様子見 1
「さてさて、ということで各陣営の状況を把握するためにモニターを作成しよう!」
騎士団長が騎士たちの指示に戦場へと戻るのを見送った楓はそんなことを叫びながら空中に大量のモニターを出現させた。
一応敵、味方の両方ともの戦況を把握するために敵陣営の方もモニターで映してある。
「マスター、『人間の範囲』でできること以外はしないのでは?」
「それは戦闘においてな。別にここで謹慎くらってるわけだし、何かやばいことが起きるまでは騎士団長たちに口出ししなかったら大丈夫だろ」
「さすがダーリン。これでしばらくは暇をしないで済む」
楓のモニターを初めて見たルーナやヒストリア、ミリアたちはすごく驚いた様子でモニターを拡大させたり縮小させたりして色々と試していた。
このモニターは楓たち以外には使用できないようになっているので仮に他の騎士たちが通りかかってもただルーナたちが空中で指をスライドさせていることしかわからない。
それもそれでダメなような気がしないでもない楓であるが、端から見ている分には微笑ましい景色なのでそのままにしておいた。
「それで、帝国軍はどんな感じなの?」
「えーっとね。うわっ、すっごい数だねー。なんか気持ち悪い」
テントの準備をしているルミナがモニターを見ている組に現在の帝国軍の状況を聞くと、ミリアが気持ち悪そうにしながら簡単に帝国軍のことを説明する。
ミリアが現在見ているモニターの中には大量の魔物と魔族が高らかに笑いながら進行している様子が映っており、中ではすでに死んでいる人族の姿も見えていた。
その人族とは帝国軍の兵士のようで鎧を装備したまま魔物に食べられているところもあってなかなかグロテスクなことになっていた。
「これ、かえって非効率」
「確かに人数が多いのは利ではあるのだが、使いこなせていなければ邪魔になることが多い。このままいけば王国軍だけでもなんとか凌ぎきることが可能かもしれない」
「ま、そう簡単にはいかないだろうけどな」
楓はそう言いながら一つのモニターを表示させた。
そこにはかつて楓たちのことをことあるごとに邪魔をしてきた勇者たちが見るからに豪華そうな武器を装備していたり、強そうな魔物を使役していたりと並みの冒険者たちでは余裕で蹴散らかされてしまいそうな感じであった。
しかも、何が面倒臭いってよほど帝国でいい待遇を受けているのかあれだけバルバトスに散々言われたのにも関わらずまた増長して周りの兵士をいじめたり、「俺たちは最強だ!」などと叫んで好き勝手なことをしていた。
「本当に、救いようがないな……」
楓は少し苛立ちを覚えながら、いつの間にかそんなことを呟いていた。
勇者たちが救いようのないバカだってことは楓も以前からよくわかっていたことだが、ここまで酷くなっているとは思っていなかった。
「今更だけど、しょうがないよ。いきなり日本から異世界へと転移させられて、その世界で力を得たら誰だってこうなると思うよ。楓くんが特別なだけだよ」
楓の様子が気になったのか日向がテントの設営からいつの間にか抜け出し楓の隣に立ちながら、楓が見ているモニターを覗き込んでそんな感想を言った。
人間には必ず闇の部分がある。
日本にいた時は楓のクラスメイトは皆楓や日向に圧倒されて、輝くことができずにその闇の部分がだんだんと深くなっていっていたのだろう。
その結果がこれである。
他者をいたぶり、人を殺し、辱めることになんの躊躇もないただの人の形をした『魔物』へと成り果ててしまったのだ。
「俺たちは仲間に恵まれたんだと思う。本当に、日向も含めてアルたちには感謝しかないな」
「そうだね……彼らのためにも、早く倒してあげなきゃだね」
「あぁ、これ以上悪行を積ませないためにな」
楓は無意識のうちに日向の手をぎゅっと握ってそう心に決めた。
以前から何度も迷惑をかけられてきた楓であったが、今まではまだ「バカが何かやってるな」程度にしか思っていなかったが、流石に先ほどのモニターの姿を見てしまってはそんな軽い感想だけで終えられるはずもない。
怒りを通り越して勇者たちに哀れみを感じている楓たちはそのまましばらくの間そのモニターをじっと見つめているのであった。
「カエデ、今大丈夫かな?」
「アルか、どうしたんだ?」
「ここのモニター。多分彼らが転生者たちじゃないかな?」
アルが楓のタイミングを見計らって声をかけると、そう言いながら帝国軍の一番奥の主力が集まっているであろうところに雰囲気のある人族が数人椅子に座って会議をしていた。
ちなみに、勇者たちはすでにこちらに侵攻しており主力の中には数えられていない様子であった。
完全にちょっと実力のある捨て石扱いである。
「ぽいな。ありがとう。しばらく観察を頼めるか? 何かあったら連絡を頼む」
「了解。カエデは?」
「俺はせっかくだし気晴らしついでに夕食でも作ってくるよ」
「お、今夜は宴だね」
楓の言葉にアルが嬉しそうな笑みを浮かべながらそれだけ言うと視線を楓からモニターの方へと移し帝国軍の見張りを始めた。
楓もその様子を見届けると歩いてテントの近くまで行き、全員分の夕食を作り始めるのであった。




