バルバトスの苦悩 2
「ここで呼んでいいの?」
「あぁ、ミルのお父さんにもしっかりと見ておいて貰わないといけないからな」
「了解。えーっと、この世界の神は……マーズか。来い、マーズ」
イリアが神の名を言いながら神力を込めると今度は何もない空間から転移してくる感じで一人の黒髪の男性が現れてきた。
例の駄女神やイリアたちのように天空から出現するのではなく本当に楓たちがいつも使っているような感じで現れたこの世界の神は普通に爽やかなイケメンで見た感じで性格の良さが伝わってきた。
「マーズ、私たちのことを見ていたのならだいたい話の内容はわかるかもしれないけど、お願いがある」
「はい、創造神様のご命令ならなんでもしますよ。確か、デスハイム王国の擁護でしたよね」
「うん。それと一緒にカエデたちのフォローもよろしくね」
「了解しました。ルベルカムの神、マーズです。そこの王たちは俺のことを知っていると思うけど、カエデくんたちの中に僕のこと知らない人もいるだろうから自己紹介させてもらうね。君たちのことはよく見ていたよ。ぜひ、色々と話をしたいな」
マーズはそう言って楓たちに自己紹介をするとその流れでカエデに握手を求める。
当然ながら、バルバトスやミルたちはこの世界で信仰している神なだけあって「誰?」とはなっていなかったが楓によって召喚されたエリスやメイドたちは神だということ以外はわかっていないようであった。
あと、なぜかミリアも同じようにマーズと名前を聞いても「まずこの世界に神なんていたっけ?」などと言っていた。
アリウスたちはしっかりとマーズのことを認識しているところからきっとミリアが個人的にそういう神などに興味がなかっただけかもしれないが、本人を目の前にして結構大胆に挑発まがいなことをしているミリアであった。
まぁ、本人は多分そんなこと思ってもいないだろうし、マーズも特に気にしていないようだったので楓はそのままマーズの手を取り握手をしながら自分もマーズに自己紹介をする。
「こちらこそよろしくお願いします。わざわざきてもらって申し訳ないです」
「敬語なんていいよ。普通に俺よりもカエデ君の方が強いし偉いんだから本来は俺が敬語を使わないといけないんだよ?」
「流石に神様に敬語を使われるのはまずいからお互いタメ口でいこう。よろしくな」
「あぁ、それで後ろの伝説龍と異世界の魔王がすごい戦いたいオーラを出しているけどどうする? 僕でよかったら相手になるけど?」
マーズが楓の後ろで冷静を装っているがその実非常に戦いたそうにしているアルとルシフェルを見て察したのか二人にも聞こえるように楓にそう提案を持ちかけた。
マーズがそう言った瞬間、アルとルシフェルは本当に嬉しそうに笑いながら楓の前に出てきて楓と同じように握手をし始めている。
確かに、今回アルとルシフェルが戦う場面というのはそこまでなかったかもしれないが、神と戦うなどバルバトスがいる前でそんな話をしていいのかと楓は一瞬心配したが、バルバトスはすでに疲れたように端で目頭を押さえていて話を聞いている様子がなかったのでとりあえずは黙認することにした。
「それは嬉しいね。僕、一度神様と戦って見たかったんだよ。それもこの世界の神と戦えるなんて、嬉しい限りだよ」
「あぁ、先ほどの戦争ではそこまで暴れられなかったからな。よかったら相手をしてもらえると助かる」
「俺は別にいいよ。カエデくん、いいかな?」
「これから色々と打ち合わせをしたいから俺のクランハウスに着いた時でどうだ? あそこなら多分三人が目一杯暴れても大丈夫だと思うぞ」
「どれだけ強力な結界を張っているのさ。まぁいいや。二人もそれでいいかな?」
「あぁ、あそこなら全力で暴れられるしね」
「そうだな。久しぶりに全力で戦えそうだ。セバスも連れて三人で暴れるとするか」
「その前にやることをやらないといけないけどな。多分、近いうちに各国の王が集まり会談が行われるはずだから、それまでに色々と打ち合わせの段取りを決めておかないとな」
帝国軍の兵士たちが王国ではない他の国へと行ってしまった時点で帝国が消滅したことは瞬く間に全世界に伝わるはずなのですぐに王国の責任を追及するために会談が行われる可能性が非常に高いのだ。
先ほど楓も言った通り、それまでにマーズを含めてバルバトスたちと話し合いをして王国の無実を証明しないとまた勘違いをした国に戦争をふっかけられかねないので気を抜くことができないのである。
当然、その会談には楓も着いていく必要があるのだが、これがまた面倒なことにその会談で楓の話題も出てしまう可能性が高いためその対策もしなくてはいけない。
以前まではセバスによって情報統制がなされていた『無限の伝説』だが、今回の一件で他国にも楓たちの存在がバレてしまうので色々言及されないように気をつける必要がある。
最悪なのは「楓たちを一つの国に置いておくのは良くない。自分たちの国の面倒ごとにも協力しろ!」などと言われてしまうことだ。
ないとは思うがそれで『無限の伝説』が強制的に解体されでもしたらたまったものではない。
「まぁ、その辺も含めて要相談だな。会談が行われるまでは早くても一月の余裕はあるだろうが、逆に言えば一月しか時間がないんだ」
「俺をどのタイミングで使うかとかも重要だしね。わかっているとは思うけど、俺はデスハイム王に肩入れする気は毛頭ないからね。王国にも不純物はたくさんいるんだ。カエデくんには悪いけど、俺は王国が滅びる結果になっても止めはしないよ」
「へぇ、なのに俺たちに協力してくれるのか?」
「今回は創造神様とカエデくんの頼みだからね。神界では縦つながりが絶対なんだよ。だから、僕がどう思おうがカエデくんや創造神様には逆らえないってわけさ」
「なるほどな。安心してくださいミルのお父さん。当日は僕も着いていくつもりなので」
「助かる。私も自分の国にふさわしくないものがいることは知っている。だが、まだ完全に排除する手立てがないのも事実だ。その辺のことをマーズ様はおっしゃっているのだろう。この会談が終わったら私も頑張らなくてはいけないな」
バルバトスもマーズの話のどこかに思い当たる節があるのか先ほどとは違い覚悟の決まったような目つきでそう言い会談に備えて日向たちも交えて色々と打ち合わせをすることにしたのであった。




