ミルの決断 2
「落ち着いたか?」
「う、うん」
しばらくミルは楓の胸の中で号泣していたがそれも時間が経てば治まってくる。
「おい、娘をからかい過ぎだ」
楓は少し威圧しながらバルバトスを責める。
「悪かったよ。私もミルがカエデにどれだけの想いを持っているのか見たくてね。なかなか遊びに来ないから少し試させてもらったよ」
バルバトスは少し反省の色を出しながらそう言い切った。
「でも、さっきも言ったが全てが嘘だったわけではない」
「あぁ、勇者が攻めて来てるんだろ?安心しろ。ミルが勇者の所に行こうが行くまいがどっちみちあいつらは俺を殺す予定らしいからな」
「ん?もしや私が集めた情報より深いものを持ってるのか?」
バルバトスはカエデの口ぶりから自分よりも詳しい情報を持っている事をほぼ確信する。
「多分な、リングベリーの神官の狙いはミルを使ってこちらの政治に割り込む作戦なのだろうな。向こうの教会も武力を手に入れたからこれを機に色々と勢力拡大したいんだろ」
楓は自分の見た事を踏まえて自分の意見を話す。
「だがそれは神官側の狙いだ。勇者達は違うよ。
あいつらはただ何処かの王女と結婚して楽な生活と可愛い女とイチャイチャしたいだけのクズだ」
「ほう、何故そう言い切れる?」
「元々俺は勇者候補だったからな。あいつらの動向をずっと見て来た。といってもこの国に来てからだけどな」
楓の爆弾発言にミルもバルバトスも驚く。
「え!?旦那様って勇者候補だったんですか?」
「日向も一緒にな。でも追い出されたよ」
「ほう、カエデを追い出すとは随分と勿体無い事をしたな。さてはお前、ステータスを隠蔽したな?」
バルバトスは正解へとたどり着く。ここら辺はやはり王様だな。こちらの稚拙な小細工を見破って来た。まぁ別にどうでも良いが…
「そうだな、流石にステータスをバラされるのはやばい」
「私も一度見てみたいものだね」
「あ、そう言えば私も見た事なかったです」
二人は興味津々だ。
「ミルには後で見せてあげるよ。言い方は良くないかもしれないが今回のご褒美にな」
本当に言い方が悪いし上から目線でキザっぽいが建前が必要だったのでこれを突き通す事にした。
「わ、私は?」
「お父さんはダメだな。要らん事に使われそうだし…」
時すでに遅しだと思うが最終ラインはしっかりと守っておく。
「むぅ、残念だな。まぁそのうち機会があれば見せてもらいたいな」
「あぁ、機会があればな」
と言う事で話はまとまった。後は勇者対策だ。
「勇者は明後日にこの王都に到着される予定だ。しばらくは王城にいてもらいその後は自分達の家、要はクランハウスを用意するらしい。というか用意した。金はしっかり貰うしあんな勇者をずっと王城に入れてられん」
酷い言われようだが、勇者達の評判はあまり良いものではない。まず市民にすればあまり接点がないのと役立っていないので最初はお祭り騒ぎだったが今ではそうでもない。
そしてバルバトスからすれば今回迷惑な縁談を持って来た奴らなのだ。もとよりミルを縁談に出すつもりはなかったが断りにくいし端的にいってウザかった。
バルバトスにしても勇者約40人を相手するよりも楓とアルという伝説龍を相手にする方が100倍もダメージが大きいのは分かりきっているので答えは揺るぎなかった。
「そう言えばあいつらもクランを作ってたな」
「そのうち向こうから攻城戦の申し込みが来るかもしれないな」
「勘弁してくれよ」
攻城戦は互いの賭けも成立する為もしかしたらミルを狙ってくるかもしれない。
というかまだ攻城戦をやってる所を見た事がないんだがどこでやってるんだろ?
『攻城戦はギルド主催で年に一度大きな大会があるのでそこで見られますね。今年は後2ヶ月後です。そろそろマスターのクランにも出場依頼が来る筈ですが…』
へぇーそんなのもあるのか。じゃあ、それ以外で攻城戦なんてしないの?
『お互いのクランの合意があれば出来ますがわざわざ費用を出してやるものでもないみたいですよ。この国はどちらかと言うと平和的みたいですね。他の国に行けば週に一度はやっている所もあるみたいです』
それはそれで少し面白そうだ。攻城戦がどうやっているのかも見て見たいし。
「まぁ、カエデ達が攻城戦をする時は王家が主催してやるから楽しみにしておけよ。あー、あとこれは出来ればで良いんだが2日後の勇者達が来た時にこの城でパーティーを開くのだが君達のクランも参加して欲しいのだ。と言うかこいつが娘の婿だ!と牽制しておきたい」
まぁ、言いたい事は分かるが…
「分かりましたお父様。旦那様、日向も一緒で両手に花だ!と勇者達に言ってやって下さい!」
どうやらミルは結構お冠の様だ。まぁ別に良いけど。
「分かった。じゃあ2日後クラン『無限の伝説』総出でそのパーティーに参加させていただきます」
「ありがとう。それとそのパーティーには結構貴族も来るから上手く流しといてね」
おい、勇者達だけでも面倒臭いのに貴族もかよ。うわー急に行きたくなくなった。
バルバトスにしたら一気に貴族まで牽制しちゃおう!って事か。
「分かりましたよ…それじゃあ今日はそろそろ帰ります。ミル、家に帰って二人にも今の事を話しておこう」
「そうですね」
ミルはどこかぎこちない返事をした。
『マスター』
あぁ、分かってるよ。今回は本当にミルのお陰で自信が持てた。お礼はするべきだ。
「帰りは歩いて帰ろうか?ミルと二人で少しデートして帰ろう」
「本当ですか!」
珍しく今回はミルの言われたい事をズバリと当てた楓は心の中でホッとするのであった。




