ナビとデート in日本 2
「ふぅ、一旦休憩するか」
「すっかりお昼過ぎちゃってますね。どうしますか?」
「今から俺が軽く作ってくるよ。ナビは待っててくれ」
「私も行きます。……でも、その前に二人ともシャワー浴びないとですね」
「あー……一旦魔法で綺麗にしておくからそれで我慢してくれると助かる。今シャワー浴びに行くのは流石に露骨すぎる」
「確かに。そろそろ弟さんももしかしたらもうすぐ帰ってくるかもしれませんし、あまり刺激しない方がいいですものね」
二人はそういうと、魔法で体を綺麗してから、すぐに服を着替えて部屋を出て遅めの昼食を食べることにした。
時刻はすでに2時を過ぎており、今からシャワーを浴びてゆっくりしていると、楓の弟である蓮と下手すると鉢合わせかねないので、二人ともシャワーは我慢することにした。
もちろん、きちんと防音の魔法はしていたし、母親がいつ部屋に入ってきてもいいようにダミー用の空間も作ってあったので、問題はないはずである。
……二人で1階に降りて料理を作っている最中にどこか生温かい視線を送られていたが、気づいていないと楓は信じることにした。
料理は手軽に10分ほどで作れる本当に簡単なものを作り、楓の部屋でゆっくりと食べることにした。
あのまま1階で楓の母のいるところで食べてもよかったのだが、楓がどこかでボロを出しかねなかったので、逃げるように自分の部屋に戻ってきたのだった。
「お母様、絶対に気付いてますよ?」
「だよなー。なんでバレるんだ……」
「さすが、マスターのお母様ですね。マスターのことはなんでもわかっているみたいです」
「流石に昼からするのはまずかったよなー」
「私は新鮮で楽しかったですけどね。マスターの部屋では私が初めてのはずなので、嬉しかったですしね」
ナビはそう言って嬉しそうに笑いながら箸を進めた。
二人で料理を作るのは珍しく、楓からしたらナビも料理ができることに驚きを感じていたが、元を辿ればナビは楓のスキルであるため、一応は家事全般もこなすことはできるようである。
ただ、うちにはエリスを筆頭に非常に優秀なメイドたちが揃っているため、楓たちが何か家事をする前にすでに仕上がっているため、する必要性がないのである。
「そういえば、アルとルシフェルが疲れた顔をして愚痴ってましたよ。カエデはデートを楽しんでいるのに僕たちは……って。なんでも、ストレア中立都市ではまだ各国の王たちが腹の探り合いや牽制をしあってて空気がピリピリしているみたいです」
「有事の時には協力できてたのに、懲りないな」
「彼らたちも国を背負って集まってますからね。妥協はできないのでしょう。ミルのお父さんも流石に連日の会談で疲れているみたいですよ」
「まぁ、俺たちが顔を出すと他の国の王たちもやりにくくなるだろうし、いい休暇だと思って楽しもう。ん、即席で作った割には美味しいなこれ」
ストレア中立都市での話を聞いてバルバトスに同情はするものの、自分たちが行けば他の国の王たちがやりにくくなってしまうのは火を見るよりも明らかなので、楓は割り切ってナビたちとイチャイチャするのを楽しむことにした。
恨み言は次にバルバトスに会った時に聞くことにして、今はナビとの二人の時間を素直に楽しむことにした。
「そうだ。今日はうちに泊まって行くよな?」
「はい。そのつもりですよ。しっかり着替えも持ってきてます」
「ってことは蓮が帰ってきたら風呂の時間とか色々注意させないとな。確か、あいつもようやく彼女ができたって言ってたし、間違ってもナビの裸なんて見ようものなら……」
「その前に姿を消すくらいの技は私にもできますし、万が一なんてありませんけどね」
「え、でもこの前俺がミスって時間を間違えた時にナビ含め日向たち全員……」
「それを聞くのは野暮ですよ? ……みなさん、マスターになら見られてもいいって思ってるんですよ。私含めて……」
楓は反応に困るその言葉に息を詰まらせながら苦笑することしかできなかった。
楓的にはもちろんそれは嬉しいことなのだが、それと同時に恥ずかしさもある。
家では普段あまり周囲の気配を読んだりなどはしないのだが、これからは入浴する時にはできるだけ気をつけようと心がけることにした。
そうこうしているうちに、時刻も15時を超え気がつけば蓮が帰ってくる時間となった。
「ただいまー。って、兄貴帰ってきてたのか……ってえ⁉︎ 兄貴⁉︎」
「お邪魔します。蓮さんの彼女の宮下優香です。よろしくお願いします」
久しぶりの再会ということで、楓とナビは蓮を驚かそうと玄関で蓮のことを待っていたのだが、驚かされたのは蓮だけでなく楓とナビもであった。
そう、ちょうどタイミング悪く蓮も彼女を家に連れて帰ってきたのだ。
優香と名乗った彼女は、一言で表すならリア充グループの清楚担当といったような感じで綺麗な黒髪を持った礼儀正しい女の子であった。
優香は楓とナビを見てもさほど驚かずに、どこか納得したように頷いてニコッと笑った。
「おかえり……ってお前も彼女を家に連れてきたのかよ」
「それは兄貴もだろ……マジかぁ。これ、クソ気まずいじゃん。兄貴たちも今日泊まって行くんだろ?」
「おう。ってことはお前もか」
「あらあら、二人揃って彼女を家に連れてくるなんて……私の息子たちは立派に育ったわ」
楓と蓮のやりとりを見て一番上機嫌なのは楓の母であり、嬉しそうに「今日は何をつくろうかしら♪」と今からもう一度買い物に出かけるようだった。
「ま、まぁ一旦上がらせてくれよ。あとで兄貴たちにも優香のこと紹介させてくれよ」
「わかった。ナビもいい?」
「えぇ、蓮さんに綺麗な彼女ができて、私も嬉しいですよ」
「お前は誰目線なんだよ……」
楓はそう呆れるが、ナビの気持ちがわからないでもなかった。
以前、最初にこの日本に帰ってきたときに一番楓と蓮の確執に触れていたのはナビである。
その時に蓮の気持ちや、楓の過去のことなどについて色々知っているからこそ、蓮が今度はしっかりと可愛い彼女を家に連れてきて嬉しいのだろう。
正直楓も少し戸惑いはしたが、嬉しいのは本当なのである。
その後、16時にリビングに集合ということになり、楓はナビを連れて一旦自分の部屋へと戻り、色々と状況を整理することにした。
「マスター、嬉しそうですね」
「まぁね。あいつにも良さそうな彼女ができたし、安心したっていうか……」
「私もわかりますよ。自己紹介が楽しみです」
「優香ちゃんには根掘り葉掘り聞かないといけないな」
「あ、マスターが悪い顔をしてます。あまり、蓮くんをいじめてあげてはいけませんよ?」
「りょーかい。今日は一日まだまだ楽しくなりそうだな」
「ですね」
二人は蓮と優香との顔合わせの時間まで、まだまだこれから楽しくなりそうだと胸を躍らせるのであった。




