ギルド長の力 4
「アークさん、準備はOKですか〜?」
「私は大丈夫だよ。それじゃあ、派手に暴れますか!」
二人がそういうとカナンは一瞬で姿を消して、カレンは帝国軍の本陣からだいたい500メートルくらい離れたところから魔法を放つために呪文を唱え始めた。
二人の暴走はすでに騎士団長を通して許可を取ってあるため、先に二人で独断専行という形で帝国軍を攻める事になったのだが、二人で出る以上他の人たちには迷惑をかけないようにカナンもカレンも細心の注意を払いながら敵の動きを予想して攻撃を仕掛け始める。
まず、カナンはさすが暗殺者の長ということだけあって約500メートルの距離がありながらも帝国軍の誰一人にも気づかれることなく本陣の中へと入り込むとそのまま近くで待機している魔物や帝国兵たちを一気に倒し始めた。
「こんにちは〜。王国の暗殺ギルドでギルド長をやってます。カナンで〜す」
カナンは旧友に会ったようなトーンで周囲に自分の名前を名乗ると、笑みを浮かべながら尋常じゃないほどの殺気を周囲に放ち続々と戦闘不能者を出していく。
その間にもしっかりと飛び道具などを使って的確に数を減らしており、一瞬にしてカナンが現れたところは混沌に見舞われてしまった。
カレンと違ってカナンは一つ一つの攻撃に破壊力があるわけではないのだが、その分技術や人の精神面の方を操ったりしながら敵を錯乱させていくのでこういった統率が必要な場面では非常に効果覿面である。
「貴様! どうやってここまで……」
「普通に侵入してきたよ〜。じゃあね」
「なんだ……と」
カナンの出現によりしばらく続いていた混乱もようやく一人の男が出てきた事によって抑えられたのだが、カナンがそれを一瞬で倒してしまったのでまたもやその場は混沌と化してしまい、一人を相手に帝国軍はかなりパニックになっていた。
そもそも、帝国軍の兵士たちからしたら、開戦前に仕掛けてくる輩がいるとは毛頭思っていなかったので二人の奇襲は想定外以外の何物でもなかった。
そんな中で王国でも屈指の暗殺者が現れたとなると一般兵ではどうしようもないのである。
まぁ、カナンもそれを狙ってこの場で暴れているというのもあるのだが、今の帝国兵には一目散に逃げるか無謀にも叫びながらカナンに向かって突進してくるかの二択なのでだいぶ楽にカナンも数を減らすことができている。
カナンは他の人から見たら「どこにそれだけの武器を仕込める場所があるんだ⁉︎」と小一時間は問い詰められそうなほど懐から武器を取り出すとそれを逃げまとう帝国兵の頭めがけてドンドンと投げていく。
どうやら、小型のナイフには毒が塗ってあるようで掠っただけでもしばらくは動けなくなるようでカナンはそれを生かして一本のナイフで五人連続で同じ場所をかすらせて一気に動けなくさせていたりして、楓が見てもすごいなと思ってしまうほど動きが精錬されていた。
「さーて、そろそろアークさんの方も派手に動き始める頃かな」
一通り周囲の敵を一掃したカナンは短剣を手でクルクルと回しながらカレンの魔法が直撃するであろうところを見ながらそんなことを呟くのであった。
「よーし。カナンくんのおかげで帝国軍の意識が別の方向に行っている間に、私も一発どかーんとやっちゃわないとね」
『お願いですから人間の範囲でお願いしますよ?』
「おや? この声はカエデくんか。わかってるって、それよりこれは魔法なのかな?」
『いや、僕のスキルで念話というものを使ってます。これで一応離れていても意思疎通が可能になります』
楓は不思議そうにしているカレンに向かって軽く念話のスキルについて説明をしておいた。
ちなみに、楓のスキルがまだ全知全能に戻らない件は未だに謎でナビにも色々と解析してもらっているのだが、特に全知全能と変化はないということなので楓も気にすることなくいつもと同じようにスキルを使用している。
その辺は考えても仕方のない部分なのでとりあえず変化が起こるまでは楓も放置する事になった。
「便利だねー。それより、まぁ見ててよ。いきなり念話をしてきたところを見ると、本当に私たちの姿が見えているんでしょ?」
『えぇ、今カレンさんは絶賛魔法を放つ準備中ですよね。アルが見惚れてましたよ?』
楓がそう言った瞬間、後ろの方でアルが「ちょ、何を言ってるんだい⁉︎」とかなり焦っている様子だったが楓はあえてアルのその音をシャットアウトしカレンには聞こえないようにしておいた。
まさに悪魔の所業である。
「ふふっ、アルにありがとー! ってお礼を言っておいてくれると嬉しいな」
『わかりました。後で言っておきますね』
「うん。さて、君達もみてくれてるんだったら、ちょっと派手めに魔法を放っちゃおーっと」
カレンはそういうと先ほどよりも少しだけ魔力を込めてまた詠唱を始めた。
幸い、カナンが陽動をしてくれているおかげでほとんどのものがカレンの存在に気づいていないようだったが、だんだん魔力が一点に集中していくにつれて帝国軍の特に魔法を使うものたちが異変に気付き始めていた。
「でも、もう遅いんだよねー。いけ、炎雷バースト!」
カレンが魔法名を唱えた瞬間、カレンの右手の人差し指から異様なほど濃密な魔力が込められた炎雷が放たれて、帝国軍の本陣へと向かっていった。
なお、発動した直後にカレン自ら「あ、調整失敗しちゃった」と恐ろしいことを呟いていたのだが、それを聞き取ることができたのはスクリーンで見ていた楓たちのみであった。




