迷宮探索 18
「大丈夫か?」
「ちょっと…無理かも…」
俺達は精霊を倒してそのまま下の階層に降りてきた。まだ流石に休むのには早いと思い第二十六階層も攻略しちゃおうと思ったのだがそこは…
「お前、お化け無理なのな」
「う、うん。ボスとか一体だけなら大丈夫だけど流石に一階層丸々アンデッド地帯となるとちょっと無理…」
まさかの第二十六階層はアンデッドの巣窟だったのだ。
それと大きな誤算は一つ。日向がお化け嫌いだった事。階段を降りてきてスケルトンを見た瞬間震えだしそれから一歩も歩けていない。
「日向、大丈夫か?」
「ごめん、ちょっと無理かも。震えが止まんない」
日向は今にも泣きそうである。ていうか泣いている。
「んー、ちょっと恥ずかしいけどしょうがないか。ほれ」
そう言って俺は日向をお姫様抱っこをする。
「え!ちょっ!!」
日向は流石に動揺している。なにせ好きな人からいきなりお姫様抱っこをされたら誰であろうと動揺するだろう。
「悪いがこのまま日向を放置しておくと魔物が寄ってくるからな。恥ずかしいだろうがこのまま辛抱してくれ。俺だって恥ずかしい」
俺は恋愛についてはとある黒歴史により麻痺しているので日向に好かれようと狙ってやっている事ではない。
むしろ嫌われる事を承知でやっている。が日向はそうとは思わず今日向の心の中は恥ずかしい気持ち2の嬉しい気持ち8の状況だ。
「う、嬉しいけど、重くない?」
日向は少しビクビクしながら俺に聞く。流石に好きな人から重いと言われるのは怖いみたいだ。
「ん?全然。女の子らしいと思うよ」
そうだ。たまに楓くんはこうやって私に気を使って事もなげにフォローしてくれるから私は楓くんの事を好きになったんだ。
日向はそう、思ってしまった。
「それじゃあ歩いていくがよく掴まっといてくれよ」
「う、うん!」
日向をお姫様抱っこしてる間に魔物が襲ってきた時にはどうするかと言うと…
「光矢」
何も構えず自然体で魔法を繰り出す。アンデッドは光や聖属性に弱いのでそのまま一撃で灰になる。
「んー!」
その間、日向は猫のように俺の胸に自分の顔を擦り付ける。
「楓くんの匂いがする」
日向は俺に聞こえない声で独り言を言っている。
日向は今、最高に幸せな気分なんだろう。まさに昔夢見た王子様が自分を迎えに来てくれた様に。
「大好きだよ、楓くん」
日向はまた独り言をつぶやく。そして数分後日向は何時の間にか俺に守られてる安心感と今迄の疲れによって腕の中でスヤスヤと寝息をたてながら幸せそうに眠るのであった。
「あははー、まさか寝ちゃったか…」
『今なら襲っても大丈夫ですよ?』
ばか、さすがにそんな事はしないよ。日向は仲間だからな。日向を傷つけたくない。
『日向さんなら喜んでくれそうですが…』
ん?なんで?流石に俺みたいな顔だけの奴とは恋愛対象としても無理だろうよ。ほんと、俺なんて顔が良いだけで性格が伴ってないんだから…
俺は俺で日向が寝ている間に過去の黒歴史を思い出し一人泣きそうな顔をして迷宮を攻略していくのであった。
「ほんっとーにごめんなさい!」
現在第二十七階層にいる。なんとここには魔物が存在しない言わば安全地帯みたいだ。どこの秘境だと言わせる様な所だ。そこで日向は顔を真っ赤にしながらさっきまでの事で謝罪していた。
「いや、安心して寝られたなら良かったよ」
気にしてないと笑顔で日向に言う。
「うぅ…本当にごめんね。それに恥ずかしいところ見られた…」
「いや、日向の寝てるところ可愛かったぞ」
「えぇ!!!ありがと…」
さらっと日向を可愛いとか言ったので日向は日向で照れてしまっている。
『なんですかこの桃色空間…』
ナビちゃんも呆れてしまっている。
「そ、そういえば寝ている間に私に何かした?」
日向は何かされてほしい自分と恥ずかしがってる自分がいる事に戸惑いを示す。
「いや、流石にクランメンバーに手を出したりしないよ。仲間なんだからな」
「そ、そっか!ありがとね!」
「いやいや、それじゃここら辺で今日は休むか」
そう言って俺はテントの準備をして中に入っていく。
「何がクランメンバーだから手を出さない、だよ!絶対に楓くんをメロメロにしてやる!」
日向は密かに俺に対する宣戦布告をしてテントの中に消えていくのであった。
「ん?何か怒ってる?」
「怒ってないよ!」
そのほっぺを膨らましてジト目で俺の事を見ている日向を見て10人中10人全員怒ってると言いそうなものだが触らぬ神に祟りなしっていうからな。
俺何かしたかなぁ?
『強いて言うなら女心を弄んでるってところですかね』
へ?俺が?誰の?この世界に来て女の子って言えば日向しか交流ないけど日向に対してはしっかりと気を使ってるから別に女心を弄んだりしてないんだが?え!知らぬ間に俺って日向と別の女の子に会ってる?
『処置無しですね…』
なんでだよぅ…
ナビちゃんは自らの主人がここまで異性に対して鈍感だったとは思わなかったようだ。
まぁいいか。それよりどうやって日向の機嫌を取り戻すかが先だ。
「ひ、日向。ほれ、お前の為にクッキーを焼いたんだが…」
「え!本当!?ありがとう!!」
一瞬で機嫌が直ってしまったので俺は呆気にとられている。
尚、この時に発した『お前のため』と言う言葉が日向の機嫌を直させたのには気が付いていなかった。
「勘弁してくれよ…」
そう言いつつも日向の機嫌が直り二人と一体して笑顔でクッキーを食べられてるこの瞬間が幸せだな。と思っていたのであった。




