泊2日の写真部合宿を開こうと思ってる」


いきなりの中原の提案に唖然とする三人。鈴木が恥ずかしげに「な、中原先輩!私、金銭的に余裕が無くって……」と言うと「俺もっす」と続けて高柳も口にする。


「安心しろ。私もそんなに余裕は無いが大きなテントはある。自然の中で写真を撮ろうではないか」


それなら大丈夫だと4人は全員参加を決めた。


合宿


合宿当日の朝、他のメンバーと集合する駅に向かうため、いつもの駅で青木は由井が来るのを待っていた。


「05:30か……どうしたんだろ……」


スマホで時計を確認しLINEでメッセージを入れようとした時に、いつもの足音が聞こえた。


「遅いよ!!!え?」


振り向き様に由井を見た青木は少々困惑している。


「ごめんね。実は今日親が会社の人のお葬式に行く事になって、妹が1人になっちゃうんで連れてきたの。もちろん、先輩には許可は貰ったんだけど……」


由井が説明している横からひょこと妹が顔を出す。


「こら、芽衣(めい)!挨拶しなさい!」


由井がそう言うと芽衣は青木の前に出てきた。


「もしかして、青木先輩ですか?」


いきなりの質問に驚く青木。


「え?う、うん、青木です、よろしくね芽衣ちゃん」それを聞いた芽衣は目をキラキラさせる。


「やっぱり青木先輩だったんですね!」いま1つピンと来ない


青木は「あれ?僕と会ったことあったっけ?」と質問する。


「え……いえいえ、お会いするのは初めてですけどお姉ちゃんから何度も何度も名前だけは……ぅぅう」慌てて口を押さえる結依。


「あ、青木君、早く電車に乗ろう」


「え?あ、あぁ」結依の目で何かを察した青木は足早に駅の中に入っていった。


電車の中で芽衣ちゃんは嬉しそうにニコニコしながら結依とお喋りをしている。二人を見ていると、やっぱり姉妹なんだと改めて実感した。

集合場所の駅に着き、芽衣は全員に挨拶をする。中原はキョトンとした顔をしたと思ったら「かわいい……。私の妹にならないか?」などと言う始末だ。


集合した駅からバスに揺られ2時間で目的地に到着した。小さな湖に囲まれた自然豊かなキャンプ場だった。手続きをして各々(おのおの)が持ち込んだ荷物を広げていく。中原の荷物はテントのせいで人一倍多く、大変そうだ。「先輩、手伝いますよ」青木は中原の荷物を持つと含み笑いをした。それを見た中原は「な、なにがおかしい?」少々困惑気味だ。「先輩テントに値札のタグが付いてますよ。まさか今日のためにテント買ったんですか?」少し顔を赤らめた中原は「う、うるさい、他の連中人には絶対に言うなよ」とヒソヒソ声で念を推しタグを切った。

遠くからそのやり取りを見ていた芽衣。「お姉ちゃん、中原さんと青木さんって付き合ってるの?」と真面目な顔をして結衣に聞く。「なっ、なんで?」驚いた結衣は動揺を隠しきれない様子だ。「だって、青木さんと中原さんって仲がいいから」その言葉を聞いて目を向けると楽しそうに笑う青木と中原の姿が映る。

「お姉ちゃんも積極的にならないと中原さんに取られちゃうかもよ……」そう言い残し湖の方へ消えていった。


各自分担作業が終わり、合宿の目的である写真の時間が来た。湖を撮る者、空を撮る者、それぞれが自分の一番残したい瞬間を残していく。

夕食を終え、明日の早朝撮影に備えテントの中に入る。6人が入るには、ちょうどいいサイズだが、男子と女子の間にはリュックで仕切りがされていて、少し狭い感じだ。


皆が寝静まった頃、眠れない青木はテントから出て湖のほとりに腰を下ろす。夜空を見上げると無数の星がお互いを尊重(そんちょう)しながら、お互いを輝かせるように見えた。後ろから足跡が聞こえ振り向くと星の輝きと月の明かりに照らされた結衣が立っていた。


「由井さん?眠れないの?」青木の言葉にうなづく結衣。


「青木君も?」


「眠れないって言うか、なんか不思議で……」


「不思議?」


「中学までは早く大人になりたいとか友情なんてくだらないって思って自分の心を閉ざしていたのに、今はこの時間が永遠に続けばいいなぁって思ってて、人間てワガママな生き物だなって」


「わがままじゃないよ。私も青木君と同じだから」結衣は青木の横に座り夜空を見上げる。


「私もこのまま、ずっと皆で笑えて楽しい時間が消えなければいいと思ってるの。だけどね……」


「けど?」


「もっと前進したい事もある」結衣は顔を赤くする。


「私は弱い人間で、辛い事があるとすぐに逃げてばかりいたの。それでも中学の時に青木君に出会って同じ高校に行きたいって思うようになって……」結衣の顔は更に赤くなる。


「青木君と同じクラスで嬉しかったし、私の事覚えてくれてないと思ったけど、自己紹介の時に勇気を出して青木君の名前を出したの。一緒に帰ろうって誘った時も心臓が飛び出しそうなくらいドキドキした。でもそうでもしないと前進出来ないと思ったの……」


