王城召集 7
バルバトスによって無事楓たちの無実が証明されそうになったのだが、毎度の如くいいところで邪魔が入り、現在パーティー会場の空気は最悪である。
主に、ミルの仕業によって……
「私に旦那様と別れろと? あなた、なかなか面白いことを言うのですね?」
どうやらミルはかなり頭に来ているようでいつも楓や日向たちと話す時では考えられないほど冷たい声と笑みを浮かべてバルバトスに意見を申し出た貴族にそう言い放った。
それは本当にどこまでも冷たく、声をかけられた貴族だけでなくそれを見ている他の貴族や冒険者さえも同様にゴクリと唾を飲んでいるが、もうこうなったミルを止められるものはいない。
もし仮にここで楓が貴族を庇おうものならミルの飛び火が楓に移ってしまう可能性すらあり楓も日向やアルたちもミルを止めることはできなかった。
「み、ミルテイラ様であれば冒険者風情などではなく、ふさわしい方がごまんとおられます。一度結婚しているとはいえ、それでもなおミルテイラ様を妻としたい貴族はたくさんいるのです!」
「あなた、私の旦那様をどれだけ侮辱するつもりなのかしら? 今までクスノキ カエデがどれほどこの国に多大な利益を及ぼしてくれていることを理解していないのかしら?」
「知っていますとも。ポーション作りしかり戦争しかりカエデ殿は素晴らしい成果を残しておられる。しかし、残念なことに彼は貴族ではない。そして、あの忌々しい勇者候補の同胞だったのですよ?」
「勇者の件については向こうに問題があっただけで旦那様には一切悪いことはなかったと思いますが? それに、はっきり言いましてそこらへんの貴族よりも旦那様の方が比べ物にならないほど魅力的ですわ。もし、旦那様に絶縁を言い渡され他の男の元に嫁がなければいけないと言うのであれば死んだ方がマシです」
「なっ⁉︎」
ミルの断言にその貴族は驚いたような表情を浮かべた。
なんとかしてミルの発言を批判しようと貴族は脳内で言葉を考えるが、どれも言葉として紡がれることはなくただただミルの言葉に衝撃を受けるだけであった。
まぁ、普通に絶世の美女と称しても過言ではない容姿の持ち主から「お前たち有象無象など興味がない。さっさと失せろ」と言われようものなら年齢がかけ離れていようが、もともと可能性が皆無だろうがショックを受けてしまうのだろう。
実際に、先ほどのミルの発言を聞いてショックを受けている貴族や冒険者は少なくなかった。
ミル、絶賛暴走中である。
「さっきの物言いを聞いているに、あなたたちはただ旦那様の力を自分たちの私利私欲のために使おうとしているだけでしょう? 全く反吐が出ますよ?」
「ミル、言い過ぎだぞ。言葉を慎め」
「あら、散々私の愛しい方をこき使っておいてまだこのようなしょうもない貴族の処理をできていない無能がよく言いますね? ここにいるものに言っておきますが、私たちは別に聖人君子などではありません。旦那様に敵対しようものなら私たちが全力でつぶ……」
「ミル、一旦落ち着こうか。元とは言え、お前は一国の姫だったんだぞ? お前のお父さんもショックで上の空だ」
まさか反論されるとは思ってもいなかったバルバトスが王の威厳などそっちのけでショックを受けており、このままでは本当に色々とまずそうなので楓がミルを落ち着かせるためにそう声をかけた。
バルバトスの方は宰相がなんとかしてくれているので、楓はなるべくそっちに意識が向かないように少し大袈裟にミルのことを優しく包み込んだ。
その瞬間、いたるところから「おぉ〜」と言う声や阿鼻叫喚が聞こえてきたが、実のところ、先ほどの貴族の発言は楓もそこそこ頭に来ていたので注目を集める意味も込めてミルは手放さないと言うことを周囲の者たちに証明しておいた。
「……そうですね。皆様、大変お騒がせいたしました。お父様にも、少し言い過ぎてしまいました」
「い、いや。構わん。見てもらった通り、ミルテイラもカエデのことを本気で愛しており、逆もまたしかりだ。この夫婦を引き裂こうとした瞬間、本当にこの国では手に負えないことになる。それがよくわかったであろう?」
なんとかバルバトスは復帰をするといまだにショックを受けている貴族に向かってそう言って相手にするのは得策ではないと再度伝える。
その貴族もこれ以上ここで駄々をこねると自分に被害が及んでしまう可能性が出てくることを察したので「わかりました……で過ぎた真似をしてしまい、申し訳ございませんでした」と不服そうにしながらも一度引き下がる事にした。
「さて、せっかくの楽しいパーティーだ。揉め事はこの辺にして改めてパーティーを楽しんでくれ」
そして、バルバトスはこれ以上ここで揉めるのはごめんだと言外に全員に告げ、自分も給仕に食事を運んでもらう事にした。
もともと、今日ここで無理やり暴れようとしているものはおらず、バルバトスの言葉を遮るものは誰もいなかったのできらびやかな音楽とともに再び人波が動き出していく。
なんだかんだで楓たちが帝国を滅ぼした件がうやむやになっている気がしないでもないが、元凶はいまだに隣でミーシャと一緒にマイペースに食事を続けているので楓も気にする事なく、他のものたちとともにパーティーを楽しむ事にした。
「人族もいろんなのがいるね」
「それを創ったのはお前だけどな」
「私は元となるものを創っただけ。命あるものには絶対に何かしらの欲望が生まれる。それは、人族に限った話ではないけど」
「神もそうなんだってな」
「マーズから?」
「あぁ、さっき知り合いにイリアたちが神だってことがバレてな。その時にマーズが言ってたんだ」
「殺気が出てた時ね。神龍も穏やかじゃないね」
「それ、本人が聞いたらブチ切れるから絶対に言うなよ?」
最後に楓はエアーブレイカーことイリアに念押しするのであった。




