会談に集うもの 1
楓たちが話を始めてから一時間。
特に重要なことは話すことはないとはいえ、楓はバルバトスと会うのも一ヶ月ぶりということもあり、世間話をするだけでも結構な時間を食ってしまっていた。
最初はバルバトスの前ということもあって、騎士団長も宮廷魔術師長も緊張して、楓たちの会話に参加することはなかったが、日向たちのおかげもあって最終的には普通に話をすることができていた。
ただ、二人以外の他の騎士はバルバトスの近くということ以上に、楓たちに緊張しており、こちらは全然会話に参加してくることはなかった。
「バルバトス様、そろそろお時間です」
「そうか、もうこんな時間か。カエデ、もうすでにわかっているとは思うが、会談の日程も近くなってきている。先程の報告もそうだが、念のためしばらくは行動に気をつけてくれ」
「わかりました。ミルのお父さんも気をつけて」
「あぁ、国王が暗殺されて会談に不参加など王国暦の中でも一二を争う愚行になるからな。十分気をつけておこう」
バルバトスはそう言って騎士団長たちとともにお店出て行った。
念のため楓はバルバトスたちに認識疎外の魔法をかけて帰り道に襲われないようにしておいた。
「楓くん、会談の日っていつなの?」
「えーっと、確か三日後だったかな? 明後日には前日の打ち合わせがあるけど、明日は一日フリーだ」
「なら明日は一緒にいられるね。私たちも会談当日は途中までミルのお父さんの護衛があるから、お互い頑張らないとね!」
日向は嬉しそうに笑みを浮かべて楓に向けてVサインを作った。
楓はそんな日向たちに微笑みかけて「そろそろ帰ろうか」と話を持ちかけようとした瞬間、部屋の中で一気に日向たちが発した殺気が膨れ上がり、楓、アル、ルシフェル、セバス以外の女性陣全員が武器を取り出してそれを構えた。
「だれだっ!」
「おぉっと、怖い怖い。たまたま雰囲気のいいお店があったから入ってきただけだよ。それより、君たちは何様なのかな? この僕に剣を向けるなんて」
楓たちの前には茶髪で身長150センチほどの小さい子供のような男が手に小さなナイフを持ちながら立っていた。
別に普通に店に入ってきたのなら、日向たちもここまで過敏に反応しなかったのだが、その男は気配を消して楓たちに近づいてきただけでなく、楓に攻撃を加えようとしていたのだ。
そんなこと、日向たちが許すはずもなく、今や部屋の中だけでなく、下手したら外にまで殺気が漏れ出てしまいそうであったが、そこは楓によってセーブされているため、周囲に迷惑をかけることはまずないだろう。
日向たちの殺気を受けてもなお、全く臆した様子もないその男は余裕そうな笑みを浮かべて日向たちのことを眺めている。
「なら、なんで気配を消した! あと一秒私たちが気付くのが遅かったら、お前は楓くんに攻撃してただろ!」
「旦那様に仇なすものを許すつもりはありません!」
「二人とも落ち着きなさい。楓に攻撃が当たるわけがないでしょう? せっかく成長したねって褒めてもらえたんだから、こんな奴に構ってカエデを呆れさせちゃ勿体ないわよ」
「「うっ……」」
ルミナに注意されて図星を突かれたのか、冷静になった日向とミルは一旦武器を下ろして相手の男を見る。
ちなみに、こうして注意はしているが、ルミナも最初は殺気を思いっきり出して武器を構えていたのだが、これは言わぬが花というものだろう。
実際に、日向たち以外にも全員武器を取り出して警戒はしていたのだから、皆同罪といえば同罪である。
「なんか、勝手に話が進んでるけど、僕に向かって武器を向けたことがどういうことかわかってるの?」
「悪いな。こっちも悪気があったわけではないんだ。そもそも、お前が気配を消して俺に攻撃をしようとしたのが悪いんじゃないか?」
「だって、僕よりもイケメンがいたんだもん。殺しちゃっても問題ないと思わない? この世にイケメンは何人もいらないよ」
その男……いや、美少年は差も当たり前だと言いたげな様子でそう言い切った。
まさかの理由に楓も日向たちも思わず警戒心よりも呆れの方が強くなってしまい、一気に緊張感がなくなってしまった。
「……そんな理由で?」
「そんな理由って酷いね。僕にとっては死活問題だよ。世の中にイケメンが多すぎるから、僕は注目されないんだよ」
「そんなに心配しなくても、普通にしてたらモテるんじゃないか?」
「そうかな! いやぁ、君はいい人だね! 良かったら僕と仲良くならない? 僕の名前はシェリン。君は?」
「楠木楓だ。楓って呼んでくれ」
「カエデだね! よろしくね」
「あぁ、よろしく」
楓とシェリンはお互い自己紹介をし終えるとそのまま握手を交わした。
楓とシェリン以外の『無限の伝説』のメンバーは意図の読めないシェリンに困惑しているが、楓に任せておけばなんとかなると思ったのか、完全に警戒心を解いて楓とシェリンの話を静かに聞くことにするのであった。




