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攻城戦 6


「はぁ、とりあえず片付いたね」


「ですね、若干やり過ぎた気がしないでもないですが…」


「あははー、私達もやり過ぎちゃいました。何せ初めての実戦だったものですから…」


あの、混沌とした状態から約5分が経過した時にはすでに立っているのは日向達四人だけだった。


魔物は全て倒されると死なずに存在そのものが消滅してしまった。


残るは城門の前にいる地龍を含めた101体だけだった。


「じゃ、地龍はミルに任せるよ。まだ狩った事ないでしょ?」


「えぇ、出来るでしょうか」


「あれだけ正確に矢を放てたら余裕だよ」


日向は一度迷宮でドラゴンの群れに遭遇している為地龍を見てもあまり驚かないが普通の人達は違う。地龍は、というかこの世界では恐怖の対象とされておりそれに対抗出来るのは力のある者達だけだ。


ミルはついこの前迄戦う力など皆無だったのだ。


地龍は見た目だけは怖そうなので少しミルも億劫そうな表情をする。


「わ、わかりました。ヒナタ、地龍は任せなさい。他の魔物は任せていいですか?」


「大丈夫だよ!じゃ、その後は勢いで勇者のお城に堂々と侵入する感じで」


日向は三人に確認を取ると先頭を行く。少し遅れてミルが日向の横に並びメイドの二人がその後ろを付いてくる。


「勇者達は何してるのかな?そろそろ出て来ても良い筈なんだけどなぁ」


「ですね、まぁあそこには私達より強いエリスがいるんですから何かあっても大丈夫でしょう。それよりそろそろ相手の魔物がこちらに来る様です」


ミルがそう言った直後地龍が日向達に反応する。


「じゃ」


「はい」


二人は最後に短いやり取りをして、お互いの戦場へと駆け出して行くのだった。


「ふぅ、攻城戦が始まる前にヒナタにああ言ったのです。私も覚悟を決めないと…」


ミルは緊張をしている自分を収める為軽く深呼吸してから弓へと手をかける。


「さて、地龍さん。私の成長を確認する実験台になって下さい!」


ミルは水属性を矢に付与して目に狙いを定めて放つ。


「ゴォォォ!」


ミルの放った矢はちょうど地龍の右目を貫き地龍の視力を片方奪う。


地龍もまさかここまで的確に目を狙われるとは思いもせず苦痛の声をだす。


両者の距離は約30メートル。地龍がミルに攻撃するには少し距離が遠過ぎる。だが地龍は動かない。いや、動けないと言った方が的確だろう。


地龍はミルの迫力に飲まれているのだ。なんとしてでも仕留めてやる。そんな感情が地龍にも伝わってくる。


今のミルの目は狩人の目だ。ミルは鋭い目つきで地龍の動きを見る。


「攻撃してこないんですか?警戒なんてしてその場で固まっていたら的ですよ」


ミルはそう言ってまた矢を放つ。その狙いは先程射た目とは逆の目だ。


「グゥゥゥゥ!」


流石に二度目は通じないらしく地龍は僅かに顔を反らす。


ミルの矢は目には当たらなかったものの地龍の頭に刺さりまたかなりのダメージをくらう。


「流石に二度目は通じませんか…まぁ、それでもある程度ダメージは効いている様ですが」


ミルはそう言った後弓を仕舞い杖を出す。


「やっぱり弓ではダメージが通りにくいですね。後は魔法で片付けてしまいましょう。そろそろヒナタ達も終わる頃でしょうし」


ミルはだんだん魔力を杖に込めて行く。魔法はあまり得意ではないが魔法神の加護が付いているので上級の攻撃魔法程度なら放つ事が出来る。


とミルは考えているが上級魔法を行使出来れば魔術師の中では一流扱いされるだろう。


最近楓や日向、アルのせいでミルまで常識感覚が薄れていっている。


獄炎地獄(インフェルノ)


ミルは上級魔法の一つである獄炎地獄(インフェルノ)を使う。


すると段々と火の海が生み出されていき瞬く間に地龍を飲み込む。


「か、勝った…」


地龍は最後鳴き声すらあげる事が出来ずに消滅する。


「おつかれ〜。ミルもだいぶ魔法が上手くなってきたね!私も頑張らないと!」


日向達は先に残りの魔物達を片付けるとミルと地龍の戦いを眺めていた。


「ありがとう、まさか地龍をここまで簡単に倒せる様になるなんて…信じられないけど嬉しいです」


「おめでとう!」


「おめでとうございます」


「ミルテイラ様ならあの位余裕ですよ」


ミルはそのあと少しの間ポケっとしていたがそれもしばらくすると強制的に現実に引き戻される。


何故なら…


「げ!!まさかの全滅じゃん。あ、そういえば佐倉さんは勇者の適性があったっけ」


「まぁ、それなら出来なくもないな」


「それより、ここで佐倉さんを倒せば俺達の勝ちじゃね?」


「そうなるな、やっぱり楓はビビって出て来ねぇじゃんか。女の子に戦わせるとかマジサイテーだな。なぁ、佐倉さん達もあんなクズ野郎ほっといてこっちに来なよ?今なら結婚相手が選び放題だよ?佐倉さん達みんな可愛いからさぁ」


出て来たのは男子5人組だった。最後の一人が楓をボロカスに言った挙句自分達の所に来いとか言い出すので日向達四人はすこぶる機嫌が悪い。


「いい、この前も言ったけど私とミルは楓くんと婚約してる」


「ですね、あなたよりも旦那様の方が何億倍も素敵です」


「あまりご主人様の事悪く言うと殺すよ?」


「私も不愉快です」


見事に全員勇者達に対して完全否定の意を示す。


「やれやれ、あいつのどこが良いんだか…顔がいいだけで君たちをこんなところまで来させて。まぁいいか。どうせここで倒したら強制的にこっちの誰かの嫁になるし。そうなったら勇者男子全員で可愛がってあげるよ。」


リーダー格の一人がそう言い終わると勇者達は全員武器を構え出す。


「剣が三人で杖が二人か。バランスのいいパーティーだね。ミル、アウラ、サクラ。ここは私がやる。手を出さないで」


そう言う日向の声は酷く冷めていた。ミルは直感的に察する事が出来た。


「キレちゃいました…」


日向は今迄にない位冷たい眼差しで勇者達五人を見下す。


この時ミルが冷静でいられたのは、単純にミルがキレる前に日向がキレたからだ。


その為ミルの怒りが少しだが収まり冷静に日向を見る事が出来た。あと数秒日向がキレるのが遅ければ日向とミルの立場は逆転していただろう。


「ヒナタ、私の分まで頼みました」


「うん」


それが、これから起こる日向対勇者五人の戦いの前に交わした最後の会話だった。

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