嫌な予感 2
「カー君、この人たち誰ー?」
「俺の妻とクランハウスのメイドをしてくれている人たち、そしてこの人たちがこの村の村長さんと巫女のお父さんだ」
楓が異空間の中に入るとそこでは日向達の姿を見て不思議そうにしているミリアとなぜここに魔族がいるのか理解していないジャン達の姿があった。
日向を含め楓の妻達やメイド達はそこまで魔族に対して嫌悪感を抱いている様子はなかったが、流石にジャンとジルは魔王のこともあって魔族そのものをよく思っていないのか険悪な雰囲気が流れていた。
「カエデ、これはどう言うことだ?」
「彼らは次の魔王とその補佐達です。今回の件でも協力してくれた彼らは信用できますし、それに彼らは僕たちとの戦いを望んでいない者達です」
楓はあからさまに不機嫌になっているジャンにしっかりと説明するためにアリウス達のことを大雑把に紹介した。
最初はジャンも険しい顔をしていたが、楓の話を聞いてアリウス達も嘘を言っている様子はないと分かったのかジャンもジルも機嫌が直り普通に会話ができるほどになっていた。
「……そうか。色々と助けられたようだな。ありがとう。仇を討ってくれて」
「いや、主に活躍したのはカエデ達だ。私たちはその手伝いをしたまでだ」
「それでも、本当にありがとう。この様子だと新しい魔王には期待できそうだ」
「それはありがたいな。また、色々と頼む」
アリウスとジャンはそう言って硬い握手を交わした。
どちらも根はとてもいい人物なのですぐに理解し合うことができたのかすでに種族による差別などをすることはなく互いに尊重しあっている感じである。
「っと、それで私たちをこの部屋に呼んだ理由を話してもらおうか」
アリウスはひと段落つくと思い出したように楓に話の本題を話すように促した。
きっとアリウスは大体察していることだろうが、日向達はまず何があったかすら知らないのであえて自分も知らない程で話を進めることにしたらしい。
楓への配慮だと思うが、こう言うところはすごいなと思う楓であった。
「そうだったな。さっき魔界でアリウス達と誰が魔王になるか? とか色々話し合いをしていたんだけど、そこで一つ妙なことに気づいたんだ」
「妙なこと?」
流石にまだ話の内容がわからない日向達は不思議そうに首を傾げながら楓の話を静かに聞いていた。
逆にミリア達はすでに大体これからすべきことを知っているからか自分の武器を取り出して丁寧に磨いていた。ちなみに、ミリア達の護衛達はまだ察せていないのか日向達と同じように首を傾げていた。
この時点で察しの良さや頭の良さで魔王候補のアリウス達と大きな壁があるようだった。
「あぁ、話の途中でミリアに聞いたんだけど、俺たちがいた魔界には魔族が人族の国の五つから六つほどの人数の魔族がいるらしいんだ。だけど、俺が探索魔法で大体の数を数えてみたらそんなに人数はいなかったんだ。せいぜい人族の国三つから四つってところだった」
「なるほど……」
この時点で日向達、ジャン、ジルはある一つの可能性にたどり着いたのか険しい顔つきになった。
察しの良さや頭の回転の良さはさすがだなと楓は思いながらもまだ分かっていないメイドや魔族の護衛達のために楓が考えている最悪の可能性の答え合わせをする。
「そう、魔族の数が足りなかったんだ。魔王城にも数はいたがそれでもたかが知れていた。言ったら、魔王城にいた以上の魔族の姿が魔界から消えていたんだ。そして、この前俺たちはその予兆を感じ取っていた」
「……まさか、帝国と共闘している?」
「正解だ。サクラ。俺の予想では、魔族と帝国が共闘している可能性があるんだ」
メイドの中で一番頭の回るサクラが楓の言葉を引き継いで答えを言い当てた。
そう、以前魔物が大量発生した時の話だがその時の黒幕が帝国の貴族の仕業だったのだ。その時は貴族の独断ということで片付けられていたが、本当は帝国自体とつながっていたとしたらこのタイミングで魔族の姿が魔界から消えているのも説明できる。
「現に、調べてみたところ現在帝国軍と魔族の総数約5万、魔物の数30万がデスハイム王国へと侵攻している途中だ。デスハイム王国も帝国の進軍は把握しているらしく全勢力を最前線に配置していつでも戦える準備ができているな。2勢力がぶつかり合うまであと2、3日と言ったところだと思う」
「なるほど、だからそこまで焦ってなかったんだね。てっきり現在進行形でデスハイム王国に被害が出ているんだと思ってた」
日向は安心したようにフッと息を吐きながらそう言う。
ミルたちも日向と同じ気持ちだったのか日向の発言に頷いており先ほどのピリッとした緊張が少しだけほぐれた気がした、
「流石にそうなれば俺もここまで落ち着いていないさ。ただ、あまり楽観視もしていない」
「え、でも私たちがいたらなんとかなるんじゃない?」
「そうでもない。確かに俺たちはかなり強いだろう。でも、そのせいで周りに被害が出る可能性がある。考えてみてくれ。一気に1万人の魔族が襲ってきたら。対処はできるだろうがそうなればかなり強力な魔法を使わなくてはいけない。そうなれば、魔族は倒せるだろうが、王都も無事では済まない」
ルミナの言葉に楓はわかりやすく説明をする。
今回、何が厄介かというと相手の数がかなり多いところだ。これが単体の強い魔族が少数だったのなら楓が一瞬で倒せばいいのだが、今回はそんなことはできない。
正直楓が後で全て修復したらなんとかなる気もするのだが、楓としてもまだそこまでの力を解放したことがなくどうなるかわからないためあまりそう言った神の領域の力を使いすぎる事態は避けたかった。
「とりあえず、どうするにしても一旦王都に戻らないといけませんね。お父様にも色々と話を聞かなければいけませんし」
「だな。ってことでジャンさんとジルさんには……」
「俺たちもいく。娘やその婿にだけ戦場に立たせるわけにはいかない」
「でも、危険ですよ?」
「安心しろ。この前の戦いで全てを見せたと思ったら大間違いだぞ。腐ってもこの村の実力者なんだ。少しくらいは協力できるだろう」
「だね。あんまり、僕たちを舐めないでね? ま、そう言ってもカエデ君には勝てないだろうけどね」
それでもジルもついていくこと自体には意義がないのかジャンと一緒について来る気満々だった。
ジャンたちも嘘を言っている様子はないので楓はジャンたちの参加も許可して、後ジャンの希望により以前一緒に戦ったシンとデルタも連れていくことになった。
二人も楓とジャンの話を聞いてむしろ嬉しそうにしながら準備をし始めたので1時間後にジャンの家に集合ということで一旦会議を終了することにして楓たちもそれぞれ準備を始めることにしたのであった。




