後処理
「で、弁明は?」
日向たちが見事レプリカ版ベヒモスを討伐してから約十分後、楓たちのいる部屋には『無限の伝説』と縄で縛られた教会所属の人間が地面に座っていた。
あの後、日向たちが巫女の呼び出したベヒモスを討伐したことによって教会騎士たちの心をバッキリと折ってしまい自分から縄へ縛られるためにルミナたちの元へと剣を置いて向かっていった。
その時点で大体の教会騎士たちや巫女を捕縛していたことも大きな要因の一つではあるが……
とりあえず、無事楓たちの完勝と言うことで戦いは終了したのだが、現在楓たちは巫女へと尋問と言う名の説教を行なっている最中であった。
「そんなものありませんよ。私は絶対に聖国へ戻り返り咲くのです。そのためならば、この程度の犠牲なんとでm……」
「……お前、人の命をなんだと思ってるんだ?」
「ヒッ⁉︎」
楓の殺気に当てられ巫女は先ほどの余裕の笑みなど元からなかったように怯えて思わず失禁してしまう。
流石に楓も今回は人が何名か死んでいるので、このままルーナたちのいる村へといくわけにもいかずこうして巫女に先ほどの魔道具の仕入れ先などを聞こうとしているのだが、それ以前の問題のようだった。
楓的にもまだ最後のベヒモスを召喚した魔道具は魔力を大幅に使用するだけなので許せるのだが、最初の魔道具はそうはいかない。
あれを使われた時点で意識のなかった教会騎士は人として生きることを許されなくなり、あの場においては死以外に選択肢などなかったのだ。そんな恐ろしい魔道具を使っておいて自分には必要な犠牲だなどとほざいているのは楓も許せなかったし、許すつもりもなかった。
「別に魔物を召喚するのも暗殺者を忍ばせとくのも俺は悪くないと思っている。それも戦術の一つだからだ。ただな、人を操る、それも人の尊厳を奪うような魔道具を使ったことだけはどうしても許せないんだ!」
「い、いくら貴方に言われようとも、私の考えは変わりません。今回は、やられましたが、次は絶対に貴方を利用して差し上げます」
巫女は楓の殺気に当てられ、冷や汗をかきながらも強い意志を込めてそう言い切った。
すでに最初に会った時のような巫女らしさなど全く感じることができず、ただただその目には復讐と執念が篭っているだけだった。当然、その目には反省の色など全くなく、放っておくとまた同じようなことをするのは目の前にいる楓でなくとも分かるだろう。
「次?一体いつ俺がお前に次があるなんて言った?お前は今回、少しやりすぎたな。日向たちの成長の糧となってくれたのはありがたいが、これ以上は害になるだけだ。ってことで『死ね』」
楓が巫女に向かってそう言葉を投げかけると、次の瞬間巫女は糸の切れた人形のように動かなくなってしまった。
それを見た瞬間、隣にいたガウルたちからはものすごい殺気を込められた視線をぶつけられるが、楓は表情を崩すことなくその場から立ち去るために後ろを向いて何重もの結界が張ってある扉に向かって歩き出した。
「楓くん、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ。だけど、ちょっと辛いかな……」
「そっか……大丈夫だよ。楓くんがあぁしなかったらあの人はまた同じことをしてもっと多くの犠牲が出ていたはずだよ?だから、楓くんは悪くないよ」
扉の前で辛そうにしている楓に日向は楓の矛盾した答えを指摘することなく、辛そうにしている楓の頭を自分の胸まで持ってきて優しく撫でる。
ミルたちも楓のことを心配しているようだったがそれでもこの場は日向が適任だろうと誰も声を出すことなく静かに楓の様子を心配している。
先ほど結界の外にいるセバスの部下にことの顛末を説明してもらいに衛兵のところに向かっていったのでしばらくは楓たちも動けないのでタイミング的にも楓の心を落ち着かせるのにはちょうど良かった。
「カッコ悪いな。日向たちも覚悟を決めて同じことをやってたのに、俺だけがこうして参っちゃって」
「仕方がないよ。私たちは戦闘の中で起きたことだし、第一みんな屈強な男ばっかりだったからさ。差別になっちゃうけど、私も女の子を殺さなきゃいけないってなったらこうはいかないよ」
そう、普段なら楓も少し嫌な顔はするもののここまで大きく心が乱れることはなかった。
ただ今回楓が殺めたのは巫女であり、まだ楓たちとも年齢が変わらない少女だったのだ。あの場では仕方がないとはいえ、女性を殺めてしまったことに楓はひどく心を乱されたのだ。
「衛兵が来たみたいだね。カエデ、僕がこの扉を壊してもいいかな?」
「あぁ、頼んだ」
「りょーかい」
アルが外から聞こえる喧騒に気づくと楓に扉を破壊する許可を得るとそのまま拳に魔力と力を込めて殴る。
すると、かなり大きくガラスの割れた様な音が鳴り響き、それと同時に楓たちの目の前にあった扉は粉砕どころか消滅していた。
「あ、貴方たちが閉じ込められていた冒険者たちですか?」
アルが扉を消滅させた先に10数名の衛兵がおり一番先頭には楓たちよりも少し年上だろうと思われる金髪の青年がアルに向かって声をかけてきた。
かなり驚いているようでアルの姿を見た瞬間、衛兵たちは一瞬だが固まってしまったがさすが衛兵をやっているだけのことはありすぐに復活してアルに簡単に事情聴取を行なっていく。
「えぇ、今朝いきなり宿に来て私たちを教会へと呼び出した後ここに閉じ込めて私たちを攻撃してきました。まぁ、すべて返り討ちにしましたけどね」
「そ、そうでしたか。お疲れのところ申し訳ないのですが、とりあえず色々と事情聴取をしなくてはいけないので一度私たちについてきてくれますか?」
「わかりました。あ、基本的に捕縛をしましたが今回の元凶である巫女と狂化した教会騎士たちは始末しておきました」
「そうでしたか。安心してください。貴方たちの目撃情報は私たちの方でも確認しているので、あとは現場検証次第ですが殺めたからといって罪には問われないと思われます」
衛兵のリーダーである金髪の青年はアルに向かって笑顔でそういった。
金髪の青年はアルと話している最中も後ろで日向に抱えられている楓の様子をしっかりと確認していたので、ある程度状況を察することができたのか本当に安心しても大丈夫だと言いながらアルを先頭に楓たちを別の部屋へと案内をすると言って他の衛兵に案内を頼み、日向たちにもその衛兵についていくようにとお願いをする。
日向たちが珍しくメンタルをやられた楓を心配に思いながらも立ち上がり楓とともに全員でその衛兵についていくのであった。




