嫌な予感 1
「楓くんだ! おかえり、意外と早かったね。後ろの人は魔族の人たち?」
楓が村長の家の前に転移するとたまたま日向が楓たちのことを発見し、嬉しそうな様子で楓たちの帰りを喜んでくれた。
楓も1日ぶりの日向の姿に思わずギュッと抱きしめてしまうが、すぐにはっと急ぎの用があることを思い出して日向にミルたちを呼んできてもらうことにした。
どうやら、魔界とこの村とでは時間の進み具合が微妙に違うようで先ほど魔界は夜のはずだったのだが村の方は普通に日が照っており他の天狐族の姿もちらほら見ることができた。その際に皆魔族の姿を見てぎょっとしていたがそばに楓たちがいることを確認すると安心したように息を吐いてその場から離れていった。
「ただいま日向。あぁっと、それより悪い日向。ミルたちを連れてきてくれるか? 後はジャンさんたちもいたら呼んできてくれ」
「わかった。すぐ呼んでくるね」
日向も楓が急いでいることは大体察することができるのかすぐに走って家の中へと入っていった。
どうせ楓も家の中に入るのだが先に色々と準備をする必要があるため日向にミルたちを呼んできてもらうことにしたのだ。
「よっと。簡単に空間魔法を使って部屋を作ってみたけどこんなので問題ないかな?」
「カー君、本当にすごいんだね。私たちは魔王様との戦いを直接見ていなかったからあれだけど、こんなの見せられたら信じる他ないね」
「空間を捻じ曲げて新しい部屋を創造した? 確かにすごいですが、一体なぜ……」
ミリアは単純に楓が簡単に空間魔法を使用したことに感心した様子だったが、そのそばにいたアインが不思議そうにしながら楓になぜ空間魔法で部屋を作る必要があったのかを聞いてきた。
きっとアインは能力の無駄遣いだとでも言いたいのだろうが、楓にはしっかりと理由があるので問題ない。
「アリウスたち4人だけなら特に部屋を作る必要もなくこの前の応接室で話をすればいいんだけど、今回はそれ以外に護衛の6人もいるだろ? この家が広いといっても流石に20人を超える人数が余裕でまったりできるスペースなんてないんだ。そのための措置ってことだ」
「あー、確かにあそこじゃみんなで話し合いは出来そうにないね。まぁ、そんなに長く話をしている暇はないと思うけど」
ミリアはそう言いながら一番最初に異空間の中へと入っていき中で色々と原理を確かめていた。
さすが魔王候補だっただけあると言うべきか、普段のミリアはどこか抜けているただの女の子って感じだが、楓たちが力の一端を見せるとすぐに目の色が変わったように一つづつ原理を理解しようとしている。
本人は力だけしか取り柄がないといっていたが、楓からすればその洞察眼や妥協しないところも十分ミリアの取り柄なのではないかと思うのであった。
「楓くん。みんなを連れてきたよ」
「ありがとう。とりあえずみんな中に入ってくれるか? 色々とまずいことになっている可能性があるんだ」
楓が扉の前で日向達を待っているとみんなが小走りで楓の元までやってきた。
楓の顔を見た瞬間日向以外の女性陣は嬉しそうに頬を緩めており楓は思わず先ほどのように抱きしめたい衝動に駆られてしまうが今はそれどころではないということでぐっと我慢をして日向達も異空間の中へと入ってもらうことにした。
ちなみに、アルやアリウス達には先に異空間の中へと入ってもらっており中で色々と準備をしてもらっていた。
若干魔族の護衛達がアリウス達にも雑用をさせることをよく思っていないのか顔を顰めていたが楓は無視してアリウス達にもお願いすることにした。本人達は楓に頼られて嬉しいのか特にミリアが張り切ってアル達と一緒に椅子を並べたりコップの準備をしたりしていたので護衛達もそれ以上何も言わずに黙々とセバスの言う通りに動いていた。
「カエデ、魔王は?」
最後に、ジャンとジルが異空間の中へと入れば楓も後から追おうとしたのだがその前にジャンが楓の前に立ち魔王のことを軽く聞いてきた。
「倒してきましたよ。しっかりと、ルーナ達の分まで」
楓はそんなジャンに向かってギュッと拳を作りながらジャンの前に持っていくとジャンは何か憑き物が落ちたように肩の力を抜いて楓の拳に自分の拳を合わせた。
ルーナ達の分まで、その言葉の中にはジャンとジル、そして村の人たちも入っておりジャンもそれに気づいているのか本当に嬉しそうに、だが目に涙を浮かべながら改めて楓の方をしっかりと見据えた。
「そうか……今は何やらカエデも急いでいるように見えるためこれで済まさせてもらうが、本当にありがとう」
ジャンはそういって楓に向かってゆっくりと静かに頭を下げてお礼を言った。
『ありがとう』
いつも楓も日向達に向かってよく言っているしよく言われる言葉。だがしかし、楓は今までで一番のありがとうを聞けた気がして胸が温かくなるのを感じた。
「いえ、大切な人を失う苦しさって僕はまだ体験したことはないし、するつもりはないのですが、お二人の力になれて本当に良かったです」
「それは頼もしい言葉だ。ルーナ達を頼んだぞ」
「はい。頼まれました」
最後にジャンは楓に向かってそう言うと先ほどとは違った男らしい笑みを浮かべて楓と握手をする。
ジルも後ろから楓とジャンの姿を見てにっこり笑っているところから2人からルーナ達とのことを認めてもらえたようである。その証拠に、最後にジャン達が異空間の中へと入る前に楓はジャンに娘をなかせたら許さんからなと笑いながら言われ、楓はそれにもちろんですと自信満々に答え、2人は満足そうにしていたので大丈夫なのだろう。
これから色々と忙しくなるし大変なことが起こってしまうのだろうが、楓は異空間の中へと入る前に嬉しそうに笑っていたのであった。




