迷宮探索 20
〜第二十九階層〜
「ねぇ、ここって二十九階層だよね?なんでボス部屋しかないの?」
「分からない。そもそも五階層毎にボス部屋があるんじゃなかったのか?」
『ここがラスボスになります。三十階層は別のものがあります』
ん?それじゃあこの迷宮のラストはここでいいのか?
『そうなりますね』
なるほど、ギルドの方もここまで来られる奴がいなかったから確かめようがなかったのか。
「ここがラストのようだ。第三十階層にはまた別のものがあるらしい」
「そーなんだ!という事はやっぱりここのボスってこの迷宮で一番強いボスが現れる事になるよね?」
「そうなるな」
「はぁ」
日向はまた情けないところを見せるんじゃないかと心配しているみたいだ。やっぱり第二十階層のはこたえたようだな。
「そんなに心配しなくても大丈夫だと思うぞ?日向も前迄の階層で結構レベルが上がっている筈だから敵を見ただけで気を失ったりはしないだろう。それに前みたいに可愛い系かもしれないぞ?」
ここで日向に変に緊張させるとボス戦の時に見ているだけとは言え流れ弾でやられる可能性があるから出来るだけリラックスしてもらいたいのだが…
「うーん、どうにもボス戦ってなると緊張しちゃって…」
リッチのおかげで日向がボスに対するトラウマになってしまったではないか。許すまじ。
「大丈夫だって。まず、日向がどんなにカッコ悪くても俺は変な目で見ないって。気にするな」
「楓くんは大丈夫でも私が大丈夫じゃないの!」
ありゃ、日向を怒らせてしまった。日向はほっぺを膨らましてムスッとしている。
日向は恋する乙女なのだ。多少弱く見せて庇護欲をそそらせるのも普通の女性良いのかもしれないが日向はそれを望まない。出来るだけ俺と対等な恋愛がしたいと思っているらしいのだ。守られるだけのヒロインになんてなりたくないのだ。
「はぁ、うん、でもここでうじうじしてても進まないからね。最後位頑張るよ。もちろん手出しはしないけど。自分の身くらい自分で守るよ」
日向は一度大きく息を吐き覚悟を決める。俺はそんな日向の決意に応えるようにとびっきりの笑顔で頷く。
「うん、俺も頑張るから日向も頑張れよ」
「うん!」
日向は俺の笑顔をあまり見た事がなかったので、急に俺が笑顔になり思わずドキッとしてしまったようだ。
(やっぱりかっこいいなぁ、楓くんは。よし、私も頑張るぞ!)
俺成分をチャージした日向は緊張はしているが体は震えていない。
それを確認した俺は門に手をかけゆっくりと開く。
「ん?」
「何あれ?」
俺達が目にしたのは俺より少し小さめの男の身体がガラスで出来ている様に透き通っている奴だった。
「最後がアンデッド系じゃなくてよかった…」
日向の心からの安堵の声だった。
一方、俺は少し厳しそうな表情を浮かべていた。
「楓くん?」
日向はそんな俺を見て思わず名前を呼ぶ。
「日向、これから細心の注意を払え。あいつは多分今迄で一番強い」
「え?楓くん、もう鑑定したの?」
「いや!まだだがあいつからは今迄感じた奴達より数段上の覇気を感じる。俺は余裕だが日向が攻撃を食らえばたとえ流れ弾でも即死だ」
俺から思わぬ事を聞かされた日向はびっくりはしていたが、それだけ強い相手だと分かると更に神経を研ぎ澄ませていた。
俺の足手まといにはなりたくないようだ。
「わかった。楓くんなら大丈夫だろうけど気を付けてね」
「あぁ」
なんだあいつ?魔物か?それとも精霊か?
『鑑定すれば分かる事ですよ』
そうだな。鑑定
ーステータスーーーーーーーーーーーーーーーー
迷宮のコア(一部)
種族 ???
体力 10000
筋力 10000
敏速 10000
知力 10000
魔力 10000
幸運 10000
加護
迷宮のコアの加護
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
これはやばいな。普通に考えてCランク冒険者〜Bランク冒険者でステータスの平均が500位だった筈だ。Aランク冒険者で500〜1000。Sランク冒険者でも1000を超える位だ。1万なんてステータスの奴がいたら世界が滅ぶだろ?
『ちなみに魔王はこの位ですよ?』
え?勇者どうやって戦うの?普通に負けるくね?
