王都へ行こう!
「王都に行きたい!」
俺は迷宮の中で言っていた現実逃避を現実にしようとしていた。
『なぜ私のマスターはここまで色々と急なのでしょうか…』
俺は完璧に異世界の生活を楽しんでいる。まぁ分からなくもない。最初は日向と二人だけの旅で何をするにしても気まずかったのだが今はアルという人間ではないが立派な仲間が出来たのだ。俺はこれからももっと仲間が増えていくという予感がしていた。
「楓、王都に行って何するの?」
「ん?いやー流石にこれからもクランメンバーが増える可能性があるんだったらいっその事この国の王都にクランハウスでも建てようかなーと思ってな」
「また、思い切ったことを…」
「まぁ、僕は面白そうだから良いけどね」
「だろ?お金はあるからそろそろ良いかなーと思ってな。宿の生活もなんか借りてる感あって落ち着かないだろ?」
これは現代日本人ならではの悩みでもあった。俺も日向も日本では自分だけの部屋を持っていたのでプライベートな空間を大事に出来たのだがここは借り部屋である。
どうしてか俺はこの部屋にいても心の底から落ち着く事が出来なかった。
「どうせ、この世界でまだしばらくいるんだったら自分だけの個室欲しいだろ?」
「まぁ、気持ちは分かるよ…」
「そっか、二人とも異世界人だもんね」
アルも納得してくれた。これは満場一致で王都に行く事に決まったな。まぁ迷宮から帰って来た今特にしたい事がなかったから日向にしても良い事は良いのだが、日向は王都に行く事で俺に新たな女がひっついてくる予感がしているらしくあまり乗り気ではなかった。だが思いのほか男性陣が乗り気なのと自分も王都に行ってみたかったのでそこまで反対はしていない。
「と、いう事で早速王都に向けて出発するぞー」
「え!?今から!?」
「当たり前だろ。食料とかはリングベリーからここにくる時のでもまだ大量に余ってるんだから。あと足りなかったら途中にある村とかで補えば良いだろうからさ」
「まぁ、いいけどね」
「ちなみに楓、王都までは一週間くらい掛かる筈だけど馬車でも使うの?」
「いや、走って行く」
「あははー、ザ・力技だね」
「あぁ、お前はスキルや魔法を使うまでもなくそのステータスでなんとかなるだろうしな」
「僕はね。日向はどうするの?」
「それはね…」
日向は俺から教えてもらった方法を実際に実演したりなんかもしてアルに教えていた。部屋の中だってのに器用に魔法を使える様になった様だ。それを見てアルは…
「うは!すごいねコレ。僕には思い付かない方法だよ。魔法創造だっけ?僕も欲しいな」
アルは日向に対して羨ましそうな顔をしている。
「別にお前なくてもやっていけるだろ。お前に魔法創造スキルなんてつけたらパワーインフレのせいで他の奴が可哀想になってくるからダメ。自重しろ」
『マスターもこれほどのブーメランを投げられる様になったなんて…』
…言ってて自分もそうだなって思ったけどそこは黙っててくれてもいいんじゃないかな?
「残念だけど分かったよ。この限界突破だけでもおかしい事は理解してるからね。そのうえ加護までつけてくれるなんてね。以前とは比べものにならないほど強くなってる実感もあるしね」
「それなら良かったよ、じゃあそういう事で王都に行くのに異論はないか?」
「私は別にいいよ」
「僕も賛成だよ。走って行くのも悪くないね」
という事で移動手段も決まった事だしさっさと準備をしていこう。善は急げって言うしな。
そしてそれからお互いの準備の為に一時間後に宿の前集合にして各自部屋で王都にいく準備をする。
「あ、アルこれ持ってけ」
「アイテムバッグだね。ありがとう、大切に使わせていただくよ」
アルは何度かアイテムバッグを見ている為俺から貰っても「こいつならアイテムバッグ位作れるよな」程度しか思わない為特に驚く事はなかった。その中身を見るまで…
「カエデ、これ何?」
アルはその中にひとつだけ入っていた武器を取り出して問う。
「なにって、アルの武器だよ。不満だったか?でもそれ以上で作るとそれこそ相手がどんだけ硬くても豆腐だからな。武器も見る人が見ればどれ位の価値があるかとかも分かるらしいし。その位で我慢してくれ」
「何言ってるんだい?逸話級だよねこの武器。逸話級なんて僕ですら初めて見たよ」
「え、それ俺が適当に金属を錬成して作った奴だぞ?」
「そうだね、カエデだったね。もう何も驚かない。ありがとう、大事に使わせていただくよ」
「お、おう」
俺もアルの疲れた顔を見て少し動揺する。
『伝説龍にここまでの顔をさせるとは流石マスターですね』
うーん。別にそんなにやり過ぎてる自覚がないんだけどな。何回も言うけど。
ちなみに俺がアルに渡した鎌の性能はこんな感じである。
〜逸話級〜
リーパー
筋力 +1000
敏捷 +1000
重量軽減
硬質化
こんな感じだ。硬質化は魔力を通すと通すだけこの鎌が硬く鋭くなる。身の丈と同じくらいの鎌を振り回すのに重量軽減が付いているのは大きいだろう。流石武器に死神とつくだけはあるな。
アル自身もこの武器の有用性には気が付いており、こんな武器を作ってくれた俺に対して感謝とこんな物を簡単に作るなんてという驚きでアルの中はかき乱されていた。
そしてそれから一時間。日向もしっかりと準備が整い俺とアルが待っている外に向かう。男二人は特にする事がなかったので外でひなたぼっこをしながら王都の事について語り合っていた。
『伝説龍がひなたぼっこって…平和ですね』
ナビちゃんもすっかり呆れモードに入っていた。
「ごめん、待たせちゃったね」
「お、来たか。そんなに待ってなかったよ。アルと王都の事について話してたから一瞬だったな」
「そうだね。楽しみだ」
「私も楽しみだよ。良い所だといいね」
「ああ。それじゃ行くか」
「「うん」」
そう言って3人は門兵にこの街を出る手続きをしてもらってから俺と日向は魔法を使って、アルはそのまま自分の力で時速約200キロのスピードで王都に向かって駆け抜けていくのであった。




