新しい小さな輪
~軽音部~
「をを!今年は初日に四人も見学者が来るなんて……」
軽音部の部長が感動して、四人を見つめる。新入生歓迎ライブを聞いてその日の部活動見学は終わった。
「青木……どうだった?」
「なんて言うかロック過ぎない?」
「だよなぁ。想像してたのと違った」
はぁ、と高柳はため息を付く。
「由井と鈴木は軽音部に入るのか?」
高柳はぐったりした二人の顔を見て察する。
「だよなぁ……なぁ、これから四人でハンバーガーでも食べていかない?」
すぐに帰るのはキツいと思った三人は賛成して駅近くのファストフード店に向かった。
~ファストフード店~
「ここでいいかな」
高柳は空いている席に座り、注文した食べ物をジュースで流し込みながらため息を付く。
「はぁ、疲れた。聞いてるこっちが疲れるなんてなぁ」
ガックリ項垂れた様子を見て鈴木が笑う。
「高柳君って面白いんだね」
「あのさ、その高柳君って止めてくれ、高柳でいいから!」
それを聞いた鈴木はまた笑う。
「俺も鈴木、由井って呼ぶから宜しくな」
さっきまでの疲れはどこに行ったのかと思うくらい高柳は元気になっていた。
「なぁ、この四人でLINEグループ作ろうぜ」
高柳の提案に四人はお互いに友達登録をする。
「ん?青木と由井の二人は友達登録しないのか?」
高柳の指摘にドキッとする二人。
「い、いや、ほら同じ中学だったからさ……」
青木の言葉に必死に頷く由井。何か言いたげな高柳を横目に「グループ名何にする?」青木は質問を変えた。
「グループ名かぁ、鈴木と由井は何かある?」
二人とも考えては見るものの思い浮かばない。
「友達……」
青木がボソッと呟く。
「友達かぁ……いいかも」
鈴木も賛同する。
「うん。私達らしくていいかもね」
由井もどこか嬉しそうだ。
「友達、うーん、まぁ皆がそれでいいならそうすっか!」
高柳はLINEグループ【友達】を作ると三人を招待した。こうして新しい学校で友達の小さな輪が誕生した。
駅で高柳、鈴木と別れ二人は電車に乗り込む。すぐさまグループLINEからメッセージが届いた。
「気を付けて帰れよ!」
高柳のメッセージの後に鈴木から
「はーい」
「鈴木の家は近くなんだろ!二人に言ったんだよ!」
「酷くない?」
そのやり取りを見て笑う由井。
「確かに酷いね」
由井のメッセージに反省したのか高柳は
「三人とも気を付けて帰れよ!」
それを見た青木は
「お前も気を付けて帰れよ」
とメッセージを送る。青木と由井は同じ電車の空間にいながら別々の場所で同じLINEを見詰めていた。
駅に着くとまたお互いの距離が縮まる。
「じゃあ、また明日ね!」
由井は嬉しそうに手を振る。
「あぁまた」
昨日よりはしっかりと由井の手に答えるように手を振ることが出来た青木。そんな青木を見て軽く微笑むと由井は家路に向かっていった。
家に着くと高柳からLINEメッセージが届いていた。
「暇が出来たら連絡求む」
「いつも暇だけど」
思わずツッコミのような返事をする。ベッドに横たわり天井を見つめる。毎日が自分の知らなかった世界で、今でもどこかふわふわしている感じに少し酔いしれているようだった。青木のスマホが鳴動する。発信者は高柳だ。
「もしもし?」
「おう!青木、悪いな今大丈夫か?」
「大丈夫だけどどうした?」
「お前にだけは本当の事を言っておきたくてな……」
「本当のこと?」
「あぁ、ほら、俺リア充みたいに感じるだろ?」
「リア充そのものだろ、お前がリア充じゃなかったら俺はどれだけの存在になると思ってるんだよ」
「実は俺、中学時代は、ぼっちだったんだよ」
「え?」
「中学時代にいじめられっ子を助けた変わりに俺がいじめられっ子になったってやつ……みたいな」
「そうか、けどお前はリア充だぞ」
「だからリア充じゃ……」
「僕は高柳みたいに、いじめられっ子も助けられない。見て見ぬふりをすると思う。俺から見たらお前は充分過ぎるほどリア充だ」
「そっか……ありがとうな。やっぱ青木に声かけてよかったよ……」
「そういえば、なんで俺だったんだ?他にも居たのに」
「同じ空気を感じたんだ……その……ぼっちのさ……」
「あぁ……なるほどな……」
「悪いな……」
「いや、謝ることない、高柳に声かけてもらって俺もよかったよ。色んな意味でさ」
「そ、そうか?そんな訳だからこれから宜しくな!」
「あぁ、こちらこそ宜しく」
電話が切れると青木は窓から見える空を見上げる。心が温かくなるような気持ちと、これから訪れる新しい期待と不安に気持ちが高揚する、生まれて初めての感情が青木を包み込んだ。