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部活

翌朝、駅の改札口で由井を待つ青木。


「はぁはぁ、ごめん!待った……よね?」


息を切らし膝に手を付く由井を見て笑う。


「な、なに?謝ってるのに……」


そんな由井の前にスマホを見せる。


「遅れるんだったら先行っててとか連絡出来ただろ?連絡が来ないってことは間に合うって事だと思ってさ」


由井の呆気(あっけ)に取られた顔を見て青木は気付く。


「まさか連絡するの忘れてたの?」


思わず思っていた事を言葉にする。


「はい……忘れてました……」


自分自身に対して(あき)れた様な顔をする由井。そんなやりとりをして、二人は一本後の電車に乗り込む。電車に乗ると二人は距離を空け、別々の景色を見る。


青木はスマホを取り出し匿名掲示板を開く。いくつもあるスレッドタイトルから目に付くものを発見した。


「新しい高校生活ドキドキしてるんです!」


開くと、まだ書き込み方が初々(ういうい)しくて自分の様に感じ返信をする。


「リア充なの?」


すると()(さま)返信が来る。


「中学までは非リア充でしたけど友達が一気に3人になりました!」


青木は偶然(ぐうぜん)な事があるものだと


「俺も3人出来たよ!俺も含め男2女2のグループ友達みたいな感じで」と返信する。


書き込みの言葉が由井みたいで面白く、ふっと由井の方を見る。由井もスマホの画面から青木の方を覗く。お互いにまさか!っという顔をして青木はすぐに匿名掲示板に打ち込む。


「Yさん?」


返事は早く「A君?」


すぐに由井を見る。由井もすぐに青木を見る。他の書き込みが


「自演乙」


「つまんね」


などと書かれている中、青木に一通のLINEメッセージが届く。相手は由井だった。


「まさか青木君だったとは笑」


「俺もビックリしたよ、由井さんとは思わなかった」


同じ電車の車輌にいながら、別々の場所にいて、同じ空間を共有している。不思議な感覚の中に二人は存在していた。


駅を降りてバスに乗り、高校近くの停留所で降りる。桜が舞う景色と由井の後ろ姿に青木は思わず見とれる。景色と由井が一体化して、1つの風景画のように見えたからだ。教室に着くと高柳と鈴木は二人の席付近にいた。


「おっす!青木」


どこか恥ずかしそうな顔をする高柳に青木も少し恥ずかしそうにする。


「ちょっと、高柳も青木も何かあったの?」


興味津々に二人を(はや)し立てる鈴木。


「べ、別になにもねぇよ!なぁ青木」


「う、うん。別に何もないよ」


ふーんと顔をする鈴木に由井も声をかけるタイミングを逃すほどだ。それに気付く鈴木は


「おはよう!結依ちゃん!」


とさっきまでの疑いはどこへ行ったのやらと思えるほど切り返しが早い。


「お、おはよ、早苗ちゃん!」


由井も慌てて返事をする。こうしてまた1日が慌ただしく始まった。


放課後


四人は部活動見学を一緒に回る事にした。昨日は高柳、鈴木の意見を聞き失敗したこともあり、今回は青木と由井の見学したい場所に行くことになった。


「由井さんはどこがいい?」


「青木君は?」


鈴木は早く見学に行きたくてウズウズしている様子だ。


「僕は由井さんの行きたいところに……」


「私も青木君が行きたいところなら……」


決めかねる二人を見て高柳が口を出す。


「それなら歩きながら決めようぜ!目についた場所に見学すればいいんじゃね?」


三人とも高柳の意見に賛成し校内を見て回る。キョロキョロと周りを見渡す中、青木がピタリと足を止める。壁に飾られていたのは高校の入り口の校門と桜の写真。とても綺麗だけど何か足りないものがあるような気がしてならない。言うならクイズのような感覚にとらわれていたのだ。


「青木君?」


真剣な青木の顔を不思議がる由井。


「どうした青木?」


高柳も不思議そうに青木を見る。


「いや、なんて言うかさ……この写真、何か足らなくない?」


三人は青木に言われて写真を見るが今一つ青木の言葉の意味を理解出来ないでいる。すると、目の前のドアが急に開いた。

ガラガラ


「ようこそ!写真部へ!」


ロングヘアーで黒髪の気品溢れる女性が手招きをする。急な登場に逃げ場を失った四人は仕方無しに写真部へ見学することになった。


「まぁ座りなよ」


写真部員はパイプ椅子を四つ並べる。戸惑う四人を見て自己紹介を始める。


「あぁ、私は三年の中原千夏(なかはらちなつ)だ。写真部の唯一の部員であり、部長だ。中原先輩でも千夏先輩でもどちらでも構わないが……先輩って必ず付けてくれ。そ、その、去年も後輩が居なかったからさ……」


勝手に自己紹介を始め、勝手に照れ出す中原を見て戸惑う四人。


「そ、それは置いといて、入口にあった写真どうだ?見事だろ?あれは私が去年撮ったんだ」


腕を組み自分に酔いしれる中原。


「それが、俺達にもよく分からないんですが、こいつが何か足らない写真だって言って……」


青木を指差す高柳。


「ちょっと高柳止めなさいよ」


小さい声で注意する鈴木の声は間に合わず、中原は青木の方に近寄る。


「君、名前は?」


「あ、青木です」


「青木君かぁ。何か足らないって事は、足りてないものと、この風景を一緒に見たことがあるのでは?」


その言葉を聞いて脳裏に由井の姿を思い出す。急に顔が赤くなる青木を見てニヤ付く中原。


「青木君?」


心配そうに顔を覗き込む由井を見て中原は何かを感じ更にニヤニヤしている。


「とにかく、1度写真を撮ってみてはどうだろうか?明日は新入生は休みだろ?植物園に行こうではないか」


鈴木が間髪入(かんぱつい)れずに質問をする。


「あの……明日は新入生だけの休みで先輩は学校が……」


「それなら(あん)ずるな、部員が一人にも関わらず、同好会ではなく写真部として存続出来てるのは、私が学年トップの成績だからだ。可愛い後輩のために1日くらい休んでもトップは揺らぐことのないのは事実だからな」


ドヤ顔をする中原に四人は根負(こんま)けして承諾(しょうだく)した。

明日の待ち合わせ場所、時間を決めて部室を出ようとする四人を慌てて止める中原。


「待て皆!そ、その、ス、スマホはあるか?」


頷く四人を見て中原は笑顔になる。


「連絡先を交換しといた方がいいと思ってな……そ、その、LINEってやつをだな……」


照れる中原の前に四人はスマホを差し出す。


「青木、登録のやり方を教えてくれ……」


「せ、先輩まさか……」


青木の言葉に顔が真っ赤になる中原。


「言うな、頼むから言わないでくれ……」


四人は顔を見合せ、少し含み笑いをすると高柳が馴れた手つきで登録を済ませる。


「ありがとうな……」


赤い顔で目を潤ませる中原に四人は笑い出す。


「わ、笑うなよ……」


さらに顔を赤くする中原に由井は助け船を出す。


「私も、ついこの間までは分からなかったんですよ」


その言葉を聞いて中原は由井に抱き付く。


「いい後輩が出来たな……」


苦しそうに中原の手をほどこうとする由井は


「ま、まだ写真部に入部するとは……」


二人のやり取りを見て笑う三人は(たの)()だ。


帰りの電車の中で青木と由井は距離を縮めていた。話題は(もっぱ)ら中原だが、青木は屈託(くったく)のない笑顔の由井に好意を(いだ)き始めているように見えた。


次回より更新は19:00になります。読んで頂きありがとうございます。

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