奇跡
お待たせしました。ようやくシリアスパート終了です。
楓がミカエルを撃退した後、しばらくはまたみんなで感傷に浸っていたのだが、そろそろバルバトスの方にも説明にいかなければいけないということで、重い腰を持ち上げて最後に全員でナビとお別れをすることにした。
「ナビ……天国にいってもこの指輪はお前のものだ」
そう言って、楓はミカエルから脱却した青色の宝石が詰まった指輪をナビの左手の薬指に丁寧に嵌め込んだ。
そして、その時だった。
再び、楓たちの元に奇跡が起こり始めたのは……
ーーもっとマスターと楽しいことしたかったなぁ
「「「「「「っ⁉︎」」」」」」
楓がナビに指輪を嵌めた瞬間、全員の頭の中にナビの最後の声が響き渡った。
ーーマスターともっと愛し合いたい
ーーマスターともっと冒険をしたい
ーーマスターをずっと隣で支えたい
ーー愛しい恋人である前に……唯一無二の相棒でいたい
そんなナビの願いが、『無限の伝説』のメンバーの全員の頭の中で響き渡る。
その声は、優しくて、愛しくて、楓たちは無意識のうちに全員が涙を流していた。
あのアルやルシフェルでさえ、ナビの純粋な気持ちに感動し、そして目の前の『奇跡』を目の当たりにして涙を流していた。
「な、ナビ?」
楓が指輪を嵌めてから、ナビの声が聞こえるのと同時に、ナビの周囲からは綺麗な青色の光が浮かび上がった。
そして、そこには死人には絶対にない『魔力』が感じられた。
「全く、少し私がいないからってみんなだらしないですよ? 特にマスターは後でお説教します」
深い眠りについていたお姫様が、少し呆れながら、そんなことを呟きながら目を覚ました。
それは、楓たちが心の底から待ち望んでいた、最愛の家族の声であった。
「「「「ナビ!」」」」
「ふふっ、ただいまみんな。私、賭けに成功しました」
ナビは幸せそうに笑うと、片目から一筋の涙を流した。
「おかえり、ナビ。俺耐えたよ。ナビが稼いだ時間のおかげで、日向たちは無事だった」
そんなナビに、楓は寄り添うとぎゅっと、もう絶対に離さないというように自分の胸に抱き寄せた。
「それはよかったです。私の作戦の方が優秀だったみたいです」
「優秀なわけないだろ。俺たちがどれだけ心配したと思ってるんだ。馬鹿野郎」
楓はそう言いながら、抱き抱える腕の力を先ほどよりも強めた。
ナビはそんな楓の背中を優しく撫でながら、そっと自分の腕を楓に巻きつけた。
「少しだけ、甘えてもいいですか?」
「あぁ、好きなだけ」
楓にそう言われた瞬間、ナビの顔からは大量の涙が流れ始めた。
ようやく安心できたかのように、今までの心配事を全て涙にして洗い流すように、ナビも楓も、『無限の伝説』のメンバーたちもみんな周りのことなど気にすることなく泣き始めた。
「うぅ、うぐっ……怖かった。すっごいすっごい怖かった! もうマスターに会えないかと思った! 記憶が消えて……みんなと会えないと思った!」
「もう大丈夫。もう誰もお前を離さない」
二人は、その後しばらくの間お互いの気が済むまで抱き合い、そして涙を流すのであった。
「そういえば、どうやってお前生き返ったんだ?」
みんなが無事今までと同じに戻るまでの時間は彼らだけの秘密とするが、かなりの時間がかかったのは確かである。
その証拠に、すでに日が傾きかけており、そろそろバルバトスの元にいかないと大きな雷が落ちてしまうだろう。
そして、現在『無限の伝説』とイリアたちはそのバルバトスたちに会いに行くために歩いて王たちがいる場所まで向かっているのだが、その間に先程起こった奇跡に関しての話になった。
「私のこの指輪の特殊スキルの『全ては私の意のままに』で、最後の死ぬ間際にこの指輪自身にスキルを使ったんです。私のありったけの願いを込めて。最初ミカエルに奪われてかなり焦りましたが、マスターのおかげで再度力を取り戻したようで、無事に復活することができたってわけです」
「なるほど、じゃあ僕たちに流れてきたナビの声って……」
「アル、それ以上言ったらあなたにこのスキルを使って意地悪しますよ?」
「そりゃ勘弁ってことで……」
「うんうん。ナビは俺のことが大好きなんだよな」
「マスターはそこで滑って転ぶ」
「うわっ! いっつ……マジかこれ俺にも効くのか」
「ふんっ。思い知りましたか」
楓が転び、ナビがジト目でそう言い、他のみんなが面白おかしく笑う。
先ほどまででは考えられないほど穏やかな空気に、楓はやはり『無限の伝説』という家族は誰一人として欠けてはいけないのだなと再確認した。
「あぁー俺の奥さんの愛が重いなーあいたっ⁉︎」
「もう! そろそろ私たちも構ってくれないと怒るよ!」
「そうよ。ナビの件はすっごい心配して、今は嬉しいけど、ここまで見せつけられると私たちも黙ってられないわ」
転ばされたのにも関わらず、それが無性に嬉しくなってしまい、再度ナビをからかう楓であったが、今度は後ろから魔法や剣が飛んできてしまい、それからしばらくの間、楓たちは数時間ぶりに家族全員で戯れあうのであった。
そして、案の定遊びすぎてバルバトスから全員に雷が落ちてしまったのは、言うまでもないだろう。




