不意打ち 1
「よし、行くか」
「「「「「おー!」」」」」
楓の声に日向たち女性陣が元気よく反応した。
朝食を食べ終わった後、全員準備万端ということでそのまますぐに出発することになった。ちなみに、先ほど全員に昨日楓が作った武器を渡したのだがアリウスたち魔王候補以外その武器の性能にかなり萎縮しているようだった。
流石に魔王候補となると達人級くらいなら見たことくらいはあるのかそこまで驚いている様子はなかったが、それでも自分がそれを使えるとは思っていなかったようで嬉しそうではあった。
武器も充実して、楓たちのやる気も十分ということで楓は日向たちの元気な反応を聞いて笑顔になりながら一度王城の方へと転移していくのであった。
「カエデです。昨日バルバトス様に任務を仰せつかり案内人を紹介していただけるとのことでしたので足を運ばせていただきました」
「ほ、本当にカエデ様だ……後ろの人たちは『無限の伝説』のメンバーの方々ですよね! あ、あのもしよろしければサインをいただけませんか!」
「喜んで」
楓を知るものが見れば「誰だ?」と言われかねないような爽やかな笑みを浮かべているが、日向たちも空気を読んで特に突っ込むことなく静かに楓たちのことを見ていた。
若干アリウスたちが笑っていたのが楓の視界の端で映っていたのだが全てスルーである。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます! 一生の宝物にしましゅ!」
騎士は楓から色紙を受け取ると呂律もうまく回らないほど喜びながら楓にお礼を言う。
色紙一枚でここまで喜ばれるなど楓も思っていなかったので思わず苦笑いを浮かべてしまうが騎士が喜んでくれているのであれば問題ない。
「あ、ありがとうございます。それで、案内人の方は……」
「は! 国王様からカエデ様方がお見えになられたら通すようにと仰せつかっておりますので中庭でお待ちください」
「わかりました。門番、頑張ってくださいね」
楓は最後にそれだけ言い残すと日向たちを連れて中庭の方へと向かうことにした。
楓に労いの言葉をかけてもらった騎士は嬉しさのあまり目に涙を浮かべて喜んでいたが、あまり過剰に反応しすぎると嫌な奴だと思われかねないのでそのまま黙って通り過ぎることにした。
「楓くん、俳優さんみたいだったね」
「勘弁してくれ。未だにちょっとむず痒いんだから」
「旦那様はもっと堂々とするべきです。先ほどの笑みは素晴らしかったのに……」
「そう? 私は普段のカエデを知っているせいか笑わないようにするのに必死だったわよ」
「私もルミナさんの意見に同感です」
「好き勝手言いやがって……」
日向やミルには先ほどの外行きの対応は好評だったようだが、ルミナとナビには気持ち悪がられてしまった。
楓も初対面の人や敬意を示さないといけない人には一応礼儀スキルを使用して失礼に当たらないように気をつけているのだが、実際のところスキルを使っている楓本人もどこか不自然だなと思うところはあった。
そんなことを話し合っていると、王城の方から大量の騎士を護衛に連れてバルバトスと王妃様、そしてもう一人盗賊のような見た目の男性が楓たちの方へと近づいてきた。
「おはよう、カエデ達今日はありがとう。本来冒険者はこういった戦争には強制参加ではないのだが、カエデ達には半強制的に戦争に出てもらうことになってしまった」
「おはようございます。別に気にしていませんよ。どのみち参加する予定でしたから。そちらの方が僕たちの案内人ですか?」
「あぁ、腕は確かだしカエデ達の案内人にはもってこいだと思ってな」
「よろしく〜、俺の名前はカナンって言うんだ。この国の暗殺ギルドのトップを任されていまーす」
「へぇ」
バルバトスに促されて一歩前に出てきて楓たちに挨拶をしたのはカナンという暗殺ギルドで一番偉い人物のようだ。
カナンの自己紹介を聞いて楓とアル、ルシフェルにセバス以外のものはあからさまにカナンに対して警戒をしているようだったがその様子を見てカナンは気にした様子なくむしろ面白そうにしながら楓たちのことをよく観察していた。
その目つきはまさに暗殺者といった風格が漂っており、見るからに戦える奴だということがわかる。
「ナビ、お前はそこまで警戒する必要があるのか?」
「私の力はほとんどマスターにお返ししましたよ。今は日向達と同じくらいかそれよりちょっと強いくらいです。あんな力私では扱いきれませんし、私たちはみんなで強くなっていくのがいいですから」
「あー、それは悪かったな」
ナビは以前楓に召喚された際に楓から莫大な力を与えられていたのだが、どうやらうまく扱えないとわかったのか一度日向たちと同じくらいにまでステータスを下げてみんなと一緒に強くなっていくようだ。
そのことを聞いてナビも警戒している理由がわかったが楓にしたら初対面の、しかも案内人になってくれた相手に対して少々失礼ではないかと思ってしまう。
「それはカエデが強いからだ。私たちでも勝てはするだろうが警戒を解くと暗殺者は何をしてくるかわからないからな」
「ダーリンはそのままでいいけど、私たちは違うってことだよ」
「なるほどなー、っと身内が申し訳ない。私の名前は楓と言います。案内人よろしくお願いしますね」
楓がカナンに対して挨拶をし握手をしようと手をカナンの方に差し伸べた瞬間、カナンは楓にむけてナイフを投擲してきた。
全く予想していなかったのか、騎士たちは焦ってカナンを止めようとしたが楓に向けて投げられたナイフはそのまま一直線に突き進み楓の心臓にブスリとナイフが突き刺さるのだった。
血を吹き出して倒れる楓に、王城の中庭では時が止まったように静寂に包まれたのであった。