『今回の場合は40人もの勇者がいるので数で勝負するのでしょう。足りなければまた新たに勇者候補を召喚すればいいだけですから』
質より量で勝負か…
『タチが悪いのがこの召喚魔法の技術を各教会と各国の政府が使おうと思えば使える事ですね。犠牲はでますが…』
え?勇者って俺達だけじゃなかったの?
『正確にはマスター達も勇者ではないのですが…そうですね。今の所はマスターのクラスメイトだけですが考えてもみて下さい。リングベリーの教会が勇者という戦力を手にしたのですよ?他の国にしてみれば脅威なだけですよ。この世界は力がものを言うところがあります。勇者を38人育成しているリングベリーの教会は今色んな所で優位な位置にいる筈です』
なら何故勇者をもっと呼ばない?
『先程も言った通り犠牲の数が多すぎるのと成功率が0.1%位なのでそうそう勇者召喚なんてありませんよ』
なるほど、今後また違う勇者が現れる可能性もあるわけか。
『あと考えられるのは他国の権力者達がクラスメイトを引き抜く可能性ですかね。戦争をするにあたって勇者のネームバリューは凄いですし才能も一般兵ならば余裕で殺せますからね』
なるほど…それより随分と話が逸れてしまったな。この話はまた後でにしておこう。
それより今は目の前の敵だ。随分と素早そうだし力もそこそこあるようだ。剣折れないかな…
相手も素手だし俺も素手で行こうかな。
『マスターならそれでもいいかもしれませんがあれの手はいろんなものに変わりますから注意ですよ。剣にもなりますからね』
あー。面倒臭い類のやつだな。それでもこいつらが今の所は世界最高峰の存在なんだろ?
とりあえず力比べといこうか。
楓はストレージから剣を出しいつもの様に構える。相手はスキルはないみたいだから単純に実力勝負になるだろう。出来れば良い試合がしたいな。
「そろそろ行くから日向も気を付けろよ」
「うん、楓くんの戦いが終わる迄気を抜かないよ」
日向は大丈夫そうである。なら、行くか。
俺が駆け出した瞬間迷宮のコアも同じ様に走り出す。そしてお互い剣を交える。
「お!」
俺から驚きの声が漏れる。何故なら俺の剣はいつもなら対象を豆腐の様にスパッと斬れるのだが、今回はしっかりと剣と剣が交差しているからだ。
このやり取りで一番驚いているのが日向だろう。俺の事を見守ろうと思っていたのだが少ししか二人の動きが見えなかった。速すぎて日向には所々二人がぶれて見えるだけだった。
「す、凄い…」
日向は思わず見入ってしまっている。今俺と迷宮のコアは激しい音を出しながらお互い剣を打ち合っている。これが人外の戦いかと日向は割とマジで思っている様だ。
だが日向は全く心配していないだろう。何故なら俺が笑っているのだから。余裕の笑みだ。今の状況を楽しんでいるしね。
迷宮のコアは顔がのっぺら坊なのでよく分からないが俺が優勢なのは明らかだった。
「そら」
状況を動かしたのは俺だった。前の階層の最後に使った剣の刃を魔法で飛ばすようにして迷宮のコアの動きを崩しそのまま首に剣を振るう。迷宮のコアは抵抗したのだが最後の一撃だけは楓の振るう剣の筋が分からなかった様だ。同じく日向も全く見えていない様だ。
そして俺の剣はそのまま迷宮のコアの首を断ち切り迷宮のコアはそのまま灰になってしまった。
「ドロップ品が落ちなかった…」
幸運も∞な筈なのにな…
俺は少し残念な気持ちを抑えながら日向が無事だった事と自分が迷宮のコアに勝てた事を素直に喜ぶのだった。
迷宮のコアを相手にしても苦戦しなかったから、この世界で生きていくうえで武力に関してはほとんど心配しなくて良さそうだ。
俺はステータスが∞だがそれがどこまで通じるかは確かめてみないと分からない。
今回もほとんど実力を出さずに勝てたところを見るとこの世界の脅威である武力の部分に関しては心配無用となった。
「お疲れ様〜凄かったね。全く見えなかった」
「ありがとう。結構楽しかったな。日向もそのうちあんな風になれるよ」
「うん、頑張るね」
「あぁ、それよりも次で最下層だ。長かったがこれで終わりだ。下がどんな所か見に行こうぜ」
「そうだね。結構楽しみかも」
「俺もだ。ここのボスがなかなか強かった事を考えるとその下には何があるのやら…」
二人は最下層へと向かう為下へと下る階段を降りていくのであった。




