魔物討伐隊 1
楓達は仲良く全員で朝食を食べ終わると各々自室に戻って遠出の準備をする。
ちなみに、昨日はデートももちろん楽しんでいたが、きちんとこれからの野営に必要な物もしっかり購入しておいたので安心である。
基本的に集団で必要な物は全て買い込んであるので後は自分の服等の個人で必要なものを以前、楓が作って渡したアイテムバッグに仕舞って準備完了だ。
女性陣は準備が必要らしく朝食を食べ終えてから約30分もの時間を掛けていた。
楓達男性陣は5分で準備が済んだ為、セバスを含んだ四人で紅茶を飲んで英気を養っていた。
今回はエリスはもちろんの事セバスにも同行して貰う為、このクランハウスに残るのはメイド達四人だけとなる。
まぁ、四人にはセバスの護衛が付いているので前回の様な誘拐の類はないだろう。そこら辺のチンピラならメイド達の相手にならないので余程の事がない限り大丈夫だろう。
クランハウスも楓の魔改造のお陰で部外者の侵入は100パーセント不可能となっているので侵入等も心配する必要はない。
「おまたせー」
楓達が会議室でゆったりしていると日向達がやってくる。
「全員揃ったか、じゃあ行くか。アウラ達も留守番頼むな」
「はい!行ってらっしゃいませ!!!」
楓達はアウラ達に快く見送られると急ぎめで集合場所に向けて走る。
「ちょっとゆっくりし過ぎたな…」
「だねー、急がないと遅刻しちゃう!」
「日向達のせいだけどな…」
「ごめんなさい…てへっ」
楓は走りながら日向とそんな事を話していたが、最後のテヘッと舌を出しておどけた姿が可愛すぎて楓は顔を少し赤くする。
「ふぅ、ギリ間に合ったな」
「そうですね、危なかったです」
「それにしても多いわね」
「合計で百人ちょっといる様です」
楓達が門の外に着くとそこにはざっと見ても百人を超える冒険者が話をしたり武器の手入れをしたりしていた。
楓達はかなり目立つ集団らしく、かなり他の冒険者からの注目を浴びる。
中には楓達と同じ位の年齢の冒険者も少なくなく、何故か多分に嫉妬を含んだ視線を頂戴した。
「早速面倒臭い…」
「しょうがないよ、楓の周りには世界レベルでトップクラスの女の子が四人もいるんだよ。そこらへんは諦めなよ」
「いいではないかカエデ、美人な妻を持つ夫の性だ。諦めろ」
楓は早々に帰りたい欲が湧き出てくるがアルとルシフェルに仕様がないと言われる。
楓も言われる事は分かるのだがそれでも釈然としない。
居心地が悪いのは確かなのだが…
「全員揃ったか?」
楓達が着いてしばらくすると騎士団を連れた四人の男達が出て来て楓達の前に立った。
「俺達が今回のゴブリンキング討伐のリーダーを務めるカーだ。逆らう奴は徹底的にぶちのめす積もりなのでその積もりで」
四人の冒険者の中で金髪の30代位の男が自己紹介と共にそんな事を言ってきた。
「出来るだけ関わらない様にしよう」
楓は自分のクランメンバーだけに聞こえる声量でそう全員に指示を出す。
「なかなか面倒臭そうなのが出て来たね」
「Aランクというなまじ力を持っているだけに傲慢になり易い。あの状態が一番面倒臭いな」
アルとルシフェルはああいったタイプの奴を見て来たのか心底面倒臭そうにため息を吐く。
が、Aランク冒険者はそんな事を思われてるとは露とも知らないとでも言いたげに再度傲慢な言葉を他の冒険者に放つ。
「お前らは俺達Aランク冒険者の足元にも及ばない雑魚だ。俺達がゴブリンキングを倒している間、お前達は怯えてゴブリンでも狩っていればいいさ。あぁ、女は大歓迎だぞ?これからしばらく野営は続くんだ。俺達の様な将来が安定した奴に媚を売っとくと得するぞ?」
「俺、あいつら無理」
「安心して下さい。私達も無理です」
楓が顔をしかめながらそう言うとミルも同調する様に顔をしかめて腕をさすりながらAランク冒険者を拒絶する。
他の冒険者を見ると嫌そうな顔をしている者と仕様がないと諦めている者、それと何とかしておこぼれを貰おうと媚を売っている者と大きく三つに分かれている。
楓達は言わずもがな嫌な顔をしているグループに入る訳だが意外とこのグループは少なかった。
「さて、俺のSランク昇格の為の踏み台としてゴブリンキングを倒しに行こうか」
最後に、Aランク冒険者がそう言って先陣を切ってゴブリンキングのいる森へと向かう。
Aランク冒険者が先陣を切ったお陰か他の冒険者達はそれを追って歩いていく。
楓達なら移動速度が普通の人のそれを軽く凌駕している為、一日で着くだろうがこのペースで行けば三日は掛かるだろう速度だ。
「はぁ、終始憂鬱だ…」
「楓くん、さっきからマイナス発言しかしてないけど大丈夫?」
「ご主人様…あいつを殺りますか?」
「いや…」
楓がナーバスになっているとエリスの背中から黒いオーラが出て来て楓に物騒な提案をしてくる。
確かに楓達の前で意気揚々としているAランク冒険者を見ているとそれも悪くないかもと言った黒い考えがよぎってくるが、まだ実害があった訳ではないので思いとどまった。
「カエデ、いつになくしんどそうだね」
「あぁ、こうもむさ苦しいのが多いと気分も病んでくる…」
アルはいつもと変わらない様子で楓をからかうが楓はそれすらも反応するのに時間がかかった。
「これは重症だね…」
最後に、アルは苦笑を浮かべながらそう呟くのであった。




