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シリンディンの白鷲  作者: 一枝 唯


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第3話 騎士と戦士1-5 彼を侮らない方がいい

 イズランは嘆息したが、次には笑みを浮かべていた。

「実のところを言えば、アンエスカ殿とは、改めてお話をする約束をしています」

 唐突とも聞こえる話運びで、魔術師は神殿長にそう告げた。

「何」

 ヨアフォードは眉をひそめた。

「正直なところを申し上げて、彼の剣におののいた私は魔術でその場を逃げ出しました。ですが、ミキーナ殿を放っておく訳にはいかないと思いまして、少ししてからそっと戻ったんです」

 肩をすくめてイズランは続けた。

「さすがに騎士殿が女性に無体な真似をすることはなく、彼女は縛られてなどはおりませんでした。私は丁重に、ミキーナ殿を連れてもよいかとアンエスカ殿に尋ねました。彼は彼女を人質に取るつもりなどなく、かまわないと言ったのですが」

 魔術師は肩をすくめた。

「そのとき、ヨアティア殿負傷の報が入ってきまして。ミキーナ殿は、彼の看護をすると館に残りました」

 魔術師はそう説明し直して息を吐いた。

「ここも正直に申し上げましょう。私は、ヨアティア殿の命を救う条件として、ルー=フィン殿を一旦引かせるという約束を団長殿と交わしました。それからそこに、もう一度お話をとお願いを乗せました」

「……ふん、そういうことか」

 話を聞いた神殿長は、あごに手を当てた。

「奴らには、ヨアティアを生かしておく必要などなかろうにと思っていた。人質に取るなどは奴らの好く名誉に賭けてやらぬであろうし、かと言って逃がすとも思えず、正式な処刑を目論んでいるものと思ったが、何のことはない」

 お前か、とヨアフォードは首を振った。

「判ったぞ、イズラン」

「何のことでしょう、ヨアフォード殿」

「お前は、敢えて、残したのだ。ヨアティアとミキーナを、奴らの手に。戦力で分が悪い連中が、あれらの命で私と交渉することを期待したのであろう」

「何を仰っているのか、判りませんが」

「黙れ」

 ヨアフォードは一喝した。

「お前はアル・フェイルの間者。私はそれを忘れぬ。お前は、私が容易に勝利するようでは不都合なのだ。自らが、アル・フェイルが手を貸したと、私に恩を売らねばならぬからな」

「まさか」

 イズランは肩をすくめた。

「容易に勝利されれば、それでよいではありませんか」

「ごまかそうとしても無駄だ」

 神殿長は首を振った。

「だが、認めぬと言うのであれば、認めずともよい。その代わり、策略は何の役にも立たなかったこと、胸に刻み込むのだな。騎士どもは人質など取らず、私は情に流されぬ」

「そのようですな」

 イズランは、そうとだけ答えた。それは、策を認めたようにも取れた。

 ヨアフォードはしばし黙り、イズランを観察した。魔術師は視線を落とし、恭順の意を示しているように見えた。

「――だが、アンエスカと話の約束を取り付けたというのは上出来だ」

 次にはヨアフォードは、イズランの計画を持ち上げた。

「痛めつけたところで容易に口を割る男ではないが、手段はいくらでもある」

 年上の男は、じろりと相手を睨んだ。

「そうだな、魔術師」

「ええ、仰る通りです」

 灰色の髪の男はうなずいた。

「ただし魔術を使用するならば、必要なことを聞き出したあとは頭が壊れようとかまわないとのご許可が要ります」

「狂うのか」

「通常であれば、自分が壊れる前に屈します。生物の本能として身を守ることは当然ですからね。ですがたまに、強固な意志でもって本能の警告を無視し、狂死に至る者も。騎士団長殿は後者でしょう」

「白状するより前に死なれては困る」

 唇を歪めてヨアフォードは告げた。

「そこは気遣いますが、人間は頑丈かと思えば、つまらぬことで簡単に死することもあります故」

「もっともだな。苦悶の死への恐怖で、安楽な死を選ぶこともある」

「成程、例の毒のように」

そうだ(アレイス)

 ヨアフォードは静かに答えた。

「魔術では、毒は抜けまいな」

そうですね(アレイス)

 今度はイズランが言った。

「ご忠告の通り、毒物には気をつけさせていただきますよ」

 魔術師は脅迫未満の警告を理解した。

「ならば強固な意志を砕くことからだな。では、お前がいようといまいと、取る手段は変わらぬようだ」

「拷問、ですか」

「生憎とシリンドルに専門家はいないが、アル・フェイドにはおろうな」

「確かに、おります。呼びますか」

「いや、これ以上アル・フェイルに借りを作る気はない」

 ヨアフォードは首を振った。

「死なせぬ程度に、私がやろう」

 神殿長は残虐な光を瞳に浮かべた。

「アンエスカとはどのように約束をした」

「夕刻に〈峠〉の入り口でと」

「上の神殿に誘導するつもりかもしれんな」

 あの男が簡単に白状などしないこと、ヨアフォードも重々承知だった。だからこそ、秘密を知らせるふりで上へ連れて行き、彼らの神の膝元で神の加護を受け――勝負を賭けるつもりだ。ヨアフォードはそう予測した。

「よし」

 ヨアフォードはうなずいた。

「イズラン。お前は、〈峠〉の入り口には向かってはならぬ」

「は? しかし……」

「アンエスカはお前を殺すためにくるのだ。〈峠〉の神があやつに加護を与えれば、お前の魔術など何も効くものか」

「まさか」

 魔術師は笑った。

「神に力がないとは、言いません。しかし概して、神々は人間の為すことになど介入せぬもの」

「イズラン」

 再び、ヨアフォードは彼を呼んだ。

「ここをどこだと思っている?」

「どこ、とは……」

「シリンドル。――神のおわす地だ」

 そう言って神殿長は、薄く笑った。魔術師は黙った。目前の男が皮肉で言っているものか、本心から言っているものか、イズランには判らなかった。

「あれがハルディールの傍を離れれば、指導力のある人間はいなくなる。生憎と取り囲めるほど僧兵はおらず、場を与えれば、王子を支持しようと考え出す者もまた増えるやもしれん」

 ヨアフォードは小さくうなずいた。

「ルー=フィンのために館は取っておきたかったが、こうなったら火でも放つか。消火や逃亡にかまければ、説得の演説をする暇もあるまい。ルー=フィンはハルディールを手にかけたかろうが、あやつにはまず、残った騎士を殺らせる」

 淡々と、男は考えを告げた。

「そうすれば、王子を守れる剣はない」

「タイオスがいます」

 イズランは指摘した。

「彼を侮らない方がいい」

「お前たちがこぞって騙された戦士か。よし、ではお前が相手をしろ。殺さずとも、ルー=フィンの邪魔をさせないだけでかまわん」

「その程度でしたら」

 魔術師は了承した。

「結果的に、アンエスカをおびき出すことになった訳だ。大目に見よう、イズラン。その代わり、三度目はないと知れ」

「相承知いたしました」

 灰色の髪をした魔術師は、わずかに頭を下げた。


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