「青木君……わ、私……」結衣と同調して青木も顔を赤らめる。


「は、はい」青木の声が上ずる。


結衣が何を言おうとしているのかは鈍感な青木にも分かった。


その時、茂みから音が聞こえ驚いて二人は振り向く。


「ばか!あんたが押すから……」


「だってこっちからだとあまり見えないし……」


ヒソヒソ声と呼ぶには大き過ぎる声で鈴木と高柳がケンカしている。結衣と青木の視線に気付き慌てて茂みから出てくる。


「あれ?二人も眠れないのか?」白々しい態度で高柳は声をかけた。鈴木は申し訳なさそうにシュンとしている。

青木と結衣は顔を赤くして(うつむ)いていた。遠くから二人のやり取りを見ていた芽衣はなぜか胸を撫で下ろしていた。こうして夜が更けていった。


日の出と共にけたたましい目覚ましのベルがテント内に響き渡る。


「おい、お前ら私より若いのにまだ起きないのか?」


中原は大きな声で全員を起こす。寝惚けまなこで全員が起き、冷たい水で顔を洗う。ハッキリと目が覚めた視界には朝日に照らされた湖がキラキラと輝いていた。


「わぁ……綺麗……」芽衣が目をキラキラさせて、その風景に目を奪われている。


「芽衣ちゃんは朝が苦手なのか?」中原は無邪気に喜ぶ芽衣を見て少しだけ大人ぶって聞いた。


「うーん、苦手と言うか……朝とは無縁だったもので……」意味あり気な発言に中原は少し言葉を選ぶ。


「そうか、まぁ朝食を食べたら写真を撮るから楽しんでいくといい」


「はい!」無邪気に笑う芽衣を見て中原も釣られて笑った。


青木と高柳は二人でトイレに向かっていた。


「青木……」


「ん?」


「その……昨日は悪かったな」


「別に気にしてないよ」


「でもさ、由井は青木に告白しようと……」


「ちょ、ちょっと待った!それ以上言われると恥ずかしいから……」


「お、おう。もし俺達が邪魔に入ってなかったら、オッケーしてたのか?」


少し青木は考え「分からないんだ」と答えた。


「分からない?」青木の想定外の発言に戸惑う高柳。


「だって、今の関係が俺にとっては考えもしないくらい充実してて、それでいて由井さんと付き合うとか想像も出来ないよ」


「お前さぁ」呆れた様子の高柳は続ける。


「由井が勇気を出して告白して分かりませんじゃあ、あまりにも不憫(ふびん)過ぎるだろ。女心が分からなすぎだって」


「そうなのかな」


「まぁ、しっかり考えてやれよな!」青木の背中を軽く叩くと歩き出した。


朝食を終え、それぞれが自分の撮りたい場所へ向かう。


「あの、青木先輩、私もご一緒していいですか?」芽衣は青木の袖を(つか)みお願いをする。


「う、うん」少し戸惑う青木を見てニコッとすると


「わーい」と芽衣は小学生みたいに喜んだ。二人は湖のほとりに腰をかけると水面(みなも)に映る森を撮る。


「なんか逆さ絵みたですね」芽衣は無邪気に喜ぶ。


「うん、なかなか綺麗に撮れたよ」青木も満足そうに撮った写真を何度も見る。


「青木先輩……その、昨日もしお姉ちゃんがちゃんと告白出来てたらOKしたんですか?」


「え?」突然の発言に戸惑う青木。


「答えてください」芽衣はいつになく真剣だ。


「分からないんだ」


「え……」その発言に驚く芽衣。


「分からないって好きかどうかが分からないってことですか?」


「いや、由井さんと一緒にいるとドキドキするし、楽しいし、ずっと一緒に居られたら幸せなんだろうなって思う。だけどその感情が好きなのかって疑問で……」


「あの……先輩って彼女いたことあります?」芽衣は呆れた顔で質問する。


「いない。異性を好きになったことも無い」芽衣はそれを聞いてため息をつく。


「それなら、私が付き合って下さいって言ったらどうしますか?」


唐突(とうとつ)な質問に慌てる様子の青木。


「な、なんで芽衣ちゃんが俺と?」


「例え話ですよ」


「た、例え話か……」


「で、どうなんですか?」


「芽衣ちゃんの事をまだ良く分からないし、もう少しお互いを知ってからのほうがいい気がするんだよね」


「ならお姉ちゃんはどうなんです?」芽衣の問いに真剣に考える青木を見つめる芽衣。


「もういいだろ」突然後ろから中原が声をかける。


「せ、先輩!」驚きの余り声が裏返る青木。


「すまんな、盗み聞きをしていた訳でもないんだが……いや、少しはあったか……」呆れ顔の芽衣を尻目に中原は続ける。


「芽衣ちゃんがお姉ちゃんを大切に思う気持ちは分かる。だけどこれは青木とお姉ちゃんの問題なんだ。二人はゆっくりではあるが互いを尊重しあって少しずつ前進している。だからもう少し見守っててあげないか?」不意を突かれ動揺する芽衣。


「わ、分かってます。けど中原先輩はどうなんですか?青木先輩の事好きじゃないんですか?」


「え?先輩が俺を?」慌てる青木。


「あぁ、私は青木が好きだ。それが何か問題あるのか?」


「え?」


キョトンとする青木には目もくれず芽衣に言いかかる。


「私が青木を好きなことと、芽衣ちゃんが何か関係あるのか?芽衣ちゃんが青木の事を好きならば話は別だがな」それを聞いた芽衣は顔を赤らめる。


それを見た中原は少し慌てる。「もしかして……芽衣ちゃん青木が好きなのか?」


「べ、別に私の事はほっといてください!」そう言い残し芽衣は走り去った。


それからは何事も無かったかのように合宿は終了した。合宿で変わった事と言えば、芽衣が青木に対して、どこか他所他所(よそよそ)しい態度になったことぐらいであろう。


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