不意打ち 2
「楓くん! 楓くん!」
「そ、そんな、旦那様が……貴方っ!」
楓が口から血を流している姿に日向たちは戸惑い、そしていつもより濃密な殺気をカナンに向けて放っているがカナンはどこ吹く風といった様子で手元にあるナイフをいじっていた。
「ふむ、さすがカエデさんの奥さんたちだな〜愛しの旦那様が刺されても泣き叫ばずにそこまで濃密な殺気を放つことができる。これは素晴らしいことです〜」
「いい加減にしなさい! あなた、案内人ではなかったのですか⁉︎ お父様も何を平然としているのですか!」
「ミル下がっていなさい。私たちで前衛を務める。ミルたちは後ろで援護を頼むわ。ルーナ、いくよ!」
「あぁ、よくもカエデを!」
ミルはすでに神話級の弓を取り出しており、泣いてはいないが冷静かと言われれば誰がどう見ても冷静ではないだろう。
それを察したルミナがミルを落ち着かせ本来の役割を果たすようにと一度後ろへと下がらせて前衛組でカナンを殺そうと一気に距離を縮める。その際にルーナたちも不意に神話級の武器を取り出しているのだがらルーナたちも冷静ではないのだろう。
ミリアも日向たちと一緒にカナンを殺そうと魔法を発動させているところをみるとミリアもかなりきれている様子だった。
唯一、女性陣の中でナビだけがカナンのことを攻撃する様子なく日向たちのことを黙って見ていたが、日向たちはそれに構うことなく攻撃を仕掛けようと今にも行動に移そうとしていた。
「ん〜戦いにおいて冷静を保てないのは死を意味しているよ〜、カエデさん、ちょっと奥さんたち単純すぎるよ〜」
「そうみたいだな」
「「「「「え?」」」」」
カナンが楓に話しかけると、先ほどまで血を吐いて倒れていた楓が平然とた様子でカナンに返事をした。
まさか起き上がってくるとは思っていなかったのか、日向たちの攻撃の手が一斉に止んで全員楓のことを心配そうに見ていたが楓は無事だと手をひらひらさせて日向たちの元へと向かった。
「俺がナイフ一本で死ぬわけないだろ。カナンが何か試したそうだったから茶番に乗ったんだ」
「さすがカエデさんですね〜俺の意図に一瞬で気づき、あえて攻撃を喰らいわざと血を吐く。カエデさんは暗殺者の才能もあるみたいですね〜」
楓が日向たちにネタを明かすとそれに同調するようにカナンも楓の言っていたことを認め、楓のことを暗殺者という目線から褒め出した。
「それに比べて、ヒナタさんたちは単純すぎです〜、あの場で泣かなかったのはさすがですが、冷静は保てませんでしたね〜」
いまいち状況を読み込めていない日向たちだったが、カナンの一言でうっと悔しそうにしながらカナンのことを睨んでいる。
だが、カナンの言っていることは全て正しいので何一つ言い返すことなく唇を噛んだり肩を震わせたりしてそれぞれかなり悔しがっている様子だった。
ここにきてミルは先ほどバルバトスが冷静でいた理由を察し、かつナビやアル、ルシフェルたちが焦らずに日向たちのことを見ていたことを思い出した。
「まさか、ナビは気づいていたの?」
「はい、ですが日向たちに伝えようとした瞬間念話でマスターに止められて……ごめんなさい」
「楓くん、それ本当?」
「あぁ、これはカナンからの警告だからな。ナビと俺はつながっているから無事なのが一発で知られたから黙ってもらうように言ったんだ。そもそも、傲慢に聞こえるかもしれないが俺が傷つくはずがないだろ?」
他の者が言おうものなら痛い奴としか思われない言葉も楓なら納得せざるを得ない。
日向たちは楓がステータス∞だと知っているので冷静になっていれさえすれば楓がわざと攻撃を食らったことくらいわかっていたはずなのだが、突発的に楓がやられてしまった姿を見て冷静さを失ってしまいそこまで頭が回らなかったようだ。
「か・え・で・く・ん。ちょっとお話があります」
「ですね。旦那様に少しお話ししなければいけないことができました」
「そうね。さ、カエデ、こっちにきなさい」
そんなことを考えながら、ドヤ顔でもう一度日向たちのことを注意しようとすると、そこには青筋を浮かべた日向たちが仁王立ちで立っており、笑ってはいるのだがそれが意味通りの笑っているのではないと楓もすぐにわかり背筋がスーッと冷たくなっていく。
「あ、あの……もしかして、怒ってる?」
「当たり前でしょ! 私たちがどれだけ心配したと思ってるの! そこに正座!」
「はい!」
日向の有無を言わさぬ怒声に楓はなすすべなく、他の騎士やバルバトスが見ている前で日向はもちろんのことナビを除いた妻全員にかなり怒られてしまった。
その中にはミリアも当然のように含まれており、いつもは小動物的な可愛さがあるのにもかかわらず、今は楓でも怖いと思うほどいい笑顔を浮かべながら楓のことを怒っている。
「国王様、あれがこの国最強ですか〜?」
「ま、まぁな。私もカエデのあんな姿を見たのは初めてだ」
「どれだけ強くても自分の愛する妻の前ではなすすべなしってことですね〜」
「ははっ、カエデが怒られてるね」
「ふっはっは! いつになく情けない姿だな」
「ちょっと、助けてもらえませんかね!」
「楓くん!」
「はい! ごめんなさい!」
そのまま三十分ほどかなりの人が楓たちのことを見ているにもかかわらず日向たちの説教が終わることなく、その後楓はかなり恥ずかしい思いをすることになったのであった。




