説明 2
「ふぅ、危なかった……」
日向たちのイチャイチャタイムが終了すると、楓はすぐにミリアの部屋を退出し自分の部屋へと戻ることにした。
楓の部屋にはメイドたちがいる可能性もあったのだが、結果的に楓が部屋へと入るとそこには布団が綺麗に整えてあるだけでメイドたちの姿は見えなかった。
楓も十分以上理性との戦いを強いられたことによって精神的な疲労が凄まじく、着替えることなくベッドに倒れこんでしまう。
「守るべき大切な人も一人増えたことだし、頑張らないとな。魔界のこと、戦争のこと、ミリア自身のこと、色々とやるべきことは多いがここが踏ん張りどころだな」
楓はベッドに寝転がりながら自分に言い聞かせるように独り言をつぶやく。
楓ももう少し告白するのを我慢しておけば色々と楽だったのだが、どうしてもあの場で告白をしておきたかったので楓はこれからミリアと一緒に過ごせるようにいろんな面で頑張らないといけない。
特に、魔界は現在不安定であり魔王候補であるミリアが抜けるのは非常にまずいため、少なくとも正式に結婚と公表するのはもう少し先になってしまうだろう。
もちろん、楓もミリアと早く結婚できるように最善を尽くすつもりだがどうしても魔界を安定させるのには時間がかかってしまうだろうし、その辺は楓も割り切って『できるだけ』早く一緒に居られるようにしていこうと気合いを入れる。
「そういえば、魔族たちは一体どうやって魔界から人界の、それも帝国領へと一気に転移することができたんだ?」
楓は一旦落ち着くと、今回の戦争の事の発端である『どうやって魔族たちが一気に転移することができたのか?』という謎について考えていく。
もちろん、楓が同じことをやれと言われれば余裕でやってしまうだろうが、それは楓だからであって他の魔族や人族が簡単にできるような芸当ではない。30万を一気に転移させるとなると莫大な量の魔力も必要になるし、距離も距離なのでどうしても不安が残ってしまう。
「向こうも何やら隠し球を持っていそうだな……この様子だと適当に偵察をしても気づかれてしまうだろうし、かと言って今から本気で偵察隊を出すのには遅すぎるし……結局臨機応変に対応していかないといけないってことか」
楓は答えの出ない謎に胸をモヤモヤさせながら着替えを済ませると皆がいるであろう食堂へと向かった。
ちなみに、先ほど楓が抱いた疑問は特にバルバトスや日向たちには話すつもりはない。
というのも、仮に話したところで楓ですら答えに行き届かなかったのにバルバトスや日向たちがわかるはずもないだろうし、ただでさえ兵士たちの士気が低いというのにこれ以上兵士たちの士気を下げる理由を作ってしまいメリットもないのでこのまま楓が警戒するだけで止めるつもりである。
そんなことを考えながら食堂の中へと入っていくとそこでは全員席についており後は楓を待つだけとなっていた。
いつの間にか日向たちもパジャマ姿から戦う用の服装へと変わっていたし、ジャンやアリウスたちも同じように朝から気合い十分といった様子だった。
「あ、あの、ご主人様……」
楓が急いで席につこうとすると、後ろから今にも泣きそうな表情をしているアウラが楓のことを呼び止めた。
「アウラか。おはよう。昨日はよく眠れたか?」
「は、はい! ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございませんでした! 今は他の四人は別の仕事をしているので私が代表でご主人様に謝らせてください!」
どうやら、アウラたち五人は昨日のことをかなり気にしているらしく、五人とも朝からほとんど仕事に手がつかない状態になっているようだ。
実際アウラもいつもは完璧に着こなしているメイド服が少しよれっとしていて、楓もアウラがめちゃくちゃ反省していることがよくわかった。
「全然気にしてないよ。その様子じゃあ他のみんなも昨日のことを気にしているな?」
「え、えっと、はい。サクラなんて今朝ご主人様のベッドで大泣きしてました……」
「そ、そうか……」
サラッと同僚の恥ずかしいことを暴露したアウラには楓も驚いてしまったがアウラ本人はそれどころではないのだろう。
実際今の暴露も全く悪気があったわけではないようで、アウラから害意的なものは一切感じられなかった。
サクラといえばメイドの中でもしっかりしたお姉さんキャラだと楓も思っていたのだが、意外と感情豊かなようだ。楓はサクラの意外な一面を知れて嬉しいような申し訳ないような感情に苛まれてしまうが今は目の前で落ち込んでいるアウラをなんとかするのが先ということでできるだけ刺激をしないように慎重に言葉を選びながら楓はアウラに声をかける。
「そ、その。俺はなんとも思ってないから。毎日忙しい仕事を文句の一つも言わないでこなしてくれているアウラたちには感謝すれど怒ったり憎んだりすることは絶対にないよ。それに、昨日お酒を出したのは俺だし、こうなることを予想しておくべきだった。ごめんな」
「そ、そんな! ご主人様は何も悪くなくて、私たちが!」
「そっか、ありがとな。今アウラがそういってくれたように俺もアウラたちが悪いとは一切思ってないんだ。誰にだって失敗はある。それに、よって寝落ちしたぐらい可愛いもんじゃないか。そこでニヤニヤしている赤髪と白髪より全然可愛いよ」
楓は後ろでニヤニヤしている赤髪ことアルと白髮ことルシフェルのことを指差しながらアウラの頭を軽くなでる。
すると、アウラもクスリと笑って目に浮かんでいた涙を拭いて「ありがとうございます」と楓に向かってお礼をいってきたのでそのままサクラたちにも怒っていないことを伝えるように頼んで自分の席へと座った。
「なかなかメイド思いのようだな」
「怒るほどのことでもなかったしな」
「そうか」
席に着く際に隣に座っていたアリウスからそんなことを言われるが楓からすれば逆にアウラたちに気を使わせて悪いなとしか思っていなかったので特に威張ることなくそう話した。
アリウスもだいたい答えがわかっていたようで楓の返事を聞くと静かに頷くだけでそれ以降、特にアウラたちについて話すことはなく、そのまま楓たちは戦争前最後のクランハウスでの朝食を楽しむのであった。




