新入生歓迎会
いよいよ、新入生歓迎会当日を迎えた。各部活とも新入部員を入れようと意気込みが感じられる。それもそのはず、この学校は部活の実績+部員数によって年間予算が割り当てられる。運動系の部活は特に必死で部活動紹介の順番までもをシビアになって争うくらいなのだから。
青木達は午後一番になる。順番的に昼食後一番で最悪だ。午前中は運動部の紹介が始まり、それが終わると各クラスが出店する模擬店が活気だっていた。
午後になり、新入生は再度体育館に集められた。いよいよ青木達の出番である。司会から写真部の紹介をされ一斉にカーテンが閉められる。そして照明が落とされ壇上の上からスクリーンが降りてきた。新入生達がざわめく中、スクリーンに1つの写真が投影された。パンフレットの表紙にもなっている、チューリップ畑に映る由井の写真だった。
新入生がシーンと静まり返るとスクリーンは上がり、壇上にスポットライトが当たる。そこには園芸部から借りてきた無数のチューリップ畑を見つめる由井。時折吹く風を大型扇風機で再現する鈴木と竹田。最高の一瞬を逃さずファインダーを見つめる青木。からかうような風を背にして上を向く瞬間にシャッターは下ろされた。そう、まさにパンフレットの表紙のあのシーンであった。そしてマイクを持った高柳が登場し
「僕達はこんなことをしています、あ、変な意味じゃなくて写真を撮ってます」
そう言うと、会場は疎らな拍手と少しの笑いに包まれた。
夕方、部室の中で新入生が見学に訪れるのを待つ。幾人もの新入生が下校して行くのを窓から眺める。
「失敗だったのかな?」
鈴木は頬杖を付いたまま天井を見上げたその時、部室の扉をノックする音が聞こえた。
「は、はいどうぞ」
青木は慌てて背筋を伸ばす。小さな身長だが、どこか誰かに似ている雰囲気や面影があった。
「あの、中原美里と言います。入部希望です……」
恥ずかしそうに名前を言った瞬間に青木、高柳、由井、鈴木の4人は頬が緩んだ。
「中原先輩の妹だ~!!」
鈴木はダッシュで駆け寄ると中原に抱き付く。
「え……あ、はい」
苦しそうに照れる中原を見て涙ぐむ由井。
「やっぱり繋がりってあるんだね……」
青木はその言葉に無言で頷き、窓の外に映る夕焼けを見ていた。
「あのさ……感情に浸るのはいいが、誰か扉の前にいるぞ」
竹田の言葉を聞いて部室のドアに目を向けると、ガラス越しに頭の影が少しだけ見えていた。竹田は不意に扉を開けると一人の女の子がいた。
「わっ!」
女の子はいきなり開いた事に驚き思わず声を漏らす。
「芽依!?」
由井が声を出すと竹田が驚く。
「え?知り合い……ってか妹か!?」
結依と芽依は身長は違えど、やはり姉妹でとても似ている。
「芽依ちゃん、うちの高校に来たんだ!よろしくね!」
鈴木は中原と芽依をぬいぐるみのように抱き寄せる。抱かれているのが、まんざら嫌でもない中原と本気で嫌がる芽依を嬉しそうに青木は見ていた。
「青木部長、これから頼みますよ」
高柳は冗談混じりで青木の肩を叩く。
「まったく……他人任せの発言はやめてくれよ」
少し微笑む青木を見て竹田も頬を緩ませていた。
和やかなムードの中、誰かが後ろからいきなり声を発する。
「あのー僕のこと無視しないで欲しいんですけど……」
全員がとっさに振り返ると一人の男の子がいた。
「板橋じゃん」
芽依が口を開くと結依が驚く。
「芽依、もう友達出来たの?」
「いや、こいつ私のストーカーでわざわざ他県の高校まで私を追いかけて来たみたい」
冷たい目で板橋を見る芽依は少し怒っている。
「ストーカーじゃない!たまたま、俺が受けた高校にお前がいただけだろ!」
「あら?私はお姉ちゃんや青木先輩がいたからこの学校に来たけど、あんたは何でこの学校なの?」
「べ、別にお前に関係ないだろ」
「ほら理由ないじゃん」
「理由は……その……写真を展覧会で見て……」
追い立てられる板橋を青木はどうしても過去の自分のように見えて仕方なかった。
「ほら、芽依ちゃんもう終わり。板橋君だよね?よろしくね」
青木がニッコリすると板橋は青木をキッと睨み
「あなたには負けませんから……」
ボソッと呟いた。新しいメンバーと共に前途多難な新学期が始まった。




